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24.氷のごとき剣心──小梅

雪が空を覆い、風はまるで天地の嫉妬の叫びのように唸りを上げていた。寒雲山の頂、氷霧に包まれた広大な青石の広場が静まり返っている。


広場の中央には、白衣の少女が一人、氷像のように静かに佇んでいた。彼女の眼差しは冷たく、剣のように鋭く、そのしなやかな体躯と麗しい容貌は、雪すらも一瞬降るのを忘れ、見とれてしまうほどだった。


それが――忘れられし姫、ティエオ・マイ。


九歳のとき、政略のために寒雲門へと送られた。十七度の冬を経て、かつて臆病だった王女は、今や門下で最も鋭き剣となった。



---


「ティエオ・マイ師妹、今日は内門の代表として、十三の分院から選ばれし精鋭たちと試合を行ってもらう!」


「勝てば、今年の雪の武林大会において、寒雲門の代表に選ばれるのだ!」


重々しく響く声は、石壇の上に立つ灰衣の長老から発せられた。


ティエオ・マイは何も答えなかった。


ただ、背中に静かに横たわる銀の剣をそっと撫で、無関心な瞳で対戦相手たちを一瞥した。


「十三人?」——彼女の声は冷たく澄んだ鐘の音のように響く。——「一人ずつではなく、まとめてかかってきなさい。」


「お前…っ!」——弟子の一人が顔を紅潮させて怒鳴る。——「傲慢すぎるぞ!」


「傲慢じゃないわ。」——ティエオ・マイは一歩踏み出した。——「ただ…時間を無駄にしたくないだけ。」



---


ドンッ!!


その言葉が終わるや否や、彼女の足元の雪が弾け、純白の姿が剣影となって戦場の中心へと駆け抜けた。


一閃。


二閃。


三閃。


凡人の目には、ただ白い閃光が瞬くのみ。しかし石壇の上の長老たちの目には、ティエオ・マイの一手一手が恐ろしいほど正確で、冷酷ではあっても命を奪わず、鋭いが残忍ではないことがはっきりと見えた。


一歩ごとに剣が変化し、


一息ごとに冷気が防御を打ち砕く。



---


「う、うわああっ!」——一人の弟子が雪の円から吹き飛ばされ、手にしていた剣は宙を舞い、冷たく乾いた音を立てて落ちた。


「まさか…! まだ一太刀も出していないのに…!」


「内力が…氷のように逆流してくる…!」


驚愕と息切れの声が次々と響く。


一刻も経たぬうちに、十三人の弟子が雪上に倒れ伏し、誰一人として立っていられなかった。



---


灰衣の長老は一瞬言葉を失い、ようやく口を開いた。


「ティエオ・マイの勝利だ。」



---


広場全体が、静寂という氷に閉ざされたかのようだった。


ティエオ・マイはゆったりと剣を納め、その瞳に波風一つ立たなかった。


だが――


その心の奥底で、かすかな声が響く。


「勝ったところで、何になるの? 武の道を極めるほど、心は冷えてゆく。」


「この場所では…誰も私の心を理解できない。誰も…私を倒すこともできない。」



---


彼女は背を向け、雪風の中を去っていく。黒く長い髪は白き世界を墨で染めるかのように揺れ動き、その背に――冷たく、孤独な一枚の絵を残していった。

試合の後、ティオ・マイは静かに自室へ戻った。


彼女の部屋は寒雲閣の一番奥にある小さな一室で、白い壁は氷のように冷たく、窓からは雪に覆われた深い渓谷が望める。


壁には一本の古びた剣が掛けられていた——「朝月」という、入門したばかりの頃に初めて鍛えた剣だ。刃は鈍り、もはや鋭さを失っていたが、彼女にとっては大切な記憶だった。


