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Episode 141

読者の皆さまへ


いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。

Dukku Tien Nguyen です。


この作品は、何もないところから始まりました。

拙い文章ながらも、ここまで続けてこられたのは、ひとえに読者の皆さまのおかげです。

毎日の感想、ブックマーク、評価ポイント…ひとつひとつが、何よりの励みになっております。


そして今、ひとつの夢があります。

それは――

この物語を、いつか書籍化、コミカライズ、あるいはアニメ化という形で、多くの方に届けることです。


もちろん、それが叶うかどうかは分かりません。

ですが、この「小説家になろう」という素晴らしい場所で、多くの方に支えられながら一歩一歩進む中で、

「もっとこの世界を広げたい」

「このキャラたちを動かしたい、声をつけたい」

そんな気持ちが、日に日に強くなっています。


もし皆さまが、この物語に少しでも心を動かされたのなら――

ぜひ、感想や評価、レビューを通じて応援していただけたら幸いです。


あなたの一声が、物語の未来を変えるかもしれません。


どうか、今後ともこの物語をよろしくお願いいたします。


心より感謝を込めて。


Dukku Tien Nguyen

カーテン越しの光が枕に落ち、髪に絡まり、まだ覚めきらぬ俺の目をやさしく焦がす。

身体はまるでトラックに轢かれたみたいに重だるく、目の奥がじんわりと痛む。けれど、それ以上に、まだ昨夜の余韻が胸の奥に残っていた。

誰かの呼吸の気配――薄く香るミントと、肌の匂い。


夢の続きを思い出す間もなく、浴室の扉が「カチャ」と開いた音がした。

ぽた、ぽた、と濡れた髪から水が滴り、床を打つ。


濡れたままの髪を片方の肩にひょいと寄せて、

あいつ――アンダオが出てきた。

制服の白シャツ一枚。ボタンは一つ外れてて、なんかこう…あかん、心臓に悪い。


首筋を拭きながら、こっちに近づいて、まだベッドでぐだぐだしてる俺を見て、甘ったるい声で言った。


> 「ダーリン〜、早く起きてよぉ……今日も学校まで送ってもらうんだから。遅刻するよ?」




俺は小さくうめきながら、布団を鼻の上まで引き上げた。


> 「あと五分だけ……昨夜、君に搾られすぎて、呼吸すら怪しいんだが……」




アンダオはベッドの縁に腰掛けて、くすっと危ない笑みを浮かべた。

唇がちょっと上がって、目にはまだいたずらな光が残っている。


> 「搾った〜? 何言ってんの、自分からお願いしてたでしょ。

四つの体勢、全部試したい〜って、寝るどころじゃなかったもんね?」




俺は吹き出して、片目を開けた。

この小さな嫁……まるで季節外れの台風だ。静けさなんて、一発で消し去る。


> 「あぁ、覚えてるよ。君が俺の肩に噛みついて、

『まだ足りない…最初からもう一回…』って喘いだ時、マジでビビったわ」




アンダオの顔が真っ赤になって、照れたように指で俺の額をぴしっとはじく。


> 「誰が先に挑発したんだっけ? 『疲れてない?』って聞いたふりして、

手は全然止まってなかったくせに〜」




俺は布団を蹴飛ばして起き上がる。髪は寝癖で鳥の巣みたいだったが、伸びを一つして背骨がボキボキ鳴った。


> 「疲れるわけないだろ。こんな可愛い嫁がいるんだ。疲れるの、むしろ歓迎だ」




アンダオは小さく笑いながら、俺のジャケットを手渡してくれた。

着替えようとする彼女の腕を、俺はさっと掴む。視線はその短すぎる青いプリーツスカートへ。


> 「おい…そのスカート、外で見せたら……俺が暴れるぞ」




アンダオはくるりと一回転して、スカートの裾がふわりと舞う。

白くてすべすべの太ももが、まるでむいたばかりの大根のように眩しい。

口を尖らせて甘えるように言う。


> 「じゃあ一日中一緒に見張っててよ〜。

それより、今日の予選覚えてる? トーナメントの!」




俺は頷きながら、ベッドの端にかけてあったネクタイを取り、巻きつつ返した。


