8.伝説の秘境 5
洞窟は深く、かすかな光に包まれていた。
ただ、水滴の落ちる音だけが、永遠に続く時の鼓動のように響いていた。
乾坤倒化経を完全に習得した後、天龍はさらに奥へと歩みを進めた。
白衣は彼の一歩一歩に合わせて静かに揺れ、端整な顔立ちには異様な冷たさが漂っていた。
その瞳にはもはや幼さはなく、深く鋭い光を宿し、まるで絶世の剣のようだった。
突如――
ドンッ!!
空間全体が震えた!
彼の前に、闇の中から巨大な石像が徐々に姿を現した。
それは一頭の黒竜――
黒雲と雷光の中を飛翔するような曲線美、光り輝く鱗、鋭い爪、そして血のように赤い双眸で、まっすぐ彼を見据えていた!
その石像から放たれる圧力は、万山をも押しつぶすかのようで、空気すら凍りつくかに思えた。
天龍は深く息を吸い込み、瞳にわずかな興奮の色を宿した。
――「まさか、これが…『龍魂降天手』か?」
石像の足元には、岩床に深く刻み込まれた古代の文字があった。
「龍魂降天手」
その傍らには、異様な手の型が緻密に刻まれていた。
一つ一つの型に天地を覆う殺気が宿り、指先や手首の動き一つ一つに神龍が舞うかのような力強さが込められていた。
――「これほどまでに…覇道を極めた手技なのか?」
天龍は小さく呟き、胸の高鳴りを抑えきれなかった。
その瞬間――
ドンッ!
石像の口から、濃密な黒煙が突如噴き出し、生きている龍のように一直線に彼へと襲いかかった!
――「!!」
天龍は避ける間もなく、冷たい気流が右手を貫くのを感じた!
バキッ!
まるで手の骨がすべて砕けるかのような音――
――「これが…龍魂の気か?」
掌から走る灼熱の痛みが、心臓と脳髄を貫いた!
全身が今にも爆発しそうなほどに膨れ上がる!
血管は膨張し、経脈は裂け、骨はきしみを上げる――
だが、天龍は拳を強く握りしめ、瞳に燃えるような決意を宿した。
――「この程度で屈するなら、どうして天下を統べられようか!」
ゴロゴロゴロッ!!
体内で雷鳴が轟き、その度に天龍の体は震えた。
経脈は引き裂かれそうになり、血流は逆巻き、骨は音を立ててきしむ――
それでも彼は耐え続け、汗が額から滴り落ちた。
ドンッ!
九天に響き渡るかのような龍の咆哮!
天龍は目を見開いた――
彼の全身は今、淡い黒煙に包まれ、まるで一頭の黒龍が心の中を飛翔しているかのようだった!
――「これが…龍魂の真の姿か?」
天龍はそっと右手を握りしめた――
異様な感覚が満ちあふれてくる。
それは単なる力ではない。
神龍の意志すら血肉に溶け込んだかのような感覚だった!
――「私は…手にしたのだ!!」
天龍は叫んだ。
全身から天を震わすほどの気迫が爆発した!
ドンッ!!
彼は右手を振り上げた!
黒い奔流が洪水のように溢れ出し、神龍の咆哮を伴いながら前方へと撃ち出された!
ドドドドド!!
三丈離れた正面の岩壁が、一瞬にして粉々に砕け散った!
空間が歪み、大地が震える――
その一撃は、まるで一座の山をも粉砕できるかのような破壊力だった!
ドドドン!!
立ち込める土煙が視界を覆い、砕けた岩石の匂いが濃厚に漂っていた。
その中にあっても、天龍はなおも堂々と立っていた。
白衣が風にひらめき、神々しさすら感じさせる冷徹な美貌が薄明かりに浮かび上がる。
彼の瞳は、ぎらりと輝いていた。
——「この力……なんと狂暴なことか!」
右手にはなお、虚空すら貫かんばかりの冷たい黒光が宿っていた。
ドン!
試しに左手を振る——
何も起きない。
右手を振る——
ドン!!
黒い気流が柱となって噴き出し、机ほどもある岩を吹き飛ばした!
——「右手だけが……『龍魂降天手』を操れるのか。」
天龍は眉をひそめ、思索に沈む。
——「ならば……一息一息、歩み一歩ごとに、反射の如く叩き込むのみ。」
決意は鋭い刃のごとく、一切の迷いを許さなかった。
すぐさま天龍は馬歩の姿勢をとり、右手で像の台座に刻まれた図に沿って連続して手技を繰り出し始めた。
ヒュッ!
