77.夜の情――闇に潜む深き策。
闇夜の風は、目に見えぬ刃のように、漆黒の空を斬り裂いた。
曇天の下、冷たい欠け月がまるで神の瞳のように、冥界・天尊教の領地を見下ろしていた。
古塔は闇に溶け込もうとしており、山の麓には揺れる無数の焰──それは、王朝軍が密かに迫っている証。
朱く染まる大殿の中、灯火は震えながらも揺れていた。
その灯りが映し出す、二つの影。
一人は、冷酷で威厳に満ちた女教主。
もう一人──男。妖しく、危うい覇気を纏う存在──天龍。
沈香の椅子に腰かけるのは、朱紅の薄衣を纏った楚芳鈴。
滑らかな肩は月光のように白く、その瞳には厳しさと…かすかな柔らかさが混じっていた。
天龍が前に進み、低く、雷のような声で告げる。
> 「王朝軍は夜明け前に寒雲門へ到達する。残されたのは──数刻だ。
やつらはただ制圧に来るのではない。…完全な殲滅を狙っている。」
楚芳鈴は答えず、ただ静かに立ち、階段を二段下りた。
緩やかに揺れる腰帯が、嵐の中を舞う絹のように波を描く。
「で? 私に…どうしろと?」
声は風のように静か。しかしその眼差しは氷の刃で心を刺す。
「俺は──」
天龍が近づき、彼女の顎をそっと持ち上げた。その瞳を覗き込みながら続ける。
> 「お前が、俺の“妻”として立つことを望む。」
言葉はなかった。
だがその沈黙の中、楚芳鈴の頬に、かすかな紅が浮かぶ。
それは、誰も見たことのない、女帝の“炎”。
---
「…傲慢な男。」
呟くその指は、彼の胸に触れていた。脈打つ鼓動が、彼女の指に響く。
「そしてお前は──」
天龍は口元で笑い、指で彼女の赤帯を引いた。
> 「いつも理性で…欲望を隠す女だ。」
シュル。
外衣が滑り落ちた。
蝋燭に照らされたその肩は、まるで月から削り出された白い翡翠。
楚芳鈴は一歩下がり、鋭い視線を投げる。
だがその瞳に、拒絶はなかった。
天龍はもう待たなかった。
片腕で彼女の背を抱き、力強く引き寄せる。
彼女は、嵐に舞う一輪の花のように──男の胸へ吸い込まれる。
> 「今は戦の渦中。だが、俺が求めるのは──戦場の“共”だけじゃない。
…お前を、夜の“共”としても欲している。」
「…なっ、貴様──」
その言葉を封じたのは、激しい口づけ。
焰のように熱く、冷酷な女教主を、ただの“女”へと変えてゆく。
掛け布が床に落ち、赤い帳が蝶のように舞った。
紫の緞帳が敷かれた礼椅子の上に、天龍は彼女をそっと降ろす。
柔肌が震え、指先が滑る。
肩から胸へ──そして、腹部、そして──最も柔らかく、最も熱い“泉”へと。
---
彼の手は焦らない。
灯火に照らされた彼の指は、まるで絵師。
胸元の鼓動、絹のような腰の曲線、そして──
滴る蜜の奥、禁断の桃源郷へと筆を滑らせる。
> 「ここが、一番触れたい場所だ…」
「ん…や…天龍……」
長い髪が椅子に広がり、両手が彼の腕を掴んで離さない。
彼の指がそっと侵入する。
楚芳鈴の身体が、張り詰めた弓のように反る。
「や…っ、もう…弄ばないで…っ」
> 「弄んでなどいない。俺は…侵略しているんだ。」
そう言いながら、彼の唇は、彼女の胸を塞いだ。
指先は、止まることなく愛液の中を彷徨う。
彼女の脚が自然に彼の腰を絡める──冷たい女王が、ただの女へと還る瞬間。
夜を裂く水音。
喘ぎ、かすれた声、そして──
> 「あっ…っ、だめ…そんな…この場で……?」
答えはなかった。
代わりに返ってきたのは、深く、容赦のない“貫通”。
ズン──
最初の衝撃に椅子が揺れ、彼女が小さく叫ぶ。
ズンッ ズンッ ズンッ。
一突きごとに、奥へ、奥へ──
そして抜け、彼女が乞うまで待つ──
> 「も…っと…っ、速くぅ…っ……アアッ……!」
教主でも、魔女でもない。
ただの女。
愛する男に全てを許し、波のように押し寄せる快楽に身を投げるだけ。
