20.天龍、霞雲門に現る
夜が更け、空には夢のような銀の霧がかかっていた。
ハー・ヴァン山 —— 天を突くほどの高さで、年間を通じて雲に覆われ、「望雪仙峰」と称されるこの山は、「六大門派」の一つ、ハー・ヴァン門の本拠地である。
その景色はまるで仙境。しかし今——その仙境が揺れ動こうとしていた。
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山の麓では、夜風が冷たく吹きすさび、霧がゆっくりと漂っていた。
黒衣をまとった一人の少年が、堂々と立っている。
長い黒髪が背に垂れ、肩には重さ1500斤の大剣を担ぎ、その一歩一歩がまるで岩に釘を打ち込むかのように重々しく、大地に刻まれていた。
その名は——天龍。
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彼は高くそびえる山頂を見上げ、口元に微かな笑みを浮かべた。目はまるで燃えるたいまつのように雲を突き抜ける。
> 「寒雲絶剣……」
「天下で最も冷たい剣法と聞く。」
「だが、この目で見なければ——完璧とは呼べぬ。」
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ヒュッ!!
軽く一歩を踏み出しただけで、天龍の身体は流星のように山腹へと駆け上がった!
その速さは凄まじく、背後には暴風が唸りを上げ、岩が砕け散る!
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山道を巡回していたハー・ヴァン門の数名の弟子たちは、轟音を聞いたかと思うと、漆黒の影が目の前に現れた。
> 「何者だ!? 止まれ!!」
「夜中に禁地へ侵入とは、死にたいのか!?」
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シャッ!シャッ!シャッ!!
三十名の弟子が同時に剣を抜く!
剣光は氷のように冷たく、月明かりに反射して銀の波のように連なる!
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しかし……
ヒュン…ヒュン…ヒュン…!!
天龍は剣を抜かなかった。
彼はただ軽やかに身をひねり、まるで風の中を散歩するかのように剣の隙間をすり抜ける。
その動き——霧のように柔らかく、鶴のように優雅で、虚実が入り混じり、誰一人として追うことができなかった。
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> 「あいつ……全てかわしただと!?」
「ありえん!この剣陣に隙などないはず……!」
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「バシッ!」
天龍は一人の弟子の剣の柄を軽く叩くだけで、全体の陣形が崩れ、ドミノのように次々と倒れていった!
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天龍は振り返らずに言った。
> 「お前たち、殺意が足りぬ……ゆえに俺は手を下さん。」
「だが次に立ちはだかるなら——この剣、容赦せぬぞ。」
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ドォン!!
わずか三十呼吸の間に、天龍はハー・ヴァン門の大殿「天寒宮」の前に立っていた!
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ゴォォォン!!!
警鐘の音が山全体に鳴り響く。
あちこちに松明の灯りがともり、次々と弟子たちが集まり、殿前の広場を取り囲んだ。
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風は竹林を通り抜け、冷たい音を立てて吹きすさぶ。
各堂の長老たちが次々と姿を現す。千年氷のような冷気をまとっていた。
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ついに……
正殿から一人の人物がゆっくりと姿を現した。
雪のように白い髪、ゆったりとした白衣、手には雪蓮を彫った柄の長剣。
それが——ハー・ヴァン門の門主、哈無道である!
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彼の目は冬の風のように鋭く、天龍を一瞥した。
> 「若者よ。夜中に我が門へ侵入し、弟子たちを押さえつけた目的は何だ?」
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天龍は肩の剣の柄を軽く持ち上げ、落ち着いた瞳で答えた。
> 「来たのは……一冊の剣譜を借りるため。」
「名は——寒雲絶剣。」
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弟子たちが一斉に騒然となった。
> 「あいつ、正気か!?」
「門派の秘伝を貸せだと!?」
「それって、強盗じゃないか!!」
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哈無道は冷静さを保ちながらも、声には刃のような鋭さがあった。
> 「寒雲絶剣は、ハー・ヴァン門に代々伝わる心法だ。他人に触れさせるわけにはいかん。」
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天龍は数秒黙った。
夜風が彼の黒衣をそっと舞わせる。
> 「ならば……実力をもって証明するしかあるまい。」
「もし勝てば——その剣譜を渡してもらう。」
「敗れれば、お前の好きにすればよい……斬ろうが殺そうが、異論はない。」
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空気が凍りついたように張り詰める。
その言葉——あまりに傲慢。しかし、誰もが震えた。
なぜなら、そんなことを口にできる者は……決して凡人ではないからだ。
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哈無道はしばし沈黙し——そして、ゆっくりと剣を抜き、一振り。
その剣気は天地を凍てつかせるほどに冷たかった!
