94.三つの不滅の魂に宿る永遠の夢
第2222年、月が沈まぬ都市にて
夜は…とっくに落ちていた。
西暦2222年の首都——その遥か下に広がる都市は、まるでコンクリートと電子に圧縮された銀河。
だが、俺の居る場所だけは別世界のように静寂だった。
テクノピラミッドの最上階、壁のない空間。
透明なガラスに囲まれた部屋に、人工月と…俺が第九天界から持ち帰った神光が交差する。
星の光が、音のように脈打つ。
都市に響くエネルギーの波動は、巨大な心拍のように遅く、重く、魂の底から孤独を押し返す。
俺はただ、座っていた。
何も語らず、何も求めず、ただ“聴く”だけだった。
左側——龍香 絶美。我が心の女神。
その髪は流れる天の川。銀光が微かに揺れ、目は星の深淵を宿し、氷炎のように輝いていた。
瞬きすらしないその瞳が、俺を見つめている。
右側——雷 夢煉。滅びた時代から来た影の女王。
少し離れた場所に座っていたが、その視線は何よりも近かった。
その目には、恐れ、渇望、そして「孤独に慣れた魂」が宿っていた。
俺は、そっと手を差し出した。
命令でも、守護でもない。
ただの——誘いだ。
ふたりは、同時に動いた。
軌道を外れた双星のように、静かに俺へと傾いた。
俺は、ふたりを抱いた。
言葉はいらない。説明もいらない。
ただ、三つの心臓が一つのリズムで鼓動を刻む——その一瞬の真理に、すべてがあった。
月光がガラスを貫き、柔らかく彼女たちの肌に触れた。
龍香は肩を俺に預け、指で俺の胸に円を描く。
その声は、春の波が柳を撫でるように囁く。
> 「あの人がいる今夜も……あの約束、覚えていてくれるの?」
俺は額に口づける。そこには、天界の純神力がまだ微かに流れていた。
> 「約束は……一億の転生を経ても、変わらない。」
> 「最初の混沌の中に光を灯したのは、お前だけだ。」
彼女は答えなかった。
ただ、目を閉じ、一滴の涙を流した。
それが幸福か、解放か……俺の胸に溶けて消えていった。
右を向くと——
雷夢煉が、俺を見つめていた。
その眼差しは、もはや憎悪でも傲慢でもない。
ただ、穏やかな“他人だったはずの優しさ”。
> 「名も……望まない。ただ……追われない場所が、ほしい。」
彼女の声は囁きよりも静かだった。
俺は言葉を返さず、そっとその手に触れた。
その手は冷たかった。世界を失った者の体温だった。
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誰も立ち上がらなかった。
誰も急かさなかった。
ただ、静かに……体温が溶け合っていく。
神、魔、人——三種の氣が、一つの光の波紋に変わる。
まるで、銀河の塵が溶けていくように。
俺は、二つの香りを識別していた。
絶美は——雪解けが炎に触れた時のように澄み、淡く、月の吐息のよう。
夢煉は——嵐の夜に咲く魔花のように濃く、陰を纏い、骨の奥まで引き込む。
もう、どちらの肌が唇に触れたか、わからなかった。
どちらの指が背を撫で、どちらの声が耳に忍び込むのかも。
すべてが境界を失った。
キスは次元を開き、
撫でる手は、太古の記憶を呼び起こす。
---
俺たちは横たわらなかった。
三人の神が、古の神殿で瞑想しているように——ただ座したまま、抱き合っていた。
肌が触れる度、神経が震え、
呼吸が重なる度、俺は「俺」という概念を手放していった。
戦神でも救世主でもなく、
ただ、一つの魂として——
二つの魂に愛され、包まれ、守られていた。
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夢煉の指が、俺の髪をすくい上げる。
その唇が、耳元に触れる。
まるで、霧の囁き。