---
やがて、嵐が過ぎ、二人は緋椅子に倒れ込む。
汗が混ざり合い、荒い息だけが響く。
楚芳鈴は、彼の胸に顔を埋め、指で円を描く。
> 「……今夜の後…平穏は残るのかしら?」
> 「いや。」
天龍の囁きは静かだが、刃のように鋭い。
「だが──お前が傍にいれば、千の敵も──塵芥にすぎぬ。」
~血の月、黒い寝間着、そして堕ちる愛~
霞む月。
黒雲の裏に、冷たい水銀のような光が滲んでいた。
無音の歩法——
天龍は朱香鈴の柔らかな身体を抱き寄せ、幽冥天尊教の回廊を風のように滑り抜けた。
全ての気配が消えた瞬間、残ったのは——
沈香で造られた閉ざされた小部屋のみ。
カチ…
三重封陣。音すら漏らさぬ魔結界。
「……そんなに、深刻?」
彼女の声は、山奥の魔泉のように低く、静かに揺れた。
「今宵は……封じなければ、俺自身が壊れる。」
天龍は床に腰を下ろし、彼女を腕の中へ引き込む。
黒い絹の寝間着、紫金の花刺繍、鎖骨ぎりぎりの襟元。
炎のような蝋燭に照らされた彼女の肌は、白磁よりも眩しい。
「もし……俺が、さらに三人の妻を迎えたら……」
剣のような瞳で、天龍は囁く。
「お前は——憎むか?」
香鈴は微笑んだ。
視線を逸らし、真紅の爪で彼の胸元に円を描く。
「そんな器の小さな女なら、私は朱香鈴じゃないわ。」
「……それでも、俺の心が逸れたら?」
「そのときは、私の手で潰す。けれど——」
指先が彼の心臓に触れた。
「この胸に灯るものを、千万人の妾でも消せはしないわ。」
その瞬間、天龍の眼が金の炎に変わる。
言葉はいらない。
欲望という名の猛獣が、封印を解かれた。
「……その服、危険だ。」
シュル……
黒絹が滑り落ち、肩が露わになる。
初雪のように白く、氷のように滑らか。
指先が触れるたび、彼女の身体は震えた。
そして——彼の唇が、肌の上に魔法陣を刻み始めた。
くちづけ一つ一つが、経絡を痺れさせる禁術のようだった。
「……あぁっ……やめて……天龍……っ」
「まだ始まってもいないのに、もう壊れそうか?」
彼の声は、魔王のように甘く、絶対的だった。
香鈴は唇を噛み、彼の背に手を回す。
帯を解くと、鋼のような胸板が露わになる。
筋肉の動きは、まるで魔力の流れ。
「……今夜は、私が望んだことよ……強いられたわけじゃない。」
彼の手が布の下へと滑り込む。
下腹から太腿まで——微かに震える肌。
そこに、彼女の秘密の「結界」があった。
「んっ…っ……やぁっ……」
「ここは、もう俺を受け入れているようだな。」
指先が魔紋を描くように滑り、禁じられた領域を撫でた。
香鈴は首にしがみつき、紅い唇を震わせる。
やがて——
ヒラリ。
最後の衣が落ちた。
蝋燭の光に照らされたその身体は、
神が彫り上げたような完全なる造形美。
彼は彼女を横たえ、両膝で足を開く。
まるで神聖なる儀式の準備。
魔王と冥界の女王の契り——
「入るぞ、香鈴。」
「……優しく、お願い……」
返事はない。
ただ一撃——ドンッ!
ベッドが軋む。深く沈む。
「あああっっ!!」
衝撃は嵐の如く。
そして、また一撃。
また、また——
彼女の背が弓のように反る。
「ふかっ……やぁっ……だめぇっ……!」
片足を高く上げ、角度を変える。
その動きは——まさに《虚無滅世刀》。
角度が変わるたび、絶頂が襲う。
「天龍……もっと……お願い……」
「冥界の女王らしく、俺に懇願してみろ。」
「貴方……本当に、悪魔……」
「だが、その扉を開いたのはお前だ。」
彼女は、全てを受け入れた。
背中に汗が流れ、胸が上下する。
揺れる二つの果実は、魔性の鐘のように響いた。
そして——
彼は彼女を抱えたまま持ち上げ、
再び——その急所へ向かって、落とす。
「アアアアアァアアアッ!!!」
バン!バン!バン!