ドン!
ビシッ!
ドドン!!
繰り出されるたび、空間は裂けるように歪み、黒々とした亀裂が虚空に刻まれる。
一手放つごとに、天龍は自らが「真なる龍魂の力」へと近づいていくのを確かに感じていた。
ドドドドン!
洞窟全体が震え、天井からは細かな破片がぱらぱらと落ちてくる。
汗が背中をびっしょり濡らし、両腕はしびれきっていたが——
天龍は止まらなかった!
右手には、竜の影、雷の影、閃光の影が交錯しはじめていた!
——「まだ足りぬ!」
——「まだ速さが足りぬ!」
——「まだ力が足りぬ!」
己に喝を入れるたび、技はさらに鋭く、さらに烈しくなっていった。
ヒュッ!
ドン!
ドドン!!
今や天龍の身体は黒き気流に包まれ、右手の軌跡は幾重もの残像を描き、
その一つ一つがまるで虚空を引き裂く龍の爪のようであった。
彼の眼差しは——
まるでこの世に舞い戻った魔神のように、冷たく、無情で、そして絶対だった。
―――
洞窟の外——
奇妙な風が吹き荒れ、龍の咆哮のような異様な音を運んでいた。
森深くの鳥たちも驚き、空へと一斉に飛び立つ。
何か凄まじい異変が起きていることを、自然すら察していた。
そして空には、黒雲がたちまち湧き上がり、雷光が走る。
まるで告げるかのように——
一体の『龍魂』が、いま、目覚めようとしている!!
ドン!!
ドン!!
ドン!!
空高く雷鳴が轟き、青紫の閃光が幾重にも瞬き、まるで幾千もの長剣が人間界を突き刺すかのようであった。
その嵐の中心——そこに立つのは、他ならぬ天龍だった!
——「龍魂降天手……体内融合!!」
ドン!!!
彼の身体から黒き奔流が津波のごとく噴き出し、天空へと螺旋を描いて突き上がる!
ゴォォォォ……!
その渦巻く気流の中で、幻影の黒竜が猛々しく咆哮した——
「グォォォォォ!!」
龍の咆哮は雲を貫き、大森林に響き渡り、鳥たちは空から落ち、獣たちは恐れ伏した。
天龍の周囲一帯は、まるで見えざる巨手に握り潰されるかのように、
大地が割れ、岩が砕け、樹木が根こそぎ吹き飛ぶ——
すべては、彼のたった一振りによるものであった!
——「始まったな……」
天龍は呟き、金色に鋭く煌めく眼差しを放つ。
右手を高く掲げる——
掌の中に、漆黒の渦が凝縮し始める!
ドン!!
たった一度、拳を握り締めただけで——
その気流は爆裂し、四方八方へ恐ろしい衝撃波となって弾け飛んだ!
ドドドドン!!!
洞窟全体が音を立てて崩れ落ちる。
だが、白雪のような天龍の姿は、瓦礫の海の中心に微動だにせず立っていた。
まるで、新たな宇宙の核そのものであるかのように——
——「龍魂降天手……」
——「完成した!」
彼は拳をぐっと握りしめた。
その瞬間、血肉の奥底から龍の咆哮が響き渡り、周囲の空気すら戦慄した!
ドン!!
黒き風が天龍の周囲を渦巻き、白衣は大きくはためき、
漆黒の髪は嵐の雲のように空に翻る。
彼の瞳は底知れぬ深淵のごとく、
すでに「龍魂」と一体化した存在——
もはや人間を超えた、異界のものとなっていた!
……
「チリン!」
突如、天龍の脳裏に鈴のような澄んだ音が鳴り響いた。
目の前に文字が浮かび上がる:
> 「おめでとうございます!『龍魂降天手』習得完了。 ランク:無上。 威力:空間を捻じ曲げ、半径三十丈以内の物体を一撃で粉砕可能。 戦意に応じて成長。」
天龍は冷ややかに微笑み、氷の刃のような眼光を放った。
——「よし。」
——「まだ……ほんの始まりにすぎん。」
——「待っているがいい……この天下、すべて我が足下にひれ伏す日を!」
白衣が大きく翻る中、天龍は踵を返し、洞窟のさらに奥へと歩みを進める——
そこには、さらなる逆天の奥義が彼を待ち受けていた!
ここから始まる新たな旅路——
それは、武林を、朝廷を、九天十地をも震え上がらせる伝説の幕開けであった。
その名は——
天龍!
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