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「最弱に転生したので、最強のハーレムを作って身を守ることにした」  作者: Duck Tienz
第19章 メインストーリーが始まる
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Episode 181

 目をもう一度開けた。

 でも今回は草原の丘でも、あの世とこの世の境目でもなかった。

 頭上に見えるのは、古びた木の天井。低くて、カビ臭い。

 体を起こすと、そこは狭い部屋だった。シングルベッド、ぐらぐらの木の机、細い窓がひとつ。外は暗い路地が見えるだけ。


「……ここ、オレの家か?」と、つぶやく。


 いや、家なんて立派なもんじゃない。「巣穴」って言うほうが正しい。

 今のオレの肉体――“滅人ディエトニン”という、このガキ――はただのゴミ溜め地区の貧乏人だ。


 ゆっくり立ち上がって、トイレのほうへ歩く。

 ギィィ、とドアが鳴って開く。鏡の中に、オレ自身が立っていた。


 一瞬で、息が止まった。

 かつて背まで伸びていた白金の髪――一万年の神威の象徴――が、消えている。

 代わりに映るのは、黒く短く、ぼさぼさの髪。

 宇宙の光を宿した青い瞳も、もうない。ただの、くすんだ茶色の瞳だけ。人間と同じだ。


 鏡に手を伸ばす。青白い肌、細い身体、何の威圧感もない。


「力を封じられてる……」歯を食いしばり、かすかに言う。


 頭の中に、地球に降り立つとき決めた“あのルール”がよみがえる。


 ──命の危険にさらされたときだけ、力が解放される。

 ──一度につき、10分まで。

 ──一日に最大3回。

 ──そして解放しても、惑星を壊せないレベルまで減衰する。


 洗面台に頭を預け、水の滴る音だけが響く。

「このルールを作ったのはオレ自身だ……破ろうと思えば破れる。

 でも、破ったら地球に来た意味がなくなる……」


 思考に沈みかけたとき、背後から年寄りの男の声が割り込んできた。


「……おい、若いの。やっと目ぇ覚ましたか。うちの孫が呼びに来なかったら、もう丘の下で野垂れ死にしてたぞ。」


 振り返ると、痩せた老人が立っていた。背中は少し曲がり、木の杖にすがり、白い髭と髪。

 その目は優しさと鋭さを同時に宿して、まっすぐオレを見ている。


 かすかに思い出す。気を失う前、ゴミ溜めの中で震える少女の姿。呼びかける唇。

 あれが、この老人の孫だったのか。


 目を細め、低い声で問う。


「……どうしてオレの居場所を知ってた?」


 老人が眉を上げ、不思議そうにする。


「なんだ、記憶でも飛んだのか? ケガはたいしたことなさそうだがな。まあいい、細けぇことは。」


 杖に手を置き、オレを上から下まで見て、にやりと笑う。


「それにしても、あんた、どうやって丘の上まで行けたんだ? このゴミ地区の連中じゃ、あそこまで登れんぞ。」


 オレは黙った。何を説明しても無駄だ。


 老人はため息をつき、頭を振った。


「まあ、言いたくないなら無理に聞かんがな。……ただな、あんた、その顔、ちょいと整いすぎとるぞ。孫娘が惚れちまうかもしれん。」


「……どういう意味だ」と眉をひそめる。


 老人はへへっと笑い、茶色い小箱を差し出した。


「これ、あの子からだ。チョコレートの箱。あれが一番好きなんだとよ。貧乏すぎて一粒一粒が宝物みたいな子が、全部あんたにやるってよ……それで察しな。」


 そう言って、老人はくるりと背を向け、のそりのそりとドアへ。

 オレは部屋に立ち尽くす。

 チョコレート――ただの甘い贈り物。けど、ゴミ溜めで生きる子供にとって、それは世界そのもの。


 箱を握りしめる。

「……まさか、オレの地球での運命は、あの弱々しい少女から始まるのか?」


 考えがまだ渦巻いているとき、コンコンと杖でドアを叩く音がした。

 老人が息を切らせて戻ってくる。


「頼む、若いの……遠くで、あのクソガキどもがうちの食料を奪ってる。孫娘はまだ十歳……なのに、奴ら、あの子に汚ねぇことまでしようとしてる。オレひとりじゃ止められん……助けてくれんか。」


 その瞬間、拳がきゅっと締まる。血とゴミの匂い、想像上の悲鳴が耳に押し寄せる。胸が痛い。心臓が激しく打つ。


 オレは、運命に命じられたようにひとことだけ言った。


「……案内しろ。」


 俺は風みたいに駆け込んで、チンピラどもの真ん中に着地した。土と石がはじけ散り、そいつらは跳ね上がった。超能力なんか使わずに、関節と反射、そして何千年の戦闘経験を頼りにするだけでいい。こんな14歳のガキの身体でも、こんなクズいならず者どもを一掃するには十分だ。


 相手は四人。口ばっかりのチビ、電柱みたいにでかいデブ、ぶひぶひ息をする豚みたいなヤツ、そして細っこいやせっぽち。ここらのゴミ溜めじゃ、こういうのを「安物のチンピラ」って呼ぶ。食い物を奪い、子供に手を出すのが商売だ。