> 「覚えてるとも。今日はペアの予選。

勝たなかったら、家帰って恥ずかしくて顔上げられんからな」




アンダオは背伸びして、俺の唇にちゅっと軽くキスをした。

風が田んぼを抜けていくような、やさしいキスだった。


> 「今日はね、みんなに見せたいの。私のダーリンが、誰よりも強くて……誰よりも、タフだってこと♥」




俺はジャケットを着て、玄関に向かいながら、ちらりと彼女の挑発的な姿に振り返った。


> 「その口で競技に出たら、間違いなく“挑発王”に選ばれるな」




> 「だって、あなたがすぐ乗ってくれるんだもん〜」




俺は首を振りながらドアを開けた。

この、子どもみたいで、それでいて心から信じ合える夫婦の形が、なんだか妙に胸を温かくさせた。


駐車場に出たら、アンダオはすでに先に小走りで進んでて、

小さな布バッグを背中で揺らしながら、振り向きざまに言った。


> 「早く〜! 今日は早めに行って、良い席取りたいの!」




> 「待てって、俺のお姫様〜」




俺は歩を早めながら思った。

幸せって、別に世界を相手に勝つことじゃない。

朝目覚めた時、「ダーリン」って呼んでくれる誰かがいること――

それだけで、もう十分なんだ。


生徒たちがわいわいと集まって、まるでお祭りのような騒ぎだ。

スポーツウェアを着た者もいれば、キャップを被ってテンションMAXな奴らもいる。

スピーカーからは注意のアナウンスが鳴り響く。


> 「朝のランニング競技、まだ登録していない人は急いでください! Aグループ、残り枠わずかです!」




俺は車から降りて、両手をポケットに突っ込んだ。

風がそっと吹いて、日差しはまだ優しく、肌をやんわりと温めてくれる。


隣にはアンダオ。髪を高く結び、白と青のピタッとしたスポーツウェアを着こなしている。

新品のスニーカーがきらりと光り、笑顔は太陽よりも眩しかった。


> 「先生が言ってたよね。30秒切らないと、本選には出られないって!」

と、ガムを噛みながら、俺の脇腹を指でつついてくる。

「あなた、もし遅かったら……ほんとにガッカリだからね?」




俺は鼻を鳴らし、口元に軽く笑みを浮かべた。


> 「30秒超えたら、自主的に一週間、皿洗い・床掃除・部屋の片付け、全部俺がやるわ」




アンダオはくすくす笑いながら、肘で俺のわき腹を再び突いた。


> 「その約束、忘れんなよ〜? ウソついたら承知しないからね」




反撃しようとしたその時、Aブロックから黒ずくめの男が現れた。

冷えた水みたいな顔。黒のスポーツウェア。肩幅が広く、胸板が厚い。

手をポケットに突っ込んで、目つきはまるで失恋直後みたいに重たい。


道の真ん中に立ちはだかると、鋭く俺を見据えた。


> 「ディエ・ニン。」




俺は目を上げて、眉を軽く上げた。


> 「ん? また一緒に写真撮りたいのか?」




> 「お前が速いって噂、聞いたぞ。」

声が低く、喉の奥で震える。

「だが……口ほどにもないって証明してやる」




俺はふっと笑い、片手をポケットから抜いて、腕時計を軽く指さした。


> 「お前がゴールにたどり着く頃には、俺もう卒業して、結婚して、子ども育てて、老後の準備終わってるかもな」




周囲の生徒たちがざわめく。


> 「ヤバいって!」 「またバチバチだよ!」 「誰か椅子持ってこーい、観戦しよ!!」




審判の先生がメガホンで叫ぶ。


> 「200メートル試走、準備! 1組3名! 1位はボーナスポイント!」




俺とリ・トゥアンはスタートラインに向かって歩き出す。

もう一人、そこそこの実力っぽい奴もいた。

背は高いけど、俺を見るたびに目をそらす。……まぁ、無理もない。


俺は軽くストレッチして、深呼吸一つ。

そして静かにスタートの姿勢を取る。風が頬を撫でた。


スタンドの上で、アンダオが手をかざしながら叫ぶ。


> 「ダーリン! がんばってねぇぇぇ! 女の子たち全員、息止まっちゃうくらいの走り見せてぇ〜!!」




俺は小さく笑ったまま、目線は真っすぐ前だけを見つめる。


発砲の合図が響く。


──パンッ!!


