表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/191

Episode 151

俺は立っとった。

あの化け物の頭、まだクネクネしとる。まるで逆流する川に浸かっとるガガブタの茎みたいにな。

…まだ死んどらん。

…まだ分かっとらん。

…まだ知らんのや、自分が何に相手しとるかを。


ちょうど、俺が初めて拳を上げたあの日みたいや。

誰も信じとらんかった。

なんで、こんなヘラヘラ笑っとる顔した奴が、一つの文明をぶっ壊せるんかってな。


> 「粘るなあ…」

って、俺は息吐きながらつぶやいた。

まるで、昔の感覚が…ふと蘇ってくるみたいに。





---


肩に積もっとった砂をパパッとはたきながら、横で浮いとるドローンカメラに目を向けた。

おそらく、まだ中継しとる。

地球のどっかで、顎震わせながら見とる連中に向けてな。


> 「まだ撮っとるんか? ほな……最後までちゃんと撮っときや。あとで……編集いらんようにな。」





---


化け物は、まだ倒れとらん。

半身が、無理に熟れたドリアンみたいにバッキバキに割れとる。誰も食いたがらんやつや。

その目を見た。ギラギラしとるのに、どこか空っぽやった。

問いかけてくるみたいやった。


> 「お前……何者や?」




俺は、薄く笑うだけで、何も言わんかった。


> 「もう、時間がない。」

そう心の中で呟いて、空を見上げた。




黒雲が、ぐるぐると渦巻いてきとる。

まるで空そのものが顔隠して泣いとるみたいや。

これから……何かが世界から消えることを知っとる顔で。



---


俺は軽く頭を下げて、膝を沈めて、バネみたいに跳ね上がった。


空へ――真っすぐに。


この感覚、久しぶりやな。

空気が薄ぅて、風が頬をムチで打つようにビシバシくる。

心臓も、凍りそうやった。


雲の層に突っ込んで、両腕を広げる。

深く、心の奥底――そこにはもう怒りも悲しみもない。ただ、ひとつだけあったもんを引っ張り上げる。


「責任」っちゅうもんや。


口から、古びた呪文がポロっとこぼれた。

まるで、田舎のじいちゃんがため息混じりに言う言葉みたいやった。


> 「天書奥義……雷牢爆星撃。」





---


雲が渦を巻き始める。

銀の龍みたいな稲妻が、天でじゃれあっとる。

俺の手のひらに――雷が凝縮してくる。

紫と灰の混ざった電気の塊。

速すぎて形すら見えん。


感じとった。

心臓の一拍ごとに、力が集まる。

一度集まれば、一つ記憶が閃く。


> 「この技はな……“終わり”っちゅうもんを信じとる時にしか使えん。」





---


下を見た。

化け物はまだ這うとる。

でももう、最初みたいに獰猛ちゃう。

ただ……本能だけで生きようとしとる。


俺は少し首を傾けて、氷張った湖みたいな目で見下ろした。


> 「俺が降りたら、這うこともできんようになるぞ。」





---


俺は落ちた。

いや、落ちるっちゅうより……火柱のごとく、突っ込んだ。


スピード?そんなもん、もはやどうでもええ。

自分が何かを“感じる”っちゅう概念さえ、もう置いてきた。


地面まであと一秒――

目と目が合った。


その目は、もはや敵の目ちゃうかった。


それは、かつて俺を見た“あの人たち”と同じ目やった。

俺に殺されたんやない。

“俺のことを、最後まで理解できんかった”ことに気づいた時の目やった。


> 「……じゃあな。」

俺はボソッと呟いた。




> 「ほんまは朝飯食いたかったけどな……まあ、しゃーないか。」





---


ドガァァァァァンンンンンン————!!!


