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47.雪の降る空の下での食事

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初雪は絹のように柔らかく舞い落ち、純白の霞となって武林大会の準備が進められている広大な野営地を静かに覆い尽くしていた。高地の冷たい風がそよぎ、大自然の清浄な気配を運び込むと、辺り一面はまるで幻想の夢に包まれたかのようであった。



---


天龍は薄く積もった雪の上を静かに歩いていた。虎の毛皮で仕立てられた外套がその一歩ごとに静かに揺れ動く。銀の仮面が顔の半分を覆い、まるでこの世をさまよう魂のように神秘的で、威厳と孤独が同居する風貌を作り上げていた。



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大きな天幕のそばでは、一人の老僧が弟子たちに指示を出していた。風に煽られて傾いた天幕の枠組みを修理するため、木材を運ばせている最中である。額に汗をにじませながらも、その目は穏やかで、鐘の音のように落ち着いた声が空気を震わせた。



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「南無阿弥陀仏……もっと優しくな、これは簡単に取り替えられる柱ではない……うむ、そうだ、右に少し傾けて……」



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天龍は近づき、軽く頭を下げた。



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「道中、貴方方のお忙しそうな様子を拝見しまして……もしご迷惑でなければ、微力ながらお手伝いさせていただければと。ついでに、少しの間、ここで休ませてもらえればと思います。」



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老僧は天龍をじっと見つめた。見慣れぬ衣装に冷ややかな雰囲気。背に背負った剣は抜かれていないにもかかわらず、まるで陰をまとった殺気が漂っていた。普通の者であれば、三歩下がったことだろう。だが、その瞳には邪気がなかった。ただ——あまりに静かだったのだ。



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老僧は柔らかく微笑み、銀白の髭を撫でながら小さく頷いた。



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「善哉、善哉。心ある者に言葉は不要。あちらの演武台、手が足りぬゆえ、頼む。」



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天龍はそれ以上語らず、合掌して一礼し、静かにその場を去った。



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その背が向きを変えた瞬間、澄んだ少女の声が後方から響いた。



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「お待ちください!大師、私たちもお手伝いさせていただきたいのです。」



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老僧が顔を上げた。そこに立っていたのは趙玉——白い狐毛の外套を纏い、高く結い上げた髪には雪がふわりと舞い落ちている。隣には堂々たる体格の曇無双、鋭い眼差しであたりを見渡すその視線は、空気すらも切り裂く刃のようであった。



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老僧は頷き、慈しみ深い眼差しを向けた。



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「今回の大会には各地より逸材が集まっておる。老僧がその心意気を拒むことなどできぬ。」



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趙玉は微笑みながらも、視線は無言で遠ざかる天龍の背に向けられ、口元から淡く白い息が漏れた——それはまるで唇の上で静かに消える雪のようであった。



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「彼……外見ほど冷たくはないのかもしれない。」



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曇無双はその言葉を聞き、顔をしかめた。



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「何が特別なの?仮面をつけた山の狐にしか見えないわ。」



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趙玉はくすくすと笑い、囁くようにからかった。



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「ふふ、狐でも演武台を組めるのかしら?一度やってみる?」



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曇無双は返す言葉を失った。反論しようとしたその瞬間、木材の組立場から「ガン…ガン…!」と激しい音が響いてきた。



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天龍の動きはまるで影のようだった。数百斤もある木材を片手で持ち上げ、もう片手で回し、接合部を精確に繋ぎ、釘を一気に打ち込んでいく。動作は一分の無駄もなく、まさに洗練されていた。



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瞬く間に、演武台の骨組みは石のごとく堅牢な姿となって完成した。



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周囲のざわめきが高まる。



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「うそ…あんな重いのをあんなに早く?」



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「あれはもう、人じゃない…まるで降臨した龍だ…!」



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趙玉は黙って立ち尽くしていた。その目には、一輪の雪の花が咲いたような光が宿っていた。彼女はそっと俯き、袖の端を指でなぞった。



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「思いがけず……あの人、本当に目を引くわ。」



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曇無双はそっぽを向き、悔しげに歯を噛みしめた。



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雪は舞い続けていたが、三人の心の中には、名もなき風がそっと吹き始めていた。優しく、けれど確かに心を揺さぶる風が——



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夜が更け、雪はなおも小さな白い粒となって降り続けていた。まるで天界から零れ落ちた星屑が野営地全体を神秘的に包み込んでいるかのようであった。



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天龍は仮設の炊事場を完成させると、静かにその場を離れた。彼が入ったのは小さな天幕で、布越しに揺れる灯りが、まるで霧の湖に映る月のように幻想的だった。



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剣帯に手をかけ、外そうとしたその瞬間、彼の動きが止まった。——すでに誰かが中にいたのだ。



---


曇無双。



---


彼女は白い毛皮の敷物に座っていた。外套は脱ぎ、薄絹一枚が肩にかかるのみ。まるで山を覆う雲のように、その姿は幽玄な魅力に満ちていた。灯火が揺れ、その影が天幕の壁に映ると、それは夜の雪に舞う仙女が龍と化す姿に見えた。