> 「昔、私に触れた者を殺したことがある……でも今は……あなたに……全部壊されたいの。」
> 「この手で……この目で……この感情のすべてで。」
俺は、彼女を強く抱きしめた。
呼吸が速くなる。
左手で絶美の腰を引き寄せ、
右手で夢煉の首筋を抱いた。
> 「壊しはしない。」俺は囁いた。声は雷雲の底で鳴る雷のように低く、深く。
> 「鎖でも、檻でもなく……俺が知らなかった“愛”というものだけで、ふたりを繋ぎたい。」
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衣服は破かれなかった。
叫び声も、喘ぎもない。
俺たちは、獣のように交わるのではない。
煙のように——形も、色も、名前すら失い、ただ溶け合った。
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胸の中央が発光する。そこは、三界の交差点。
魔気が夢煉の背に濃紫の模様を描き、
絶美の背中には、淡銀の星河が流れていた。
始まりも、終わりもない円環。
上下も、方向も存在しない。
ただ、一つの“舞”だけが存在する。
音楽も言葉もいらない。
肌と脈動と意識と——千の転生が刻んだ記憶だけが、共鳴する。
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交わりの最中——
時間が止まった。
俺の目は、黒穴に吸い込まれるように見開かれた。
過去が見えた。
俺が捨てた女たち。
救えなかった子供たち。
忘れてしまった魂たち。
もっと前も。
天界で鎖に繋がれた龍。
石の墓に囚われた奴隷。
間違った愛で死んだ神。
そして、絶美と夢煉——
どの転生でも、彼女たちは迷い星のように俺の元へやって来た。
そして、俺はいつも……彼女たちを傷つけた。
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ふたりを緩やかに離したとき、
月は天頂にあった。
でも、その光は——もう、冷たくなかった。
部屋は、命の香りで満ちていた。
神も、魔も、人も、もう違わなかった。
---
絶美は、俺の胸に頭を預け、
その手で夢煉の手を強く握る。
理解の証のように。
夢煉はもう泣いていなかった。
目を閉じ、口元には安らぎの笑み。
俺は、小さく、呪文のように呟いた。
> 「これは……俺が決して覚めたくない、唯一の夢だ。」
朝は…太陽もいなければ、鳥のさえずりもない。
霧もない。ただ、人工の光線が千追い千追い――
金属の大気を貫き、俺たちが住まうテクノピラミッドの頂へと射し込む。
俺はここに座っていた――
彼女らの間に, 言葉も動きもなく、ただ外を見つめる。
目の前の風景はまるで無機質な絵画だが、内なる感情の波は荒れ狂っていた。
それは、欲望でも戦意でもない――
三界のエネルギーが一つの肉体で共鳴し、渦巻く潮流だった。
左の肩に、雷 夢煉が寄りかかる。
その黒髪は夜の闇のようで、時折紫の妖光を含む。
冷たい絹のように頬へ垂れ、彼女の吐息は野原の風のように優しいが、闇の余韻を宿していた。
> 「世界は…私を許したことが、ないの」――彼女の囁きは、遠い戦場の亡霊だった。
その声は、無数の戦いの記憶を孕んでいた。
魔界との争い、血と灰の渦、祈りと怒りの狭間。
しかし今の声は、かすれ、透明になっていた。
> 「あなたが魔界を離れてから…
魔族の王家、正義を誇る者たち、天の評議会までもが…
権力のためではなく…私の魔気が“輪廻の門”を開くと見て、狙っていた。」
彼女は顔を上げる。
その瞳は――
月光が底に沈む深淵のようで、永遠に孤高。
> 「でも…私が守ってきたものは、力じゃない。
忘れ去られた魂たち。
震える小鬼たち。