> 「よかろう!」
「三手。三手耐えきれたら、その剣譜を自ら手渡そう。」
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ドオオオォォン!!!
白い霧が吹雪のように巻き起こり、決戦が幕を開けた——!
ドォン!!!
ハ・ヴォダオの初撃が放たれた瞬間――広場全体がまるで凍りついたかのように静まり返った!
氷のような剣気が空間を裂き、四方には天を突くような鋭い氷柱が立ち上がる!
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しかし――
スッ!!
テンロンは剣を抜かなかった。
彼が上げたのは、ただ一本の――右手の人差し指だけだった。
> 「一本の指…それで十分だ。」
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> 「貴様――!」
ハ・ヴォダオが叫ぼうとした瞬間、稲妻のような一閃が空を裂いて走る!
ズバッ!!
一瞬にして――テンロンの指先が、ハ・ヴォダオの剣の柄に触れた!
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ミシッ…!
指先から放たれた内力の電光が剣を逆流し、氷の剣身に亀裂が走る!
ハ・ヴォダオが反応する間もなく、テンロンは身をひるがえし、左手の中指で彼の「気海」のツボを正確に突いた!
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バシッ!!
ハ・ヴォダオの身体がビクリと震える。
> 「貴様…指一本で…経絡を封じたのか!?」
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広場中が言葉を失う!
一門の掌門――絶頂の達人が、たった一人の少年に、指一本で制されるとは!!
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テンロンは軽く笑い、塵を払うかのような余裕の態度で言い放つ。
> 「三手まで待つと言ったが…時間の無駄だ。」
> 「一本の指で礼儀は尽くした。」
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ハ・ヴォダオが後退し、体が動かないまま硬直していると――
弟子たちが一斉に叫んだ!
> 「師父を守れ!」
> 「奴を討て!」
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ヒュンヒュンヒュンッ!!!
数十人の弟子たちが蜂のように飛び出し、白雪のごとき剣光がテンロンを包囲!
氷の気息が網のように彼を捕えようとする――!
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だが――
テンロンは避けなかった。剣も抜かなかった。
ただ、風のように軽やかに歩く――流れる水のごとく群衆の中をすり抜ける。
その身から放たれる無形の気が、剣気の波を押し返していく!
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> 「は、速い…!」
> 「どこにいるのか見えない!」
> 「きゃあっ!!」
ある女性弟子が悲鳴を上げる――熱い手が軽く彼女の尻を撫でたのだ!
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パシッ!!
続いてまた一人、テンロンが煙のように滑るように現れ、別の娘の豊かな胸をそっと持ち上げた!
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> 「あああっ!!」
> 「この変態野郎!!」
> 「最低…っ!」
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テンロンは茶目っ気たっぷりに微笑む。
> 「ただ気の流れを確認しただけさ。」
> 「驚いたな、ほとんどの娘は…とてもセクシーな場所に真気を集中させてる。」
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> 「このスケベ!」
> 「恥ってものを知らないのか!?」
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テンロンはひらりと身を翻し、まるで風に乗るかのように言う。
> 「殺気はあるが、邪念はない。」
> 「目は芸術を見て、手は気功を感じただけさ。」
> 「この手技――武林一だ。」
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プシュッ!!
一人の弟子が鼻血を吹く――怒りのせいか、羞恥のせいかは分からない!