空と大地が触れた瞬間。

雷の槍が、天から突き刺さった。

空は……真っ白になり、

地は……砕けた。

時さえも……音を失った。



---


一拍――

それだけ。


それで充分や。


「ボガアアアアァァァァン————!!!」


衝撃波が海面を引き裂き、

砂の層を、紙切れみたいに吹き飛ばす。

雷の花が咲いた――名もなき空の真ん中で。


世界中の放送は……真っ白になった。

音は途切れた。

残ったのは、息を詰まらせる視聴者の呼吸音だけや。



---


誰にも分からん。

何が起きたかなんて。


ただ、こういうことだけは言える。


ひとりの男。

ひとつの一撃。

ひとつの鼓動。


ひとつの星が、墜ちて――そして、消えた。



---


俺は……まだ、ここにおる。


無事とは言えんけどな。

けど、生きとる。


> 「天書奥義……」

俺は静かに息を吐いて、独り言みたいに呟いた。




> 「……強いのは強いんやけどな。毎回使うたびに……なんか、ぽっかり空いた気分になるんや。

誰も耐えられへん。一番弱い技ですら、や。」




俺は手のひらを見下ろす。まだ、ぬくもりが残っとった。


> 「ほんまはな、一撃食らっても、生き残ってくれる奴が……いてほしかっただけや。

それだけやのに……たぶん、それは……欲張りすぎたんやろな。」


爆発の音はもう消えたのに、耳はまだジンジンしとる。

まわりが……怖いくらい静まり返っとる。


目の前の海は、もう海やない。

煮え立っとる。煙立っとる。

黒い泡がぷかぷか浮いて……まるで灰が水の上に降っとるみたいや。


砂も色を失って、血と、焦げた埃と……肉が混ざり合っとる。

あいつの肉や。

もう形なんてない。

呼吸もない。

何も……残っとらん。


俺は立ち尽くしとった。


嬉しくもない。悲しくもない。

昔みたいに勝った喜びも……湧いてこん。

ただ、空っぽ。

そして……疲れとる。



---


俺は目を上げた。

海も空も見ん。

もっと向こう、雲の裏側……ずっと先を見た。


普通の人には見えんけど、俺には見える。


大気圏の外に浮いとる、ひとつの影。


冷たい影。

こっちを見下ろしとる……まるで、ゲームでも観戦しとるかのように。


> 「ついに……あいつが出てきたか。」




そう呟いたのは、きっとあいつらの通信機の中や。

俺には聞こえんけど……感じたんや。



---


分かっとった。

実は、ずっと前から分かっとった。


俺が何かやるたびに、誰かが記録し、分析し、そして……次の何かを準備しとる。


人かもしれん。

……人じゃないかもしれん。


でも今は、そんなこと考えとる暇ない。



---


ヒールの音が、びちゃびちゃの板の上を「コツコツ」と鳴らして近づいてきた。


聞き覚えのある声や。

ちょっと怒っとる、ちょっと震えとる、でも一番強いのは……心配の色。


> 「ディエット!何突っ立っとるのよ!?早く中に入って!!」





---


振り返った。

アンザクラやった。


髪はボサボサ、目も赤い、顔も赤い――

恥ずかしさやない。

あれは、俺を探して走り回ったからや。

この焼け跡の中を。


俺は苦笑いして、片足を上げるような素振りした。


> 「いや、今ちょうど……戻ろう思うたとこ。」




……けど、足は根っこでも生えたみたいに動かん。



---


風が吹いた。

雷の焦げた臭い、焼けた肉の臭い、火の残り香……

全部まだ、空気の中に漂っとる。


俺は息を吸った。


……苦ぇ。



---


遠くで、何人かが隠れとった場所から這い出してきよった。

カメラのクルー、通信兵、あのオレンジ髪の助手も……

誰もかれも、地面にへばりついたみたいやった。

まるで死んでて、生き返ったばっかりみたいに。


どの顔も、目を見開いて、幽霊でも見たかのような顔。


そして、スピーカー越しに声が響いた。

震える声で。


> 「……我々は今、ひとりの男が、素手で……惑星級の異獣を殺した瞬間を目撃しました。」