地獄の奥底に囚われた罪人たち。
…私は、彼らを手放せないの。」
彼女の冷たく柔らかい手が、俺の手を強く握る。
千年を越えても死ななかった魂のぬくもり。
> 「ただ…家と呼べる場所が欲しい。
王冠も、名前も要らない――
ただ…二人がいれば、いい。」
その言葉は――
引き絞られた弓が限界まで張られたかのように, 心を揺さぶった。
右を見ると、Long Hương Tuyệt Mỹ(龍香 絶美)が無言で肩を震わせる。
天使の荒天後の蒼い目が、静かに揺れていた。
彼女はゆっくりと歩み寄り、夢煉の肩に手を置く。
> 「もし――誰かが彼女に触れるなら。
神でも、魔でも、聖でも、光の軍でも――
その前に、まず私を倒さねばならない。」
彼女は首を振らずに言葉を紡ぐ。
その声は命令のように世界に刻まれていく。
> 「それでも私一人では足りないなら――
夫である彼――空間を裂き、三人の天尊を打ち倒した彼――
共に彼女を守ろう。」
俺は黙っていたが――
左手は絶美の、その掌を強く握りしめ、
右手は夢煉をしっかり繋いでいた。
> 「ここにいる。」
「天界が望もうとも、魔族が裏切ろうとも…
彼女を奪うなら、俺を越えなければならない。」
俺は叫ぶでもなく、激情に身を任せるでもなく――
ただ、言った。そして――
塔を包む古代文字が輝きだし、俺の誓いを守護するかのように目覚めた。
夢煉は震える涙を流した――
恐怖や感動ではなく。
ようやく――想ってくれる者がいたのだと知ったから。
> 「もしいつか…私が、私でなくなったら…
魔気に支配され、破壊神よりも恐ろしい“怪物”になったら――
…あなたは、私を殺せる?」
俺は彼女の瞳に深く視線を沈める――
そこは闇と光が銀河のように渦巻く深海。
俺は伏せて、彼女の額に唇を重ねた。
> 「殺さない――
抱く。そして、世界を歪ませて――
お前を、ありのままに受け入れさせる。」
その一言で――
すべての境界が崩れた。
善と悪。神と魔。倫理と無常。
何もなくなった。ただ――
三つの魂が歴史の縁に立ち、共に生き・死ぬ覚悟を誓った。
龍香 絶美は微笑んだ――
まるで氷上に降りた白鳥のように軽やかに。
彼女は俺と夢煉を両腕に引き寄せ、
銀髪は天の川の翼となって、三人を包み込んだ。
紫の光が静かに滴り落ち――
三つの鼓動が、一つのリズムで打ち始める。
儀式も冠も要らない。
我々は永遠の盟約を交わした――
三界を越え、死を超え、神の理すら越えた絆。
外の光がゆっくり色を変える――
純白から藍、そして紫へ。
最後は――
夢煉が昨夜口づけたときの、あの色へ。
俺は知っている――
宇宙が静かに証人となり、
だが――
輪廻の門の向こう深淵で、何かが動き出した。
時空を超え、古代の実体が目を開いたのだ。
その息吹が、時と空間を伝い――
俺たちが座するこの場所へ届いた。
俺の全身で、俺の神魂で感じた――
> 「見られている」
声はなくとも――意志が届いた。
> 「三人は…異常点を作ったのだ」
俺は理解していた――
神と墜ちた天使と魔王の愛は許されてはいけない。
我々は宇宙の法則に抗う異端者。
だが、俺はおそれなかった――
今宵は――俺は孤独ではない。
ピラミッドの透明な層を通して、朝の光が差し込む。
それは神の絹のように天井を流れ、部屋に柔らかな輝きを落とす。
だが、俺にはわかっている――それは本物の夜明けではない。
あの光は、三千丈の高さを誇る人工天蓋が記憶から再現した「偽りの朝」。
ここに住む者たちの記憶に基づく、システム化された“日常”。
記憶が美しくても――偽物ならば、どこか空しい。
俺は立ち上がる。
金属の床から伝わる冷気など、二人の温もりには到底敵わない。
だが、この瞬間は永遠には続かない。
外の世界は動き続けている。