 チビが先に罵声を浴びせる。


 —「死にてぇのか、このクソ野郎。どこのつまんねえ面下げて口出してんだ?」


 でっけえのが目を剥いて、吐き捨てるように言う。


 —「どけよ、オレがこのガキで遊んでやるんだ!オレの権利だ!お前、オヤジが誰か分かってんのか?」


 俺は薄く笑って鼻であしらう。


 —「知ってるよ。お前の親父は、自分のときめきを生み出したことを後悔してるだろうな。聞けよ:なんでお前らここに集まってるんだ?女のためか?酒か?それとも頭の中がクソとゴミで満ちてるのか?権利を主張したいなら、まず他人を敬うことを学べ。」


 でっけえのが真っ赤になって、首の筋を浮かせて怒鳴る。


 —「くたばれ、このチンカス、死ぬ準備しとけ、クソ野郎!」


 俺はため息を一つつき、構えを調えて、授業でも始めるような平坦な口調で言った。


 —「よく聞け。俺は聖人でも警察でもねえ。ここに来たのは、子供が辱められそうだからだ。お前らが引かなきゃ、立つ力すらへし折ってやる。分かったか?」


 そいつらは喚きながら、一斉に突っ込んできた。


 その瞬間、俺はひとつひとつの動きを鮮明に見渡した。この身体は弱いが、技術は残ってる。でっけえヤツの襟を掴み、米袋を放り投げるみたいに叩きつけ、デブには正面から蹴りをぶち込んで内臓を吐かせた。細いやつには肘打ちで腹をへこませ、残り二人を回し蹴りで腐った水たまりにぶち込む。


 一撃一撃が狙い澄ましてある:膝、股間、肋骨。犯すには充分な痛みだが、殺すつもりはない。


 デブが這い上がり、震えながら懇願する。


 —「許…許してくれ…初めて…母さんが待ってるんだ…」


 俺はそこに立ち、剣道の師範みたいな険しい声で言った。


 —「聞け。俺はお前らを殺したくねえ。ただ、全ての行為には代償があるって分からせたいだけだ。痛みってのは骨に刻まれる教訓だ。これから改心して食料を返し、子供に手を出さねえなら、俺は命を助けてやる。そうでなきゃ…お前ら全員を去勢してやる。分かったか?」


 デブは顔を歪め、どもりながら言う。


 —「ち、違う…関係ねぇ…俺はただ…」


 俺は遮り、冷たい声で言い放つ。


 —「嘘をつくんじゃねえ。お前も一緒になってやったんだろ。それだけで十分だ。起き上がってここから消えろ。次に見かけたら、今度は警告だけじゃ済まねえ。」


 言い終えると、股間に向けて正確なパンチとキックを数発叩き込みやった。そいつらは出血する豚みたいに叫び、のたうち回って逃げ出した。振り返る奴は一人もいねえ。


 角で縮こまってたその女の子は、涙目で震えながら言った。


 —「あ…ありがとう…助けてくれて…あなた、強い…」


 俺は膝をついて目線を合わせ、やわらかく言った。


 —「よく聞け。強さは人をいじめるためのもんじゃねえ。強いってのは、力を正しい場所に使える奴だ。これから誰かにいじめられたら、大声で叫んで大人を探せ。助けに来る人はいる。決して黙るな。」


 女の子は頷き、さっきじいさんが渡せと言ったチョコの箱を差し出す。


 俺はそれを払いのけるように戻し、そっと言った。


 —「大事なのは、君が大切に思ってるものだ。持ってな。俺にはいらねえ。」


 遠くからじいさんが駆け寄ってきて、息を切らしながら言った。


 —「ああ、ありがとう若いの!あんたがいなきゃ孫娘は…」


 俺はズボンの土を払って、そっけなく答えた。


 —「何でもねえ。ただ次からは見張りをつけろ。食い物は分け合え。子供たちには最低限の護身術を教えろ。いつも俺みたいなクレイジーが来るとは限らねえ。」


 じいさんは俺をじっと見つめ、ありがたみと疑念が入り混じった目をしていた。


 —「お前…普通じゃないな。だが、ここにいてくれて助かった。」


 俺は薄笑いを浮かべ、ありのままに説明した。


 —「聞け。俺はここ出身じゃねえ。本当の力は封じられてる。必要なときだけ、日に何度か開くんだ。俺は英雄ぶるつもりはねえ…嫁を探しに来ただけだ。后宮がでかけりゃ、俺ももっと強くなる。」


 じいさんは固まって、まるで便秘にでもなったような顔つきだ。たぶん心の中で「こいつ頭おかしいな」と思ったに違いねえ。でも口には出せなかった。


 女の子はじいさんの手をもっと強く握り、また俺に向ける目が輝いた。まるで俺を信じきったかのように。


 俺は背を向け、灰色の空を見上げて口元を引き上げた。


 —「ああ、俺ってマジでイケてるな。」

 部屋に戻ると、俺はそのままオンボロのベッドに倒れ込んだ。息は荒く、胸が大きく上下して、まるで長距離を走った後みたいだ。思い返せば、さっきの小競り合いなんて、昔の敵に比べりゃ取るに足らない。けど、今は違う。力は封じられ、この身体はもう不壊の神体じゃなく、ただの人間だ。片手で目を覆い、小声でつぶやく。