彼女は冷たい茶を一杯注ぎ、静かな木の机に置いた。虚ろな目で空を見つめながら、心の中で問いかける。


> 「勝ったはずなのに……なぜこんなにも虚しいの……?」





---


窓の外から風が唸りを上げ、霧氷のような冷気が部屋の中へと吹き込んでくる。


ティオ・マイは壁にもたれかかり、静かに目を伏せた。


> 「十三人……誰一人、私の衣の裾すら触れられなかった。」 「私が追い求めてきたものは……いったい何だったのか?」





---


彼女は氷月剣を膝の上に置き、その冷たい刃に指を滑らせた。まるで、長い間凍てついた心そのもののようだった。


ふと、廊下の外から通り過ぎる弟子たちの囁き声が聞こえてきた。


> 「数日前、西域でな、張という青年が現れたそうだ。名前は……天龍だって。」




> 「ああ! そいつ一人で風雲幇の総本部に突入して、幇主と十人の長老を打ち破ったとか!」




> 「それだけじゃない、少林の天師高僧と対決しても、劣勢にならなかったってさ……」




> 「剣術はまるで幽霊のように素早く、煙のように柔らかい……」 「それに……太清道士の『碧水九重』を一閃で斬り裂いたって話もある!」





---


「……天龍。」


その名は、彼女の心の中に張り付いた厚い氷を貫く剣のようだった。


彼女は彼に会ったことはない。ただ、噂話だけで心がざわめいた。



---


> 「一人で、江湖全体を相手にできる男……」 「剣ひとつで、あらゆる常識と規則を打ち破る者……」 「私より……強い人間?」





---


ティオ・マイは立ち上がり、扉を開けて外に出た。雪は静かに舞い、白い夢の羽のように降っていた。


彼女は空を見上げ、剣の柄を強く握りしめた。


> 「もし、その人に一度でも会えるのなら……」 「自分の剣で試してみたい。私の心は本当に凍り付いてしまったのか……」





---


そして、心の奥底から、かすかに、小さな声が響いた。


> 「それとも……本当は、私を打ち負かしてくれる誰かを、望んでいるのかもしれない……」





---


彼女はそっと目を閉じた。


吹きすさぶ風雪の中、黒髪の青年の幻影が浮かび上がる。深い瞳と、手にした長剣。その姿はまるで夢のように、心の中で静かに現れた。


> 「天龍……」




> 「あなたは……いったい、何者なの?」

冷たい風が雪に覆われた長い回廊を吹き抜け、屋根にかかる白い絹が舞い上がる。


ティオ・マイは寒氷閣の中庭に一人腰を下ろし、青磁の酒壺を手にしていた。その壺には、薄く氷が張っていた。


彼女は首を仰け反らせて一口飲み、雪霧に包まれたような曇った目で遠くの山腹を見つめていた。


> 「もう半年か…」

「でも…あの光景は、今でも色褪せない。」





---


半年前。


いつもと変わらぬ一日。空からは厚い雪が降っていた。


長老たちが大殿で会議をしている最中、正門の外で突然、天地を揺るがすような轟音が響いた。


ドォォン!!


千斤もの鋼氷の門が、たった一撃で吹き飛ばされ、数メートル先の石壁に叩きつけられて粉々に砕けた。


白煙が立ち込める中から、ゆっくりと一人の影が現れた。



---


彼は黒衣に銀の縁取りを施した衣をまとい、黒髪を緩く結んでいた。眼差しは深淵のように底知れぬものだった。


手には剣を持っていなかった。しかし彼が一歩踏み出すごとに、足元の氷が割れ、雪が四散した。


> 「俺は…取り戻しに来た。もともとお前たちの物ではないものを。」




その声は低く冷たく、寒雲の風よりも凍てついていたが、耳に届くと雷鳴のように心を揺さぶった。



---


寒雲門の掌門がすぐに姿を現し、十三人の長老と数十人の弟子が取り囲んだ。


> 「貴様は何者だ!寒雲門の聖地に踏み込むとは!」

「一人で門派全体に戦いを挑むつもりか?なんという傲慢!」





---


だが彼はただ静かに笑った。


> 「俺の名は…天龍てんりゅうだ。」

「譲らぬなら――力ずくで奪うまで。」





---


言葉が終わるや否や、彼の姿は消えた。


ドンッ!!