俺たち――夢煉、絶美、そして俺が作り出した“異常点”は、
すでに三界全体の秩序を歪ませ始めている。
俺は振り返る。
夢煉は丸い宝玉のベッドの縁に静かに座っていた。
薄紫のシルクが朝霧のように肌を包み、瞳には人工光が星のように揺れていた。
俺は低く言う。
> 「夢煉。ここに残れ。
このピラミッドには幻影四極結界と龍血陣の中枢柱がある。
今、考えうる限りで…ここが最も安全な場所だ。」
彼女は俺を見つめる。
その瞳には、恐れも恨みもない。
ただ一つ――薄くて壊れそうな霧のような感情が、
その確かな意志を包んでいた。
> 「わかってる。でも…」
唇を軽く噛むその仕草が、俺の記憶を呼び覚ます。
昨夜――彼女の肌の熱さ。
肩を抱いたときの震え。
宝玉の光の下、涙と共に燃え上がった魂の炎。
> 「…重荷になりたくないの。」
俺は一歩近づき、片膝をついて彼女の手を取った。
その手を俺の胸に当てる。
> 「お前は決して重荷じゃない。
俺の血肉だ。
この世界で、俺の片翼なんだ。」
彼女の瞳が潤む。
だが微笑み、囁くように言った。
> 「じゃあ…私は残るわ。
恐怖じゃない。
あなたが戻ってくると、信じてるから。」
俺は彼女の手を強く握り返し、うなずいた。
だが――
彼女の目の奥に言葉にできない不安を見た。
それは疑いではない。
名もなき予感のような何か。
そこへ、絶美が後ろから歩み寄り、冷ややかに言った。
> 「安全が心配じゃないなら…
心配してるのは“後のこと”?」
俺は振り返る。
彼女の口元がゆるみ、からかうような――けれど、
緊張を和らげようとする優しさも感じる。
> 「ねぇ、夢煉。
あなた、自分はもう“うちの夫の女”って言ったけど…
“完全に”そうなったって、自信ある?」
その一言が、場の空気を切り裂く稲妻のように走った。
夢煉の頬が赤く染まる。
唇が微かに震え、顔を背けたが、
その羞恥の色は隠せなかった。
> 「も、もしまだなら…
今夜、完全になる。」
俺は微笑んだ。
欲ではない――
ただ、生きていると実感する心の震え。
> 「夜まで待たなくてもいい。」
「お前が俺を信じた瞬間から――
三界すべてがお前を拒絶しても――
お前は、俺のものだ。」
俺は絶美を見つめた。
> 「そしてお前も。
迷った俺を叱ってくれた。
命を懸けて、俺を闇から引きずり出した唯一の人だ。」
絶美は肩をすくめるように微笑んだ。
> 「でもその代わり――
私だけが、毎日あなたに振り回されてる。」
俺は額を寄せ、声を落とした。
> 「俺たちは…三つで一つ。
一つの運命だ。」
その瞬間――
愛は決して柔な感情ではないと、心から知った。
それは絆。
理も、法も、神と魔の境界すら超える力。
そして、それゆえに――
世界にとっての脅威となる。
俺は再び窓を見る。
外の世界――その気配が変わり始めていた。
> 「行く。」
「何かが近づいている。
三界でも古神族でもない、異質な波動だ。」
絶美の眉が寄る。
> 「“異常点”を誰かが感知したのか?」
俺はうなずく。
> 「一人じゃない。
おそらく…
十三層の地蔵界に封印されていた“あれ”が目覚めた。」
室内の空気が凍る。
夢煉が囁く。
> 「それって…私に関係あるの?」
俺は彼女の目を見つめた。
そして、答えられなかった。
彼女の中にある魔気――
共に精神を交わしても、その核心に触れられない。
それは俺を拒んでいない。
だが――古く、強く、死海のように危険な意志がそこに眠っていた。
> 「たぶん…
でも、俺たち自身が原因かもしれない。」
伏線が静かに締まり始める。
俺は彼女の腹に手を当てる。
ひとつの直感。
絶美が冗談のように言っていた「まだ何も兆しはないわよ」――
それは、本当に冗談だったのか?