「ちょっと動いただけで、もう息切れかよ… もし強い敵に会ったら、どうするつもりだ? 一日に三度、十分钟だけの解放… 少なすぎる。」


 考えに沈んでいると、ドアを叩く音がした。外から年寄りのかすれた声が聞こえる。


 —「おい、若いの。夕飯を食いに来んか? 客が来るなんて久しぶりだ。ちょうどあの子が小さなケーキを焼いたんだ、誕生日祝いにな。質素だが、少しは温もりになるだろう。」


 俺はがばっと起き上がった。額にはまだ汗が滲んでいたが、心の重みが少し軽くなった気がした。


 —「はい、ぜひ。実は腹も減ってたんで。」



 ---


 老人の家は丘の外れに建つ木の小屋だった。中に入ると、かまどの煙と温かい汁物の匂いが入り混じり、狭い部屋いっぱいに広がっていた。


 台所から、一人の少女が走って出てきた。黒く長い髪が揺れ、丸く澄んだ瞳がこちらを見つめる。俺を見た瞬間に立ち止まったが、その目は光を帯びた。


 —「お兄ちゃん… わたし、カエラ・ヴェイラっていいます。今日で十二歳になったんだ。お兄ちゃんのお名前は?」


 思わず面食らったが、すぐに微笑み返して答えた。


 —「俺はディエト・ニン。まあ、この辺に来たばかりってとこかな。よろしく、カエラ。」


 少女はぱっと花が開いたように笑った。その無垢な笑みは、部屋の空気を一瞬で明るくした。初対面なのに、なぜか俺に特別な好意を向けている… そんな直感が走った。


 カエラは元気よくまた台所に消えていき、皿を運び出し始めた。その間、老人が俺の隣に腰を下ろし、煙管をふかしながらゆっくり語り出す。


 —「知ってるか、今日はあの子の十二の誕生日だ。そしてな、ディエト・ニン。お前は、あの子にとって初めての“友達”なんだ。」


 俺は眉をひそめ、驚きを隠せなかった。


 —「初めての友達? 冗談でしょう? あんなに可愛くて、賢そうで、元気そうな子なのに。どうして?」


 老人は首を横に振り、少し影の差す目をした。


 —「友達はいたさ。去年までは学校で仲のいい男の子がいた。だがある時、その子がカエラをいじめたんだ。その瞬間… 中に眠ってた何かが目を覚ました。凄まじい力だった。ほんの一瞬で、その子は重傷を負い… 今も寝たきりで回復してない。」


 部屋の空気が張りつめた。俺は唾を飲み込み、低く問う。


 —「つまり…カエラの中には力が眠ってる? けど、さっきあのチンピラ共に襲われかけた時は…何も起きなかった。どうして?」


 老人は長い息を吐き、答えた。


 —「あれは制御できん。感情が極限まで押し上げられた時… 恐怖、痛み、怒りが爆発した時だけ、力は目を覚ます。普段はただの子供だ。」


 俺はしばらく黙り、それからふっと笑った。


 —「なら問題ない。俺がこれから友達になってやる。毎日話して、遊んでやる。それだけでカエラは孤独じゃなくなる。抑え込みすぎて暴走することもなくなる。」


 その時、カエラが盆を抱えて戻ってきた。並んだのはごく質素な料理。白いご飯、煮魚、茹でた野菜、そして湯気の立つ汁物。そして机の真ん中には、チョコレートクリームのケーキ。カカオの香りに、赤い苺がちょこんとのっていた。


 カエラは照れくさそうに呟く。


 —「これ、わたしが作ったの。ちょっと不格好だけど… お兄ちゃんとおじいちゃんと一緒に食べたくて。」


 老人は豪快に笑い、口から煙を吐きながら言った。


 —「不格好だと? 上等だ。チョコなんてな、この子が一番好きなもんでな。今まで誰とも分けたことがない。それを今日はお前に差し出してる… ディエト・ニン、意味は分かるな?」


 俺は少し固まった。胸の奥に、甘くて温かい感情がふつふつと湧き上がる。カエラの頬はほんのり赤く、視線を逸らしている。思わず笑みがこぼれた。


 —「ありがとう。俺、こんな真心のこもった贈り物は初めてだ… 必ず大事にする。」


 小さな家の中が、次第に温かい空気で満ちていった。外では丘を渡る風がうなりを上げていたが、台所の炎は三人の顔を柔らかく照らしていた。その時、ふと気づいた。――長い年月の果てに、ようやく見つけたのかもしれない。ここが、本当の“家”ってやつなのだと。


この章は少し短いようですが、生活のためにまだお金を稼ぐために外出しなければならないことをご理解ください。ストーリーの公開頻度が不定期であるため、遅れが生じています 相互作用が失われました。

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