肉体が奏でる狂気の交響曲。
そして——
「……いく……!」
「一緒に……っ……ああぁ……!」
放たれた魔力が、彼女の全身を包む。
五色の霧となって、部屋全体を染める。
朱香鈴は、彼の腕の中で意識を手放した。
天龍は髪を撫で、そっと囁く。
「……香鈴……知っているか……
お前を抱くたび、魂まで持っていかれる気がするんだ——」
「大決戦の直前に、俺が一番必要としたものは…神器でも武器でもなかった。
ただ、信頼の眼差しと…震えるほど温かな、愛に満ちたその身体だった。」
――
闇夜の赤い灯が揺れる。幽冥天教の奥深く、楼閣の影に隠れた部屋。
二人の影は絡み合い、呼吸は乱れ、布団は擦れ合い、肉の香りが甘く濃く漂う。
朱香麟は横たわり、白い背中が秋の三日月のようにしなやかに反る。
天龍の指が触れるたび、彼女は小さく震え、吐息は冬風に吹かれたかのような震えを帯びる。
冷たさじゃない。熱すぎるのだ。
「ん…優しく…だめ…もう…耐えられない…」
彼は言葉を発さず、首筋の鶴の羽根のような鎖骨に唇を這わせ、胸へと滑り落ちていく。
一つ一つの口づけが熱く鋭い内力の奔流のようで、彼女の眉は寄り、唇は喘ぐ。
「麟…お前は絹のように柔らかく…でも俺を紅蓮の鋼のように狂わせる…」
低く掠れた声。胸は彼女の背にぴったりと触れ、筋が皮膚の下で隆起する。
力を込めずとも、その手の一撫でだけで彼女は息を呑む。
「俺のこんな姿…見たことないだろう?」
「どんな姿…?」天龍は微笑み、腿をゆっくりと撫で上げ、反射的に彼女の体が仰け反る。
「獣…でも優しい…」彼女は震えながら呟き、涙で潤んだ瞳は堪えきれずに赤い。
木の軋みがリズムを刻み、夜の静寂に鐘の音のように響き、彼女の胸を叩く。
――
朱香麟の身体は激流に架かる絹の帯のよう。
天龍は深淵から現れた猛龍、その尾が波を巻き上げる。
背中の汗が朝露のように煌めき、弓なりの背に彼は放たれた矢の如く止まらない。
彼が深く突くたび、彼女は歯を食いしばり、魔法にかかったような呻き声を上げる。
その音は糸が切れる音、雷鳴の夜に響く琴の調べのようだ。
「私は…泣いているのか…溶けているのか…」
「快楽の涙か…愛の涙か?」彼はそっと問い、唇は彼女の首筋から離れない。
朱香麟は震え、答える。
「今夜が最後かもしれないと…知っているから…」
――
天龍は一瞬止まる。
彼女の言葉は心臓を貫く小さな棘のよう。
彼の手は彼女の腰に止まり、瞳は神殿の古石のように静かになる。
「麟…もし俺が死んだら…お前は生きていけるか?」
「いいえ。」
「お前が死んだら…俺はどうすればいい?」
「あなたは神様…愛ゆえに死んではいけない。」
「俺は神じゃない…ただお前を失うことを恐れているだけだ。」
彼女は彼を見返す。涙を湛えながらも優しく。
「あなたが生きている限り、何人の女を心に抱こうと…私はいつも朝の風を最初に感じる人でいる。」
――
その言葉が天龍の心の縛りを解く。
彼はすぐに彼女を押し倒し、手は優しさを捨て、激しく荒々しく、彼女を骨の髄まで刻みつけるように。
「ああ…深く…やめて…!」
「優しくはしない…今夜のことを来世までも刻みたいんだ!」
肉の衝突がリズミカルに響き、激しく。朱香麟は自分がどこにいるのかもわからない。
全身は焼けるように赤く、汗が滴り、声は抑えきれず高く、冷たい夜の笛の音のように響く。
「私…もうすぐ…」
「一緒に…」
二人は強く抱き合い、ひとつになる。部屋が震え、赤い灯が揺れ、外には知らぬ間に風が吹き始めていた。
――
二人は寄り添い横たわる。
肉体はまだ熱く、心は静か。
天龍は濡れた髪の一房を撫で、そっと胸に手を置き、愛おしそうに撫でる。