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テンロンは誰一人傷つけていない。
そのすべての触れ方は、まるで羽のように優しく、しかし巧みに相手の行動を止めていた。
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そして彼は立ち止まった――
「鳳氷閣」、門派の秘伝武学を保管する場所の前で。
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> 「ここが武学庫か。」
> 「雪霊図の陣で封印か――悪くない。」
テンロンは手を伸ばし――ポン!――正確に岩壁の三つのツボを突く。
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ザザザザ…
巨大な石の扉が開き、淡い青光が漏れ出す。
そこには何百もの玉の巻物、竹簡、古文書が並ぶ――
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テンロンは中へと進む。
彼の前に現れた石棚には、こう刻まれていた:
寒雲絶剣
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> 「ついに会えたな。」
> 「この世で最も冷たい剣法――」
> 「どれほど冷たいか…見せてもらおう。」
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テンロンは腰を下ろし、経典を一つ一つ開いていく。
その眼差しは鋭く、風を読み雲を裂くように、すべての文を見逃さない。
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その時――後方に足音が鳴り響いた。
一人の少女が現れる。
誇り高い立ち姿、顔立ちは初冬の雪のように美しく冷たい。
彼女こそ――ティオ・マイ。
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> 「貴様…」
> 「この場所に侵入して…我が門派の剣法を盗む気か!?」
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テンロンは顔を上げず、ただ静かに微笑んだ。
> 「盗むんじゃない。」
> 「この剣法が――俺を待っていたのさ。」
スッ…!
ティオ・マイが武学殿の中央へと進み出る。長い髪が冷たい風に揺れ、彼女の表情は雪山のように誇り高く、その瞳は氷の宝玉のごとく、対峙する者の内臓までをも見通すかのようだった。
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> 「いったい…お前は何者?」
> 「どうしてハンウン門の陣法を見破れたの?」
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テンロンは振り返り、余裕の微笑みを浮かべて言った。
> 「まあ……古書を人より数千ページ早く読んだだけさ。」
> 「俺が誰か、だって?」——目を細め、瞳に金の閃光が宿る——
「お前の剣法の運命が、ずっと待ち続けてきた者だよ。」
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> 「なっ…! 不遜なっ!」
ティオ・マイが『青雲冷月剣』を抜き放つ!
その姿は、まるで月光が吹雪を貫いて突進するかのように美しい!
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シュバッ!!
剣の残像が数万の雪片となって舞い、白銀の竜巻を成し、テンロンを包み込んだ!
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> 「冷たいな。」
テンロンは半歩身をひねり、身体を軽やかに煙のごとくくゆらせる。
> 「だが……まだ足りない。」
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バシッ!!
瞬間、彼の片手が剣を受け止め、もう一方の手が——雷のごとく——ティオ・マイの胸元に触れ、やや強めに“ぷにっ”と押した!
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> 「きゃっ!? なっ、なにをっ——!!」
ティオ・マイは顔を真っ赤にして三歩下がる!
> 「この無礼者っ!」
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テンロンはくすっと笑いながら、
> 「内功の集中、素晴らしい。胸元はまさに霊気が集まる要所……見事だ。」
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> 「貴様だけは……絶対に許さないっ!!」
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ドォン!!!
ティオ・マイの最強の技『氷霊破雪斬』が放たれた!
武学殿全体がまるで吹雪に呑まれるかのように震える!
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だが――テンロンの姿は、既に視界から消えていた。
剣の嵐の中、彼は音もなく右へすべり、足は床を踏まず、指先が彼女の腰をすっとかすめて――
チュッ!!
今度はちょっと強めに彼女のお尻を“むにゅっ”とつねった!
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> 「あ、あ、あああっっ!! このクソッタレ!!」
> 「お前ぇぇぇぇっ!!」
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ティオ・マイは怒りで身体を震わせた!
だが剣気は彼にまったく届かない!
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> 「怒るなよ」——テンロンは玉棚の方へ歩きながら言った。
> 「もしお前が負けたら……この武学、少し借りさせてもらうが、どう思う?」
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> 「そんな勝手、許すと思ってるのっ!?」
ティオ・マイが再び突進しようとした瞬間――
バシッ!!
テンロンはすでに身を翻し、「玉池」「気海」「玄宮」の三つの経絡を指で素早く突いた!
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ティオ・マイの全身が硬直する。
彼女は片膝をついて崩れ落ち、顔は羞恥と怒りと……人生最大の屈辱で真っ赤に染まった!