---


「私から、ずっと逃げていたわね。」彼女の声は低く、岩の隙間を通る風のように冷たく、そして哀しく響いた。「なぜ?」



---


天龍はわずかに眉を寄せながらも、視線は冷静なままだった。



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「逃げていたわけではない。ただ……関わる必要のない事に巻き込まれたくなかっただけ。」



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曇無双は微笑み、彼に近づいた。一歩一歩が、見えぬ雪に火を灯すかのようだった。その目には、冬の風に煽られた炎が宿っていた。



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「知ってる?私はずっと一人で剣を磨いてきた。強くなるために。でも、誰にも心が揺れたことはなかった……あなたに出会うまでは。」



---


天幕の中の空気が、まるで凍りつくように重くなる。



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彼女は薄絹の肩をそっとずらし、白磁のような肌が灯りに照らされる。彼に近づき、吐息を首筋に吹きかけた。温かく、優しく、そして甘く誘うように。



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「天龍……」その声は雪の羽が水面に触れるように震えていた。「もし、二人の強者が交われば……その子は必ず龍と鳳凰の血を引く者となるわ。」



---


天龍は顔を背けたが、仮面の奥からほんのり耳が赤く染まったのがわかった。彼の表情のほとんどは仮面に隠されていたが、ただその眼差しだけが秋の湖のように静かに揺れていた。



---


曇無双は彼の手を取り、自らの胸に押し当てた。絹のように柔らかい肌を通して、戦鼓のように高鳴る鼓動が伝わってくる。その一瞬、時が止まったかのようだった。



---


「一度だけでいい……」その声は春の波が満ちてゆくようにかすかに嗄れ、「あなたの血を宿す子を……私は欲しい。」



---


その瞬間——「バシッ!」



---


横から飛んできた拳が、曇無双の頭に直撃した。



---


「この淫乱女!」——趙玉の怒号が響き渡る。頬を真っ赤に染め、怒りを爆発させていた。「彼は私のものよ!よくもまあ……っ!」



---


曇無双は不意打ちに倒れ、毛皮の上に崩れ落ちた。彼女が睨み返す間もなく、趙玉はその腕を乱暴に掴み、まるで米袋のように引きずって外へと連れ出した。



---


「この狐女め!人の男に勝手に乗ろうなんて……許さないわよ!」



---


天幕の中、天龍はただ立ち尽くしていた。外では雪が舞い続けている。だが彼の心の中では——何かが雪に吹かれ、静かに霧へと還っていった。

夜が更けるにつれ、雪はますます激しく降り積もっていた。風は心の隙間を這うように吹き抜け、刺すような冷たさが骨にまで染み渡る——しかし、小さな天幕の中には、まったく異なる気配が立ち上っていた。