「もうやめて…」彼女は体を縮め、顔をしかめる。「くすぐったい…」
彼は笑う。疲れているが、生きる力に溢れた笑み。
「この感覚を覚えておきたい。明日、扉を出る時…自分が無事に帰れるか分からないから。」
朱香麟は胸の彼の心臓をそっと撫でる。
それは穏やかに鼓動しながらも、千鈞の重圧を秘めている。
「勝てなくてもいい。だが、死んではいけない。」
「あなたのため?」
「この世のためだ…悪を厳しく裁き、愛する者には優しくあれと。」
窓の外、静かに傾く月光が銀の糸を織りなして、暖かい部屋に降り注ぐ。薄絹の白いカーテンは微風にそよぎ、まるで運命の吐息が静かに二人の名を呼んでいるかのように。
天龍は横たわり、大きく熱い手で香霧の柔らかな背中を包み込む。彼女の漆黒の髪は絹の帯のように広がり、彼の腕を覆い、世界はその美しい曲線に凝縮された。
「この先…この天下がどう変わろうとも、たとえ俺のそばにどれほど多くの美女がいようとも…」
低く響く彼の声は、夜の雷鳴のように忍び寄る。
「お前を正妻とする。最初の名分。正々堂々と。お前は…それでいいか?」
香霧は震えた。その震えは冷気のせいではなく、言葉が彼女の心の奥深くに触れたからだ。すぐには答えず、そっと彼の頬に手を触れ、涙を溜めた瞳は星空を閉じ込めたように輝く。
「私…多くは望まない。でももし叶うなら…私を…最初に『妻』と呼んでほしい。」
その言葉は湖面に花びらが落ちるように、彼の心を揺らした。天龍は沈黙し、敬意を込めて彼女の額にキスを落とす。突然、優しくも秘めたる乱れを織り交ぜながら、唇はゆっくりと下へと滑り、震える二つの桃の蕾に止まった。
「香霧…俺の妻よ…」
彼は囁いた。
彼女が反応する前に、彼の舌は乳首を優しく巻き込んだ。
「あ…ああ…天龍…そこは…」
彼女の喘ぎは禁断のラブソングの序章のように流れ、体は小さく反り返り、雨に揺れる柳のように震える。
彼の手は止まらず、白く滑らかな内腿を撫で、欲望の川が溢れるようにゆっくりと秘密の場所へと滑り込む。わずかな愛撫だけで、春の夜の初花が咲き誇るかのように、彼女の泉は溢れ出した。
「う…もう耐えられない…」
彼女は息を荒げ、足を閉じようとするも無意識にまた開き、唯一の男に全ての魂を捧げるかのように。
ジュプッ…シュプシュプ…と湿った音が下から響き、肉と肉が触れ合う音。彼は言葉を使わず、身体で答えた。後ろから静かに進入し、一寸一寸と深く刻み込み、彼女の影を骨の髄まで刻み込もうとする。
「はあ…ああ…深すぎる…天龍…」
彼女は泣いた。痛みの涙ではなく、快楽が全身に雷鳴のように響く涙。彼の一突きごとに、彼女の魂は砕け、欲望の海に溶けていく。
彼らは天からの協奏曲のように調和する。木製の床はミシッミシッとリズムを刻み、喉の奥で詰まった喘ぎが堤防決壊のごとく解き放たれた。
彼は彼女の腰を強く抱き、ほぼ引き抜いてから深く激しく突き入れる。
「あああああ!!」
彼女の叫びは無意識で、下半身は震え、さらに一波の濡れを白いシーツに撒き散らした。
汗が汗に混ざり、肌が肌に貼り付き、呼吸は陰陽の気息のように絡み合う。ひとつひとつの動きが誓い。ぶつかり合うたびに約束となる。静寂な夜に言葉は消え、ただ肉体と熱い血、そして二つの運命の融合があった。
「感じろ…俺の妻よ…」
彼は耳元で囁き、突然体勢を変え、彼女を上に乗せる。裸の身体が燃え上がる龍気の上で揺れた。
彼女は体を伸ばし、手を彼の胸に置き、髪を乱し、呆然とした目で言った。
「私…今夜を…一生忘れない…」
言葉の切れ間ごとに、唇は「ああんっ!」と音を漏らした。
薄い月光はまるで運命の顔のように、すべてを見守っていた — 言葉にできぬ誓いを結び、血肉を以て繋がれた二人を。