最も近くにいた長老は眉をひそめる間もなく、凧のように吹き飛ばされ、空中で回転しながら階段に落下し、悲鳴を上げた。



---


寒雲門全体が震撼した。


ちょうどその頃、山道から戻ったばかりのティオ・マイは高台から広場を見下ろしていた。


彼女の目に映ったのは――


黒衣の若者が十数名の高手を相手に、一人で戦っている姿だった。そして彼が拳を振るうたびに、一人、また一人と地に伏していった。


剣も、武器も持たず。


ただ素手で、龍のように荒れ狂っていた。



---


ドンッ!ドンッ!ドンッ!!


> 「天龍!お前、本当に寒雲門の弟子を皆殺しにする気か?!」




> 「道を開けるなら、誰も殺す必要はない。」





---


掌門が“寒氷封日かんぴょうふうじつ”を繰り出し、彼を押さえ込もうとしたその瞬間、彼は身体を回転させ、一撃の掌打で氷の層を打ち砕き、大地まで粉砕した。


その時の寒雲門全体は、まるで一人の――凶神に対峙しているかのようだった。



---


ティオ・マイは目を離せなかった。


彼女はただ立ち尽くし、彼の動きに合わせて胸が上下していた。


> 「この人は…」

「一体、魔か?それとも天才か?」





---


天龍がついに一つの玉箱を手に入れ、背を向けて去っていったとき、彼の姿は舞い落ちる雪の中に溶けていった。ただ一言だけを残して。


> 「寒雲の剣道…確かに冷たい。だが、俺の心の底には届かない。」





---


ティオ・マイは屋根の上から、彼の後ろ姿を見送った。その瞬間、彼女の心は初めて――震えた。


> 「天龍…」




> 「あの一瞬で…

あなたは私の心に氷の欠片を刺し込んだ。

溶かすことも…抜くこともできないほどに。」

夜。


寒雪峰の頂上では、風が鬼の泣き声のように唸りを上げていた。

白く染まった雪原のほとり、

小梅ショウメイは一人、天心の岩の前に立っていた。

そこは、代々の寒雲門の弟子たちが武道の悟りを開くために座した場所だった。


彼女の髪は風に舞い、

手にした剣が、冬の嵐のような唸り声を上げていた。



---


> 「一手、二式…」

「氷心無我、剣鎖玄寒…」





---


雪が舞い、心は凍える。

三つの型を放ったが、四つ目に至る前に——


一瞬。

彼女の脳裏に、ある影が差し込んだ。


漆黒の目、黒衣、霜のような冷たい微笑み——天龍。



---


彼女ははっとして、手元が狂った。


スッ…!


剣の刃が肩をかすめ、

白い衣に血の筋が滲む。


> 「くっ…くそ…!」





---


小梅は息を吐き、

心を落ち着けるように静かに後ろへ下がる。

剣を雪の上に置き、目を閉じ、静かに座禅を組んだ。


> 「どうして…あなたは、私の心から消えてくれないの?」

「傲慢で、覇道で、私の修める清らかで無情な道には、まるで合わないのに…」





---


だが彼女の心には、あの日寒雲門で陣を破ったときの、

彼の声、目線、一つ一つの動きが、止めどなく蘇っていた。


忘れようとするほどに、

その思いは深く染み込んでいく。



---


> 「九歳のときから私はここに送られ、

吹雪の中で一人きり、静かに、誇り高く生きてきた…

私は、自分に“誰も必要ない”と言い聞かせてきた。」

「それなのに…たった一度の邂逅で…どうして…」





---


涙はこぼれなかった。

けれど胸は、重たい石を抱えているかのようだった。



---


> 「天龍…あなたが嵐であり、荒波であるなら…

私は氷雪となろう。」

「ただ一度、この風に…溶けてみせる。」





---


彼女はゆっくりと立ち上がり、剣の柄に手を添え、静かに空を仰いだ。

灰色の空の下、雪がそっと舞い落ちてくる。

風が吹き抜け、肩に積もった雪を払い、いくつかの髪をさらっていく。


彼女は小さく囁いた。


> 「私は…恋をしたんだよね?」





---


もはや、冷たさしか知らぬ小梅ではなかった。

もはや、無心の女剣士ではなかった。


今の彼女の心には、

ある一人の影が宿っている。


——その人は、凍てついたこの世界すら、一瞬で溶かしてしまう存在。


天龍。



---


第24章・完


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