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> 「貴様……これが私にとって最大の侮辱だと知ってるのかっ!!」
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テンロンはそっと彼女の肩に手を置き、耳元で囁く。
> 「侮辱? とんでもない。」
> 「いずれ……君はもっと触れてほしいと、そう願うようになるさ。」
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ティオ・マイの顔は、まるで夕焼けのように真っ赤に染まった!
> 「こ、こいつっ……最低っ!!」
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テンロンは笑い声を上げ、応じることもなく静かに殿奥へと足を進めた。
そこには、代々の掌門にのみ伝えられる、最上級の武学が眠っている。
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彼は三つの古巻を開いた:
1. 氷魂雪殺心経
2. 寒雲地絶七剣
3. 月影白雪凌波歩
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> 「いいな。」
> 「この三つがあれば……《虚空奪命掌》第九式を完成させられる。」
テンロンはその場で座り込み、修練を始めた。
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その背後では、ティオ・マイがまだ膝をついたまま…
表情は複雑に揺れ動いていた。
彼女の瞳が初めて、怒りではない感情の光を灯す――
半時ほど殿内の三つの武学書を熟読した後、天龍の目が鋭く輝き、彼はそっと手を振って、石棚の上に積もった埃を払い落とした。
その最下部に——
黒く艶やかな玉石の箱が現れた。箱の表面には、霧の中をくねる龍のような奇怪な紋様が浮かんでいた。
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> 「ほう? ついに見つけたか……」
彼は箱の蓋を静かに開けた。
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中には、古獣の皮で作られた一冊の古書。表紙には三文字が刻まれていた:
「雲寒道」
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> 「最古……にして最強。」
> 「これなら……第十の技に変化を加えることも可能だ。」
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彼は急がず、殿の中央に立ち、背を向けて大殿の外を望んだ。
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> 「この奥義、少しだけ借りるよ。」
> 「永遠に返さないけどね。」
彼の笑顔は、氷の世界に太陽が差し込むような輝きだった。
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殿の外では、十数人の美しい韓雲門の女弟子たちが、回廊や中庭のあちこちで経絡を封じられたまま立ち尽くしていた。
彼女たちの目にはまだ混乱、羞恥、怒り、そして——
どこか奇妙な感情がじわじわと湧き上がっていた。
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天龍は一人ひとりの前を通り過ぎていく。
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> 「嬢ちゃん、気海の鍛錬がまだ甘いな。」
> 「五行の姿勢も間違ってるぞ。」
> 「ここ……ちょっと確認させてもらおうか。」
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パシッ…
チュッ…
ポフ!
彼の手はまるで優しい兄弟子のように軽やかに動きながら、次々と女弟子の身体を「点検」していく。
——が、彼だけがその「いたずら心」の真意を知っていた。
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> 「あああっ……!」
> 「また触られたぁ……!」
> 「なにこれ……変な感じ……!」
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数人の娘は、経絡を封じられたまま頬を紅潮させ、身体を震わせながら、目を潤ませて息を荒げていた。
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> 「この変態……どうして私の心臓がこんなに高鳴るの……?」
> 「ただの……少しの接触なのに……!」
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天龍は中庭の中央に立ち、衣が風に舞う中、指を軽く弾いた。
ピンッ!
水面のような真気の波動が放たれ、全員の身体に封じられた経絡が瞬時に解放された。
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弟子たち、そして小舞までもが一斉に崩れ落ち、まるで甘美な夢から醒めたかのように、息を切らしていた。
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> 「誰一人、傷つけてなどいないさ。」
> 「ただ、少し……忘れがたい記憶を残しただけ。」
天龍は微笑を浮かべ、静かに空へと舞い上がる。
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消え去る前、彼は振り返り、全ての女性の心を揺さぶる笑みを残した。
> 「掌門によろしく伝えておいてくれ。」
> 「次に来るときは……うまい茶と、乾いた服を用意しておいてね。」
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シュバァッ——!!
天龍の姿は一筋の光となって、雪空を切り裂きながら消えていった。
その背後には——
呆然とし、赤面し、戸惑い、そして……高鳴る乙女たちの鼓動が残された。
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第20章・完
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