――
俺は銀の光の中、部屋を後にする。
後ろには、二人の女が並び立っていた。
黒と白――陰陽の玉のように。
胸の奥に湧く感情は、
失敗でも死でもない。
愛する者たちが、
何かを隠しているのではないかという予感。
そしてそれは――
真実がすべて崩れたそのとき、初めて見えるのかもしれない。
掌から放たれた紫金のオーラは、空間をうねる龍のように舞い、魔と神の極を繋ぐ螺旋となって凝縮されていく――
そして、それはひとつの形を取った。
漆黒の腕輪。
深紫に沈むその輝きは、まるで遥か古の神が流した最後の涙。
俺はそれを手に取り、ゆっくりと雷夢妃の手首に嵌めた。
彼女は一瞬、身体を震わせたが、拒まなかった。
その瞳には…濡れた疑念、柔らかい想い、そして言葉にならぬ哀しみ。
> 「これは《天幻印》。」
「お前の血に眠る《魔心魂種》の波動を封じる印だ。お前を狙う者たちの感知を…欺くための結界でもある。」
さらに――
> 「お前の心を護る。現実の彼方から、お前の名を呼ぶ"あの声"から。」
印をつけた瞬間、手首の魔気が静まり、清らかな風のような氣が彼女の《百会》へと遡った。
その身体は微かに震えた――
恐れではない。これは…「安らぎ」という名の未知。
> 「天龍…この異世界に堕ちてから…」
「誰にも…何もしてもらったことなかったの。…あなただけ。」
返す言葉はない。
ただ、彼女を抱き寄せた。
夢妃は戸惑いながらも、そっと胸元に顔を預けた。
その髪は霞のように柔らかく、月夜の藤花の香りを放っていた。
そのとき――
もう一人の彼女、龍香絶美が近づき、無言で俺の肩にもたれかかった。
両腕を後ろに回し、二人の腰と尻をしっかりと抱きしめる。
それはまるで、天地そのものを抱えるかのような…支配。
> 「またエロい手してる…」
「女に触らんと一日も生きられんの?」
> 「…違う。欲じゃない。」
「触れなければ…"生きている"って、感じられないんだ。」
沈黙ののち、三人の間にふっと笑いがこぼれる。
だがその裏には、それぞれ癒えぬ傷痕が疼いていた。
---
空間を裂く。
時空の原素と記憶を融合した一瞬の転移。
光が足元に咲き、三人の姿は消える――
次の瞬間、我々は2222年の首都、螺旋塔の最上階へと現れた。
足元には、星河のように流れる無数の浮遊車。
頭上には、人工天の星々がゆっくりと巡る。
だがそれは自然の天ではない。
これは《虚象心界》。
全人類の信仰と想念で構築された、"思念宇宙システム"。
魔術が機械を制御し、古の道が運命をプログラムする。
現代の神域。
そして――
俺、天龍。堕ちた神。
ここに「家族」を築こうとしている。
> 「これから…」
「ここが俺の拠点だ。誰も…もうお前に手出しはさせない。夢妃。」
彼女はただ、静かに頷いた。
その唇が震え、今にも涙がこぼれそうだった。
> 「…私は、追われるために生まれたと思ってた。」
「でも今…私は愛されている。護られている。…だから、私も背負いたい。」
俺は額を彼女にそっと触れさせた。
> 「背負うんじゃない。分け合うんだ。」
絶美が後ろで腕を組んで言う:
> 「感動モードはいいけど、順番ってもんがあるでしょ?」
「私は本妻。あんたは側室よ。」
だが夢妃は争わなかった。
ただ、穏やかに微笑んだ。
> 「私は、肩書きなんてどうでもいい。」
「もし争うなら…"彼の心"を奪い合いたい。」
> 「ふふ…面白いじゃない。」
「じゃあ私は、"その心"を監視してあげる。」
絶美が俺の腕に手を絡ませ、胸元を押し付ける。
その吐息は氷のように冷たいのに、肌を焼くように熱い。
> 「…でもね。」
「これ以上女増やしたら、面倒見きれないから。ハーレムはこの人数で十分よ。」
> 「……もし増えるとしたら、それは“大義”のためだ。」
> 「は?大義って何さ、バカ。」
彼女が肘で小突くが、怒ってはいない。
俺はふたりを抱き寄せ、しっかりと引き寄せる。
まるで――
光と闇の狭間、その輪郭を抱き締めるかのように。
---
その瞬間。
人工天のひとつの星が――ふっと消えた。
俺は悟った。
「やつら」が俺の転移座標を特定した。
ステラルの防衛システムはまだ沈黙している。
だが、確かに"逆流の波動"が近づいていた。
それは、古神の霊魂に似た…
「奪われた心」を求めて戻ってくる存在の鼓動。
そして――
今、伏線は収束へ向かっている。
俺が夢妃に嵌めた《天幻印》。
その核には、十三層の封獄から取り出した《魂石》の欠片が埋められていた。
そしてその魔力は、彼女の中の「何か」を目覚めさせつつある――
それはただの魔族の残滓ではない。
《古魔皇》――銀河西部を滅ぼした大魔の"分体"だ。
夢妃の愛は、本物なのか?
それとも――
俺を利用し、《輪廻門》を開かせるための、緩やかな"策略"だったのか?
俺は彼女を見る。
彼女はまだ笑っている。
その手は温かい。
だが――
その微笑みの奥に、見えた。
この世界に属さない「何か」が――
彼女の中に、瞬間…映った。
---
> 【To Be Continued】




