2.寒毒と断たれし経脈
天龍は目を閉じ、体内の気を感じ取った。手を胸に当て、少年・陳武の弱々しい心臓の鼓動を感じることができたが、その鼓動の中から次第に奇妙な現象が現れ始めた。生命が存在しているにもかかわらず、彼の魂は束縛され、血液の流れ、気の脈々に詰まりを感じていた。
「寒毒…」天龍は心の中で思った。問題に気づいた彼は目を大きく開けた。毒素が体内に侵入し、骨髄にまで浸透していることに気づいた。それだけではなく、この体の経脈も深刻に断絶され、至る所に隠れた詰まりがあった。この弱々しい体では、何らかの介入がなければ長期間の生命を維持できないことは明らかだった。
初めて、天龍はこの体が鈍い刀のように感じられた—どんなに強力なエネルギーがあっても、もしそれを流通させることができなければ、その潜在能力を発揮できなければ、それはただの重荷であり、妨げに過ぎなかった。
「このままではいけない…」天龍は小さく呟き、決意の光が目に宿った。これは陳武の体だけではなく、今の彼自身の体でもあった。そして、彼はこの体が倒れるわけにはいかないと確信していた。必ず治療法を見つけ出さなければならない。
天龍は静かに座り、呼吸を整え始めた。そして、気功を使って調整を始めた。彼は東洋医学と西洋医学の融合から多くを学び、気功と現代生物学の理論を組み合わせて治療法を実践してきたが、このような体に、そして極めて難しい状況でこれを適用するのは初めてだった。
彼は経脈に集中し、感じ取れる詰まりの箇所を辿り始めた。気の流れが動き始めたが、経脈が断絶された場所では気の流れが止まってしまった。天龍は深く息を吸い込み、体内に満ちた気を感じ取り、長年の研究から自ら開発した技術—「破体回元」を起動した。
「破体回元…起動!」天龍は目を閉じ、気功を体内の詰まりの点に集中させた。これは彼が創り出した特別な技術で、気の力で詰まった経脈を通し、再生させる能力を持っていた。しかし、この技術は非常に難しく、理想的な条件が必要だった。過去に何度か試みたことはあったが、このように多くの問題を抱えた体に適用するのは初めてだった。
気は詰まりの点に集まり、天龍は体内の緊張を感じたが、次第にすべてが静寂を迎えた。彼は息を止め、体内の断裂した脈を一つ一つ集中して感じ取った。それは、通常の武技とは全く異なる感覚だった。武道では、相手を倒すために技を出せばよかったが、今、彼は自分の体と戦っていた。
小さな音がした。まるで靭帯が限界を超えて伸びたような音だった。天龍は目を開け、体内の気がより早く回転し始めたのを感じた。しかし、奇妙なことに、気は詰まりの点に完全に集まったにもかかわらず、何の明確な変化も起きなかった。経脈は依然として詰まったままで、寒毒も減る兆しがなかった。
「まさか…」天龍はため息をつき、目に一瞬の失望が浮かんだ。
彼は手を緩め、気功は周囲に拡散し始めた。破体回元は非常に強力な技だが、これほど深刻な詰まりを解消することはできなかった。天龍は、気功と呼吸法だけでは不十分だと感じた。この体を治療するためには、全く別のアプローチを見つける必要があることを理解していた。
天龍が気功に失敗したとき、小さな部屋に沈黙が広がった。心の中には深い失望が押し寄せていた。自分の力を過信していたのだ。彼は武学の達人ではあるが、このような状況では、ただの気功や積み上げた理論、経験だけでは、この身体を救うことはできなかった。
天龍はため息をつき、軽率な自分を責めた。この体は彼のものではない。すでに多くの損傷を受けていた。そして、彼が現代世界で使ってきた方法を、このような古代的な体にそのまま適用することはできなかった。東洋医学と西洋医学の融合は確かに効果をもたらすかもしれないが、骨髄まで深く入り込んだ寒毒や断絶した経脈に対しては、あらゆる理論が無力に思えた。
――必ず他の方法があるはずだ。
天龍はそう思いながら、自らの手に目を落とした。そこには、まだ微かに気が残っていた。そして、その瞬間、彼の脳裏に一つの閃きが走った。もし気功だけでは不十分であるならば、より古く、より強力な方法が必要なのではないか。
彼はベッドの横に立てかけてあった木の杖を手に取り、身体を支えて立ち上がった。行動しなければならない。このままでは、寒毒が彼の身体の細胞一つひとつを蝕み、死に至らせるだろう。
「別の方法を試すしかない。」
その声には、確固たる決意がこもっていた。
今回は、気功に頼るだけではなかった。彼は昔、古書の中で読んだ技法を思い出した――《万操訣》。それは、身体が自らを再生し、損傷を癒すことができるという、特殊な動作と絶対的な集中を要する古代の技だった。この技法は単なる気功ではなく、肉体と精神、内力と外力を結びつけるものだ。