---


俺は背中を向けて、水に飛び込んだ。

一歩ずつ、桟橋に向かって進む。

水は冷たかった。

波が太ももに当たり、腹に当たり、胸まできて……

それでも俺は、普通に歩いて岸に上がった。


ゆっくり、静かに。

まるで悪夢から抜け出すみたいに。


いや……もっと言えば、自分自身から抜け出すような足取りで。



---


アンザクラが駆け寄ってきた。

目はまだ潤んどる。

俺の手をぎゅっと掴んで、震えながら言うた。


> 「アンタ、無事なん!?……何考えとるの!? そんな技、もし死んどったらどうすんのよ!!」





---


俺は少しだけ見つめた。

汗で濡れた髪。

けど、あの香りは……変わらんかった。


俺はそっと手を伸ばして、頬を撫でた。

まだ、指先に電気が残っとった。


> 「死なんさ。

……あんたと結婚するまでは、な。」





---


アンザクラの顔、真っ赤になった。

怒っとるんか、照れとるんか……たぶん、両方やろな。



---


その背後から、拍手の音が聞こえてきた。

最初はまばら……

それがだんだん大きく、強く、重なっていく。


歓声ちゃう。


生き延びた者たちの……静かな共鳴や。



---


誰かがスマホでニュース流し始めた。


> 「西側の海岸からの映像が現在、世界中に生中継されています……」

「“ディエット・ニン”とされるSランクの個体が、たった一撃で宇宙生命体を討ち倒しました」

「そのエネルギー値は、あらゆる基準を遥かに超えています――」





---


俺は息を吐いた。


> 「……もうバレたな。」





---


また風が吹いた。


空にはまだ黒雲が残っとる。

焦げた匂いは、まだ空気の中に染み付いとる。

海面はもう波ひとつ立たん。

静か。冷たい。


でも……

俺の中には、今……嵐が生まれようとしとる。


なぜなら……

今日を境に、


――もう何も、普通ではいられんのやから。


まったくなあ……


この世には、いくら生きとっても分からんもんがある。


たとえばな……

死ぬか生きるかの修羅場をくぐり抜けた人間が、最初に欲しがるもんが……

権力でも、金でも、名声でもないっちゅうこと。


……一番に欲しいのは、

誰かの腕の中で、ただ寄りかかれる……そんな場所なんや。



---


地球から何百万光年も離れた、遥か彼方の空の向こう――

何かが……うごめいた気がした。


目には見えん。

でも、心がそれを感じとった。


それが、目を開けた。


人の目でもない。獣の目でもない。


それは……《始原の目》。


この宇宙が「終わり」っちゅう概念を知ってから、

たった二度しか開いたことのない目や。


一度目は、すべてが古代ブラックホールに飲まれたとき。


二度目は……

さっき俺が、あの異獣の心臓に拳を突っ込んだ瞬間。



---


物理も哲学も、別に得意ちゃう。

けど……その時、心臓の鼓動がズレた。


まるで、どっか遠い場所から、誰か――いや、何かが

俺を見とる気がしたんや。

「秩序を変える存在」としてな。



---


……まあええわ。

そんなこと考えとったら、頭痛くなるだけや。



---


海風が首筋をなでていく。

俺は割れた岩の上で息を整えとった。

手にはまだ、生々しい血のぬめりが残っとる。

雷の焦げた匂い、生焼けの肉の臭い……髪一本一本に染み込んどる。


そしたら、アンザクラが隣にすっと座ってきて、

肩に頭を預けてきた。


何も言わん。

けど、鼓動が……いつもより速い。


しばらく経ってから、小さな声で囁いた。


> 「ねえ……結婚、早めにしちゃおっか。」





---


俺は顔を向けた。


あの目――冗談でもないし、重たくもしすぎてない。


ただ、まっすぐで……正直な目やった。



---


> 「戦争のあと、血のにおいのあと、死のあと……

人が一番求めるものって、結局“誰か”なんだよね。」




声にはせんかったけど、

その想いは……胸に深く刺さった。



---