……


その瞬間、風が、唸った。


俺は、飛んだ。


誰も何も見えなかった。ただ、グラウンドの草が一斉になぎ倒され、

まるでF1マシンが通り過ぎたかのような風圧だけが、そこに残った。


俺の影が一瞬、光を切っただけで――


もう、ゴールラインに立っていた。


腕を組んで、息一つ乱れず。汗すら、まだ滲んでいない。


> 「終わりか?」

と、審判に振り返って尋ねた。




審判の先生は目を見開き、電子ボードに向き直る。


スコアが表示された。


0.01秒


スタンド全体が……静まり返る。


ただ、風が帽子をひとつ舞い上げて、空に投げた。


リ・トゥアンは、その時ようやく――三歩、進んだところだった。

三歩。


彼は立ち止まり、汗も出ないうちに、血が沸騰するような感覚に襲われていた。

目を見開き、唇をきつく閉じ、拳をギリギリと握りしめた。


> 「ありえない……あいつ、今……目の前から消えた……!」




スタンドから、甲高い叫び声が響いた。


> 「ダーリンが世界一ぃぃぃ!!」




俺は振り返り、前髪をかき上げながら、口元をニヤリと上げる。


> 「どう? リ・トゥアン、煙の味は美味かったか?」




彼は歯を食いしばり、何も言い返せない。

俺はゆっくりと歩み寄って、肩をぽん、と軽く叩いた。


> 「次から誰かに挑む前に、ジャンル確認してからにしろよな。

俺に走りで勝つ? それ、もう宇宙の選択ミスだぜ」




群衆の中の誰かが叫んだ。


> 「おいみんな! もう彼、予選突破したってよー!!」




スタジアム全体が拍手の嵐に包まれた。


アンダオが近づき、冷たい水のペットボトルを俺に渡しながら、にこりと目を細めて言った。


> 「今夜は皿洗い、免除で〜す♥ 自分へのご褒美にしていいよ〜」




俺は水を一気に飲み干し、さらりと答えた。


> 「……じゃあ今夜、もっと“ご褒美っぽい”のをおねだりしてもいい?」




アンダオは顔を赤らめて、唇を噛んだ。


……でも、拒まなかった。


もう陽は昇っていた。

眩しすぎるほどの陽射し。

さっきまで市場みたいに騒がしかったグラウンドが、今では息を呑むほど静まり返っていた。

耳元をすり抜ける風の音すら、鮮明に聞こえる。


俺がまだ観客席の方を振り向く前に──パチン。


小さな音。だが俺の耳には聞き慣れた機械音。

リ・トゥアンの制服が裂け、あらかじめ切り込みの入ったラインに沿って剥がれ落ちた。

その下から現れたのは、反重力強化装甲──エリート専用、技術主任が特注した兵装。

黒と灰の重厚な機体、関節には獣の目のような青い光が灯る。


> 「自分がすごいとでも思ってんのか?」

声は荒々しい。

「口だけじゃ通用しねぇって、体に教えてやるよ。」




俺が答える前に、ヤツが飛びかかってきた。

たった一歩。だが速い。

右腕が機械仕掛けに変形し、瞬時にプラズマを纏ったフックが射出される。

風が裂ける音がした。


俺は、避けなかった。


> 「……遅い。」

ただ、それだけを告げる。




反射的に足を振り上げた。

金属を蹴った感触。

だがその「金属の塊」は、空へと舞った。

糸の切れた凧のように、何回転もして。


観客たちがどよめく。

誰かが、青空の彼方へと小さくなっていく影を見上げながら叫んだ。


> 「マジかよ……サッカーボールみたいに蹴り飛ばしたぞ……」




俺は軽く首を傾け、耳元の銀のピアスに指を触れる。

パチ。


水滴が鏡に落ちたような、青い光の波紋が広がった。

その中から、手のひらほどの黒銀の物体が現れる。

ひんやりとした金属の質感。

捻れた骨のような形──まるで龍の脊椎。


> 「天魂鋼鉄──開放。」




カンッ。

胸の内で雷が鳴るような音がした。

手にしたそれが一瞬で伸び、戦闘用の武器へと変形する。

紫銀の符文が浮かび、蛇の皮膚のように呼吸する。


俺が一歩、踏み出す。


ドンッ!!