天龍は《万操訣》を試し始めた。彼は姿勢を正し、両手を前に伸ばして呼吸を感じ取る。一方の手を天に向け、もう一方を地に下ろす。あたかも自然と宇宙とを繋ぐかのように。彼の全身に不思議な感覚が広がり、筋肉も細胞も、すべてが目覚めていくかのようだった。
その後、彼はゆっくりと両手を胸の前に引き寄せ、円を描くような形を作った。まるで壮大なエネルギーを集中させているかのように。気が流れているのを感じたのは、体内だけではなかった。周囲の万物からも、気が集まってくるような感覚だった。気流が渦を巻き、内面の奥深くで旋回を始めた。
天龍は再び、身体の中の詰まりに意識を集中させた。だが今回は、気功だけに頼らず、動作と呼吸の全てを用いて経脈を打ち開こうとした。
両手が胸の前で重なった瞬間、腕から全身へと痺れるような感覚が走った。痛みではなく、緊張感が広がる。まるで何か神秘的な力が、体内の詰まりを押し出そうとしているかのようだった。
そのとき――天龍の目に一筋の閃光が走った。変化が、確かに起こっていた。微細ではあるが、はっきりとした変化。強い気の流れが詰まっていた箇所に流れ込み、寒毒を押し戻しつつあった。経脈が、少しずつだが通り始めていた。
とはいえ、これが終わりではない。まだ経脈は完全に回復していなかった。しかし、この変化こそが、彼にとって希望の光であった。
天龍は、気の流れが次第に力強くなっていくのを感じていた。まだ障害は残っているものの、彼の胸には一筋の希望が灯っていた。たとえ僅かな変化であっても、それは彼にとって前進する決意を固めるには十分だった。
「きっと…続けなければならない…」彼は心の中でつぶやいた。窓の外から微かな風が吹き込んできた。それはまるで、宇宙そのものが彼の新たな一歩を歓迎しているかのようだった。
武学の達人としての経験から、天龍は理解していた。すべての変化は一朝一夕で成し遂げられるものではない。寒毒によって蝕まれた肉体、断絶した経脈、それらを短期的な方法だけで癒すことは不可能だと。しかし、彼は諦めたくなかった。
彼は、「万操訣」に加え、もう一つの技術を組み合わせることを決意した――それが「回生再脈」である。
これは古の時代、宇宙の原気を用いて深刻な体の損傷を癒す術として、一部の武林の高人たちによって編み出された秘術だった。「万操訣」が内力の転化に重きを置くのに対し、「回生再脈」は、重篤な内傷によって詰まった経脈を再び開通させることに特化していた。それはまるで、大岩によってせき止められた川の流れを回復させるようなものである。
天龍はその術を使い始めた。ただし、単なる気功によってではなかった。彼は宇宙との一体感に集中し、周囲の空間からエネルギーの流れをつかみ取ろうとした。その結果、彼の体内の気はかつてないほどに力強く、かつ穏やかなものとなった。それはまるで、大地の裂け目を優しく流れる清流のようだった。
彼はひとつ、深く息を吸い込みながら呟いた。
「よし…試してみよう。」
体内の気はこれまでになく澄み渡り、力強く循環していた。彼は次なる詰まりに意識を集中させた。気がそこを通過するたびに、彼は細胞ひとつひとつの変化をはっきりと感じ取ることができた。自己治癒の働きが始まりつつあるのだ。掌は熱くなり、その熱は痛みではなく、むしろ力の循環によるものであった。
小さな「パキッ」という音がした。天龍は目を開け、その瞬間を目撃した。ひとつの経脈が完全に回復したのだ。短い部分ではあったが、体が再び命を取り戻すような感覚に、彼は思わず微笑んだ。
「成功だ!」天龍は思わず声を上げた。喜びがその声に満ちていた。
だが、彼はそこで満足しなかった。ひとつの経脈が癒えたということは、他の全てもまた癒すことができるはずだ。彼は「回生再脈」をさらに強く、より繊細に、そして呼吸と動作を緻密に調整しながら施した。この過程が簡単でないことは分かっていたが、一つ一つの詰まりが解消されるたびに、希望の光は強くなっていった。
時が過ぎるにつれ、体内の変化はより顕著になっていった。経脈の流れが徐々に整い、身体は部分的に回復していった。それだけではない。寒毒もまた、次第に薄らいでいた。天龍は、体内の気が徐々に清らかになっていくのを感じ取った。もはや毒がその流れを妨げることはない。
「ついに…方法を見つけた。」天龍は静かに微笑みながらそう口にした。努力の末、ようやくこの体を癒す術を見出したのだ。
すべての経脈が通ったとき、彼の体は羽のように軽くなった。寒毒ももはや彼を麻痺させることはなかった。ただし、彼は理解していた。これが終わりではない。肉体はこれからも数々の試練を受けるだろう。しかし少なくとも、彼は始まりを作ることができたのだ。
「ここで止まるわけにはいかない。」天龍はそう思い、心の中で固く誓った。たとえどれほど困難であっても、彼はこの体を、再び苦しみに晒すことなど、決してしないと。
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