俺は口下手や。

でも、ひとつだけ、できることがある。


それは、

アンザクラの手をしっかり握ること。

まるで、手を緩めたら、また引き離されるみたいに。


> 「ああ。結婚しよう。

何が起きても、後悔せんためにな。」




そう答えた。


ふたりとも、それからしばらく黙っとった。


聞こえるのは……波の音。

遠くのヘリの音。

まだ更新され続けとるニュースの声。


> 「Sランク個体・ディエットニンが、宇宙生命体を素手で一撃にて討伐」

「計測されたエネルギー放出量は、現在の限界を超え……」





---


みんなが、少しずつ動き出した。


Zarisの兵たちが到着して、いろんな装備と書類を持って降りてきた。


黒服の高身長の男が、俺たちのところに来て、命令書を差し出す。


> 「ディエット・ニン、アンザクラ。政府の決定により、今この瞬間からZarisへの正式加入となる。」





---


俺はゆっくりと男を見上げ、息を吐いた。


> 「地位はいらん。必要なのは、チームや。」





---


男はうなずいた。


> 「新しい部隊にはまだ名前がない。

けど、君たちはダン・シュエン、リー・トゥアンと共に行動する。

四人で、“誰も受けようとしない任務”を引き受けることになる。」





---


俺はアンザクラを見た。


彼女は目を細めて、ふっと笑った。


> 「じゃあ……私たちの新婚旅行、Zarisってことね?」





---


俺は吹き出した。

けど、心の中は少し重かった。


あの異獣の目――

……あれが終わりじゃないって、分かっとるからや。



---


風が顔をかすめていく。


俺は空を見上げた。


誰も気づいとらん。


……でも、俺だけが見えた。


空に走るひと筋のヒビ。

鏡が割れたような、細くて危うい線。


爆発せん。

ただ……崩れ落ちてきとる。

ゆっくりと。

まるで、九層の雲から一滴の雨が落ちようとしとるみたいや。



---


> 「……来るぞ。」





---


アンザクラも、俺が見とる方向を見た。


> 「何? なにが見えるの?」





---


俺は、答えんかった。


言っても……誰にも理解されへん。



---


ただ、分かっとるのはひとつだけや。


これからの毎一秒が――

愛するための一秒。

生きるための一秒。

そして、“人間であること”を守るための一秒。


……だって、

俺たちは今から――


地球より遥かに大きな戦いに巻き込まれるんやから。


それはもう、

“愛”さえも試されるほどの規模で。


遠く──

想像したどんな場所よりも、もっと遠く。

光さえ逃げ出し、時間もため息をついて止まるような場所。


何かが…

身じろぎした。



---


神でもない。

魔でもない。


それはただ…宇宙で最も古い静けさに、

名がついたもの。


> 古代神獣──玄亀魔神げんきましん





---


その名を…紙に書く者はいない。

紙は燃えるし、

口は裂け、

魂は砕けるから。



---


かつて、人間の少女の歌声を聞いただけで──

星座ひとつ、丸ごと飲み込んだことがあるらしい。

科学者たちは“原初の均衡力”と呼び、

神々は“光が生まれる前の闇”と呼んでいる。


でもオレは…

オレはただこう呼ぶ:


> 「心の鼓動を知ってるヤツ」





---


なぜなら──

あいつは、オレの心音を聞いた。


力じゃない。

血の流れでもない。


ただただ…誰かを想いすぎて、自分が溶けてもいいと思える、

そのときにしか出ない…震え。



---


その震えは、

アンタの寝息くらいにちっぽけだったけど──


あいつの中にあるネクサスター二ティの石を…そっと震わせた。



---


そして地球では──

ばあちゃん家の裏庭で、オレはパンツたたんでスーツケースに詰めてた。


横でアンタ、髪まだ濡れたまま、バスタオル巻いて…

なんと、透け透けの赤いレースブラを取り出してこう言った:


> 「ほら、昨日アンタが言ったセクシー下着。持ってくからね?」





---


オレ、目ぇまん丸にして笑った。


> 「持ってけとは言ったけど…まさか裏庭で披露するとはな」




> 「だってさー、サラクにレース禁止って書いてあったら困るでしょ?今のうち確認!」





---


オレ、また笑う。

この子な、春の陽みたいに柔らかいかと思ったら、

次の瞬間には台風12号。


一緒にいたらオレ死ぬわ…でもいなきゃ生きてられん。



---


二人でスーツケース持って車に乗り込む。

目的地:サラク──組織ザリスの本拠地。


でもオレたちにとって、あそこは…

「愛する」と「生きる」の間にある、つなぎ目みたいなもんや。



---


サラクは、都市なんかじゃない。

あれは──

人間がまだ夢にも見たことない、“何か”。



---


空を飛ぶビル。

空中を歩く人々。

サトウキビジュース運ぶロボット。


透明なスクリーンには、空の向こう側が映っとる。


まるで昨日、100年後から落ちてきたような場所や。



---


新兵区に入れられたオレたち。

配属もまだ。役割も不明。

ただ、4人の新兵が同じ班にされた。



---


陽炎ようえん──いや、今は「ドクター・ダウン」と呼ばれてる。

医務室で、胸にコード差し込まれて寝とった。


オレ、そっと覗いた。

手が…わずかに動いた。


> 「生きとるな…」

オレ、ぼそっと言った。





---


医者いわく、彼の神経機械が自分で修復し始めとるらしい。


あいつはな、簡単には死なん。

地獄の門番みたいな奴や。

殺されても、「あと三分遅く死なせろ」って言い返すタイプ。



---


隣の部屋。

李・ツアンは、設計図やらコードやら、

まるで先祖の腹から落ちてきたようなボロ本に囲まれてた。


額に汗。手が震える。

けど目は…火星みたいに燃えとった。


> 「オレは速さなんかいらん」

あいつ、目も上げずに言った。

「誰にも、追いつかれたくないだけや」





---


本のタイトルは:


> 『開放──李一族の核心かくしん




李家の中で失われた何百年の秘書。

血に眠る“加速遺伝子”を全開放する方法が記されとる。


けど、試したやつは皆、燃えた。



---


オレは彼を見て、不思議な気持ちになった。

羨ましさでもなく、不安でもなく。


ただ…

星が昇る瞬間を見た人間の、あの感覚。



---


そして残るは──

オレと、アンタ。


図面もない。

機械もない。

神様みたいなご先祖も、おらん。


でもオレたちには──「お互い」がある。



---


で、その「お互い」がな──

夜になると布団の中で…どれだけ大きいか思い知るんや。



---


その夜、新兵寮の604号室。

カーテンが揺れ、

卵の黄身みたいな灯り。

オレは手を枕にして寝転んで、アンタはオレの腹の上に頭のせてた。


> 「明日から訓練やね」

小さく、アンタが言う。

「怖い?」





---


オレ、髪をそっと撫でる。

グレープフルーツみたいな香り。


> 「怖くない。でもな、ちょっとドキドキするわ…

訓練は越えられる思う。

でも…毎晩こうして一緒に寝てたら…乗り越えられるかはわからん。」





---


アンタ、くすっと笑って──

そっと手を腹に滑らせて、

指で遊ぶみたいに円を描いた。


> 「……越えてみる?」





---


オレ、唾を飲む。


部屋中が、オレの心臓の音になった。



---


その夜は…

ほんまの意味で、オレたちが「ひとつ」になった初めての夜やった。


触れるたび。

吐息が混じるたび。

沈黙の間すら…何か大きなものの序章みたいで。



---


言葉は、そんなにいらんかった。

ときに…二つの口が必要なのは、言葉やなくて──

同じ声で、あえぐことや。



---


アンタが寝落ちて、

額に汗。髪は乱れて。

唇がほんの少し開いて、まだオレの名を呼びかけとるとき──


オレ、ふと思った:


> 「あれ?オレたち…まだ、危機が始まったこと知らんかったよな?」





---


サラクの空に──

微細なひび割れがひとつ。


誰にも見えん。

どんなカメラにも映らん。


でもオレの背骨が、それを感じた。



---


玄亀魔神──目を開けた。



---


怒ってもいない。

喜んでもいない。


ただ…

「ディエット・ニン」っていう、

鼓動を響かせたちっぽけな生き物に──興味を持っただけ。



---


オレは、自分が何者か知らん。

どこへ向かうかも、わからん。


でも、ただひとつだけ──


> 明日は訓練初日。

愛する人が、オレの腕の中で眠ってる。

そして…宇宙が、ゆっくりオレに顔を向け始めている。





もしこの記事が少しでも面白いと思ったら、評価をお願いします。下にスクロールすると、評価ボタン(☆☆☆☆☆)があります。


このページをブックマークしていただけると、とても嬉しいです。ぜひやってください。


もしよろしければ、フィードバックもお聞かせください。


評価、ブックマーク、いいねなどは、私が執筆する大きな励みになります。


どうもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