地面が掌ほど沈む。

タイルが砕け、俺の体が弾丸のように空へ飛び出す。

風を裂き、子どもたちの視界から消える。


空気は薄くなる。

だが、手は微動だにしない。

視界の先にいる──落下中の黒い影。リ・トゥアン。


俺は棒を肩に担いだ。

まるで農夫が、収穫期に鍬を抱えるみたいに。

急がない。だが、確実に。


> 「リ・トゥアン。」

名を呼ぶ。静かに、鋭く。

「顔、上げろ。」




俺は片口を上げて、微笑む。


> 「挨拶代わりだ。」




黒い棍が、天を裂くように振り下ろされる。

風の音さえなかった。ただ、光が爆ぜた。

まるで太陽の痙攣のように。


ドォオオオオン!!!!!!!


スタジアムの地面が揺れた。まるで地震のように。

数人が転げ落ち、叫び声が上がる。


空中に俺は浮かび、砕け散るセメントの破片と共に宙に漂う。

リ・トゥアンは、三メートルほどのクレーターに沈み、装甲は歪み、四肢はバラバラ、目は白目をむいていた。


俺は数秒間、ただ見下ろして言う。


> 「俺を侮辱したいなら──タイミングを選べ。」

声は小さい。でも、響いた。




> 「あるいは……来世で。」




手にした棍が収縮し、再び小さくなる。

パチ。ピアスに吸い込まれた。


俺は地面に着地する。

砂埃が足元で渦を巻き、長く伸びた影が太陽の下に一筋の黒を刻む。


振り返らない。

ただ、スタンドへと歩を進める。

そこには、アンダオ。

両手で口を押さえながら、破顔の笑みで叫びそうになっている。


> 「やっぱりダーリンが世界一ぃぃぃ!!」




俺は口角を上げ、小さく頷いた。


この一撃は、リ・トゥアンを倒すためじゃない。

俺の周りにいる“全て”への警告だ。


俺の人に触れるな。

俺の心を試すな。

そして──風の中に刃がないと思うな。



---


ステラ学園・第5階・判事室


部屋は真っ白だった。

四方が氷のように光り、中央には空中に浮かぶ審判の卓。

数台のドローンが俺の顔をスキャンしている。


俺は下で立ち尽くす。手はポケットの中。

表情は変えない。

さっきリ・トゥアンを蹴り飛ばした時に額に滲んだ汗が、まだ冷えてない。


> 「君の行動は重大な被害を引き起こした:訓練フィールドの損壊、制限武器の使用、生徒に重傷を与え……」

「ディエ・ニン、弁明は?」




判事の声は、あらかじめ用意された判決文のようだった。

俺が口を開く前に──


カチャン。


重いドアが開いた音が、沈んだ空気に一閃の衝撃を刻む。


俺は顔を上げる。


彼女が、入ってきた。


深い青の長い髪が、水墨のように肩へ流れる。

特別仕様のステラ制服、腰を絞り、スリットが入ったシルエット。

白いハイヒールが一歩踏み出すたび、光が弾ける。


彼女は誰も見ない。ただ、俺を一瞥した。


──その一瞥で、最前列の教師が息を呑んだ。


> 「遅れてすみません。」

声は、霧のように柔らかく、朝の雨水のように冷たい。




ハ・タイン・ギー。

流星の惑星の王女。

「職業研究」の名目でここに来ているが、全員が知っている。

彼女の目的は──“遊び”。


教師たちは立ち上がる。まるで神を見たかのように。

判事も声色を変える。


> 「ハ王女様……どうぞ、お席へ。」




彼女は座らない。

静かに、俺の横へ歩く。

距離が近い。あまりに近くて、彼女の髪のミントの香りが鼻をかすめた。


> 「フィールド破壊は……生物反応の過剰表出とも取れる。

私の見解では、野生動物が正しい方向に走るよう訓練できたのなら、感謝すべき。」




俺は目を細めた。


> 「俺は、動物じゃない。」




> 「誰が動物って言った?