それは、濃密で、熱く、そして危うさを孕んだものだった。



---


趙玉ちょうぎょく曾無双そうぶそうを外へ引きずり出したかと思えば、一瞬後にはもう戻ってきて、非難の色を帯びた視線を天龍てんりゅうに向けた。

しかし、口を開くより早く——天幕の外からかすかな音が聞こえた。



---


次の瞬間——曾無双が戻ってきた。



---


衣をまとっていなかった。



---


ただ腰まで流れる長い髪が、雪のように白く透き通る肩を流れ落ち、完全には隠しきれないほどの曲線を覆っていた。

灯りのほのかな光の中で、その肢体はまるで白玉を彫り出した彫刻のように浮かび上がり、息を呑むほどの美しさを放っていた。



---


恥じらいの色一つ見せず、彼女は静かに近づいてきた。

吐く息が寒さの中で白い霧となって揺れながら——



---


「天龍……」

その声はかすれて震え、

「……もう我慢できないの……」



---


天龍はわずかに身を引き、鋭い光をその瞳に宿した。



---


「お前……何を飲んだ?」



---


曾無双の体は震え、視線は霞み、全身は燃えるように熱を帯びていた。

その一歩一歩が、理性を炎に投げ捨てるかのようだった。



---


「わからない……ただ、台所にあったお茶を一杯飲んだだけ……

でもすぐに体が熱くなって……血管の一つ一つを炎が走るみたいで……お願い、天龍……あなたを……」



---


天龍は息をひそめ、声なき囁きを心で呟いた。



---


淫賤不能持いんせんふのうじ……」

かつて魔教に伝わる秘薬、その一滴でさえ内火を爆発させ、解毒せねば——あるいは“もう一つの方法”でもって処すほか、生き延びる術はない。



---


曾無双はさらに一歩近づき、その柔らかな体を天龍に預けた。

彼女の手が彼の衣を掴み、揺れる湖のような瞳が彼を見上げた。



---


「お願い……一度だけでいい……さもなければ……死んでしまう……」



---


天龍は手を上げた——しかし抱き寄せるためではなかった。

彼は静かに、彼女の後頸・玉池の経穴を突いた。



---


「……すまない。」

そう小さく呟いた。



---


曾無双の身体は力を失い、彼の胸の中に崩れ落ちた。

その唇はまだ彼の名を呟きながら、炎に焼かれたような夢の中をさまよっていた。



---


趙玉が言葉を発しようとしたその時、天龍はすでに曾無双の体を横抱きにしていた。

衣が滑り落ち、雪の中に咲く桃の花のような肌が覗いた。



---


彼はわずかに眉をひそめ、外套を脱ぎ彼女に掛けた。

しかし衣を直そうと身をかがめたとき、その目が止まった——



---


彼女の腿の間から、淡い光を帯びた透明な雫が一筋、流れていた。

まるで抑えきれずあふれ出した春の水のように。



---


彼の胸がきゅっと締め付けられた。



---


彼は冷血な男ではない。

いかに深い内功を持とうと、この瞬間の熱気が丹田に湧き上がるのを完全には抑えきれなかった。



---


「……あと少しで……」

彼は心の中で呟いた。



---


趙玉は顔を赤らめ、視線をそらし、咳払いした。



---


「わ、私が彼女を部屋に連れていくわ。あなたは治療の準備をして……毒が回ってるんでしょう? 放っておけないわ。」



---


天龍は静かにうなずいた。

だがその目にはまだ、湖面の波のような揺れが残っていた。



---


「銀針と金銀霊草を準備しよう。

気を導いて、毒を排出する……

遅れれば、経脈に深刻な損傷を与える恐れがある。」



---


彼は踵を返したが、心の奥にはなおも炎がくすぶっていた。

あの誇り高く、冷たい目を持つ曾無双が——

今や自ら魔毒に堕ち、命を賭けてまで彼を求めている。



---


遠くの天幕の中、趙玉はそっと彼女に布団を掛け、

天龍は隣の部屋で静かに針を並べていた。

その眼差しは凛としたものだったが、

瞳の奥では、一つの深い溜息が揺れていた。



---


外の世界は、白く静まり返っていた。

降りしきる雪は、まるで天地のため息のように静かに舞っていた。



---


曾無双は柔らかな布団の上で、顔を紅潮させ、荒い息を吐いていた。

その身は、まだ炎の欲望に震えていた。



---


天龍はそばに座り、手には特製の銀針。

その一本一本が、**「最上無双心法」**によって鍛えられ、経穴を震わせ、気脈を通す力を持つ。



---


彼はまず「玄機穴」を刺し、次に「丹田」へと針を進めた。

針が刺さるたび、彼女の体はかすかに跳ねた——

まるで琴の弦に優しく触れたように、震える響きが空気に漂った。



---


「ん……やめて……」

その声は風に舞う柳の絹糸のようにか細く、半ば夢の中、

どこか秘めたる火を帯びていた。



---


体内の内火は再び燃え上がった。

彼女の脚が無意識に彼の腕を挟み込み、

湿った花の奥からは、布地を染み透らせるほどの潤みが溢れていた。



---


天龍は眉を寄せたが、心は乱れなかった。

左手で銀針を操り、右手は彼女の下腹にそっと触れ、

「無極散導手」の法で逆流の気を導き、熱を毛穴から、そして下腹の鬱気と共に解き放っていく。



---


彼女は背を反らし、喘ぎ声を漏らした。



---


「天……龍……ああ……熱い……もっと……もう少しだけ……」



---


汗が額からこぼれ、髪に滴り、

潤んだ水はますます流れ出す。

まるで春の雪解けの奔流のように。



---


その声の一つ一つが、毒を押し出す。



---


それはただの治療ではなかった。

——それは、解放だった。



---


一刻の時が過ぎ、

彼女の呼吸は静まり、顔色も戻りつつあった。

天龍は彼女の汗を拭き取り、開いた経穴を封じると、そっと息をついた。



---


彼は彼女の体を抱き上げた。

衣の袖が絹のような肌に触れ、夜の香がかすかに残っていた。

毒は抜けたが、その体は魂ごと震え尽くしたように、柔らかく腕の中に収まった。



---


戸が開くと、趙玉がそこに立っていた。



---


「もう大丈夫だ。」

天龍は穏やかに言い、彼女を見つめた。

「邪気は抜けた。一晩眠れば、明日には元に戻るだろう。」



---


趙玉はそっと頷いた。

その瞳には、もはや怒りではなく——わずかな哀しみが宿っていた。

彼女は曾無双を受け取り、そっと床に寝かせ、布団を掛け直すと、天龍を見返した。



---


「あなたは?」



---


「少し静座して、真気を整える。……彼女のこと、頼んだ。」



---


彼は一礼し、静かに部屋を出た。

黒衣の影は夜の帳に溶けていき、

天幕には、二人の女の静かな吐息だけが残された。



---


その夜、雪はやんだ。


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