私は“純粋種”って言ったのよ。希少価値、最高よ?」




判事が口を挟む。


> 「しかし、王女。彼はリ・トゥアンに、ほぼ永久的な損傷を──」




彼女は首を傾げ、微笑む。


> 「“ほぼ”でしょう? もし完全に折れてたなら、私が義骨を支給するわ。

母星から持ってきたタイタン骨。百人分はあるわよ?」




室内に笑い声が広がる。


俺は笑わない。

ただ、前を見つめて。


> 「俺は、誰にも助けてほしいとは思ってない。」




> 「知ってる。」

彼女は答える。視線を俺の手に向けながら。

「でも、助けるのは……私の意志。」




その手が、俺の手の甲に触れた。

強くはない、だが、温かい。


ガラス越しの向こう──アンダオ。

その視線が、重く刺さってくる。


俺が振り返ると、見なくても分かる。


彼女の足元の地面に、ひびが入っていた。

そこから芽が伸びる。若葉が震える。空気が熱を帯び、焦げた匂いが漂う。


> 「火と木……殺気が、芽を出してるな。」

俺は呟く。




タイン・ギーはそれを聞いて、くすっと笑う。


> 「彼女、今にも爆発しそうね。

私が成層圏から氷を運んであげようか?」




俺は深く、ひとつ息を吐いた。

戦いの後のように、乾いた呼吸。


> 「俺に触れすぎない方が、いい。」




> 「わかったわ。」

彼女は肩をすくめ、髪が俺の頬にかかる。

「でもね……私、ここに“恋愛”しに来たわけじゃないのよ。」




俺は片方の口角を上げる。


> 「それは……良かった。」




> 「でも、もし……何かに“興味”が湧いたら──」

耳元で、ささやく。

「……私は、根の奥まで掘り下げる主義よ。」




そう言い残して、彼女は部屋を出て行く。


俺は振り返らない。

だが、ミントの香りは……いつまでも残っていた。


アンダオの足元の芽は、もうひとひら、開いた。


透明な樹液が、ぽとりと地面に落ちる。


まるで、目から落ちない……涙のように。


【スタラー学園・中庭 — その日の午後】


青空の下、風はもう乾いていた。

でも、あの一撃の残り香はまだ残ってる。地の底で息を潜めるように。

私は、ひとりで歩いていた。目的もなく、ただ、重力と共に。


> 「…水やり、しといた方がいいかもな。」

私はぽつりとつぶやいた。

誰も聞いていない。けど、誰かには届いている気がした。




さっきの「芽」──あれは偶然じゃない。

あれは、彼女の〈感情〉だ。

嫉妬でも怒りでもない。

もっと、静かで深い……

根を這うような、女の情念。


> 「こええな、女って。」

そう口にしてみたけど、どこかで笑えなかった。




その時だった。後ろから声がした。

冷たいのに、妙にあたたかい。

遠くから来た風のような声。


> 「あの子、泣いてたわよ。」




振り返らなくても分かる。

ハー・タナギだ。


> 「おまえ、ずっと見てたのか?」

「そりゃ見るでしょ。私の"研究対象"だもの。」




彼女は草の上にしゃがみ、一本の葉を指で弄びながら話す。

瞳の奥に、氷と星の色。


> 「泣かせるつもりじゃなかった。」

「それは泣かされた子が決めること。」




……言葉が詰まる。

この女は、時々、刃物より切れる。


> 「ねえ、ディエット。」

「……なんだ。」

「あなたは、どうして強くなったの?」




私は答えない。

聞かれても、答える理由がない。

けど──


> 「強くなりたかったからだ。」

言葉が、喉から勝手に落ちた。




> 「誰かを守りたくて? それとも、自分を許すため?」

「……どっちも違う。」




彼女は少し黙って、風に髪を揺らした。

それから、微笑む。


> 「ふーん。じゃあいつか、私がその理由、暴いてあげる。」




> 「勝手にしろ。」




その瞬間、遠くのスピーカーから、緊急通知が響く。


> 『全生徒に通達──近日、異常個体の出現が確認されました。各自、指定ポイントに避難してください。』




空がわずかに、揺れた気がした。

私たちは顔を見合わせる。


> 「まただな。」

「うん、またよ。」




私はポケットに手を突っ込みながら歩き出す。

彼女も横に並ぶ。

ふたりの影が、夕陽に長く伸びた。


何も言わなくてもいい。

でも、ふたりの呼吸は合っていた。


空の彼方──

あの静かな青の中に、また新しい〈戦い〉が、芽吹いていた。


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