Episode 135
【授業の終わり――ステラ学園の校庭にて】
夕陽が、古びた赤レンガの上に長い影を落としていた。
空気にはまだ暑さが残り、廊下を抜ける風は、まるで七月の陽射しが吐く疲れた溜め息のように聞こえた。
私はしゃがみ込み、ほどけた靴紐を直していた。
体育の時間に緩んだまま放っておいたのを、家に帰ってから結び直そうと思っていたのだ。
そのとき――
かすかに、しかし耳元で確かに響く声があった。
吐息のように優しく、それでいて、私の手を止めさせるには十分だった。
> 「ねぇ、ディエト・ニン……明日の夜、空いてる?」
顔を上げると、アン・ダオが立っていた。
ノートを胸元に抱え、肩越しに射す夕陽が、その髪に蜂蜜色の輝きを与えていた。
私は反射的にうなずいた。
> 「うん、多分……空いてる。」
彼女の瞳がきらめき、何かを言いかけるように揺れている――
そして、まるで羽のように軽やかに、次の言葉がこぼれた。
> 「明日、週末だよね。一緒にどこか行こうよ……ちゃんとしたデート、ってやつ。」 「だってもう……恋人同士なんだから。」
私は慌てて立ち上がり、結びかけの靴紐につまずきそうになった。
「デート」――映画で何度も聞いたその言葉が、今、自分の心のど真ん中に落ちてきた。
それだけで、鼓動が妙に騒がしくなる。
> 「あ……デート、か?」
「うん、いいよ。でも……どこ行くの?」
アン・ダオはにっこり笑い、瞳に小悪魔のような光を宿らせながら言った。
> 「光の広場の近くにあるショッピングモール、知ってる?」
「あそこにね、VR体験のアトラクションと、ギャラクシーアイス、それに空飛ぶ寿司があるんだって!」
「ずっと行ってみたかったの。」
私は勢いよくうなずいた。
> 「うん……行こう。」
(……とはいえ、「ギャラクシーアイス」と「空飛ぶ寿司」が一体どんなものか、全然想像できなかったけれど。)
彼女は楽しげに眉を上げた。
> 「ちゃんとオシャレしてきてね。」
私が返事をする前に、彼女は一歩近づいて、いたずらっぽい瞳で見上げてきた。
> 「ねぇ……ちょっと疲れちゃった。おんぶ、してくれない?」
私は眉を上げて微笑んだ。
> 「さっき昼ご飯食べたばっかだし……今、ちょっと重いんじゃ?」
アン・ダオはすぐに目を見開いた。
> 「ちょっと!彼女に“重い”なんて言うの!?」
私はすぐさま両手を挙げて降参のポーズを取る。
> 「いやいや、そういう意味じゃなくて……いいよ、乗って。」
そして彼女が見せた笑顔は、世界でいちばん可愛いと思えるほど無邪気だった。
それは風のように軽やかで――だけど、私の胸をやさしく満たしていく。
彼女は私の背中にひょいと飛び乗り、両腕を首に回す。
頬が私の頬にふれた。
柔らかくて、涼しくて、ほんのりミントの香りがした。
> 「……うん、あなたの背中って、あったかいね。」
小さな声で、そっと囁いたその言葉は、幻かと思うほど優しかった。
---
【帰り道――空が紫に染まる夕暮れ】
私は彼女を背負って、校舎の廊下をゆっくり歩いた。
校庭を横切りながら、一秒一秒を抱きしめるように。
周りの視線を感じた。
高身長の男子生徒が、小さな彼女をお姫様のように笑顔で背負っている――
そんな光景に、ざわめきやひそひそ声が混じっていた。
でも、そんなことはどうでもよかった。
なぜなら――
この背中には、信頼とやさしさで寄り添ってくれる、たった一人の女の子がいるのだから。
この喧騒の世界の中で、
私たちは、ただ二人きりの時間を持てれば、それでよかった。
> 「ねぇ。」
アン・ダオが私のうなじのあたりでふいに呼びかけた。
「ん?」
> 「知ってる……?」
「なにが?」
> 「あなたと付き合ってから、わたし……ちょっとおかしくなっちゃったみたい。」
私はくすっと笑った。
> 「俺と付き合うのって、そんなに病気みたいなもん?」
彼女は首に巻いた腕をきゅっと強くした。
> 「うん。だって、あなたを好きすぎる病気、なんだもん。」
夕暮れの風が吹き抜ける。
誰もいない校庭の真ん中で、私たちはゆっくりと歩き続ける。
私は、もう“昔のディエト・ニン”ではない気がした。
今の私は――
大切な誰かの“恋人”になる方法を、ひとつずつ学んでいる最中なのだ。
【チャン家の城館 — 東側ガレージ】
俺がアン・ダオを背負って正面ホールに入ったとたん、もうそこに奴がいた――あの娘の父親、チャン・クオック・クオン氏。
やつは一人でお茶を飲みながら、三次元ホログラムのスクリーンに目をやって、どこぞのゴシップニュースを見ていた。
俺たちの姿が見えた瞬間、鋭い目をこちらに向けて叫んだ。
> 「おい、坊主、こっちへ来い!」
その声、聞き慣れた。
俺は静かに息を吐いて、アン・ダオを椅子に座らせ、足を進めた。
この親父、いつも表情は冷静そのもの。でも腹の中は、誰にも読めない。
コートのポケットから取り出したのは、ぼろぼろの古い鍵。銀メッキが剥げて、ところどころ錆びている。
まるで石ころでも投げるかのように、俺に放った。
> 「お前のもんだ。ボロ車だが、エンジンはまだ生きてる。明日からは、もう俺の後ろを付いて来なくていい。」
鍵を受け取り、しばらく見つめて、眉をひそめる。
> 「……自分専用の車ってことか?」
彼はふっと笑った。
> 「ああ。初期型のヘリオス・ロードスター。昔は伝説とまで言われたもんだ。
今じゃ時代遅れだが……お前にはちょうどいい。」
横に座ってたアン・ダオが、それを聞いて立ち上がった。
> 「パパ!彼、運転なんかできないわよ!」
> 「なら、教えればいいだろう?」
――目を細めて、俺たちを交互に見る。
「隣に教官が座ってるんだ。これ以上の環境はないだろ。」
そう言って、親父はお茶を啜った。まるでそれが、ただの小さな出来事であるかのように。
---
【一時間後 ― 裏のガレージ】
夜風が野原から吹き抜けてくる。
若草の香りが鼻先をくすぐる一方で、ガレージの中は油と鉄、古い塗装の匂いで満ちていた。
俺は立ち尽くしていた。
その「時代遅れの伝説」とやらの前に。
くすんだグレーのクーペ。
塗装はひび割れ、乾いた牛の肌のように剥がれ、タイヤには苔、ヘッドライトは剥げた縁取りで、まるで年老いた目玉。
俺は小声で、冗談とも本気ともつかぬ調子で呟いた。
> 「これ……昔は戦場でも走ってたのか?」
風が答える前に、アン・ダオの声が背後から飛んできた。
柔らかく、でも芯のある声で。
> 「バカにしないで。」
振り返ると、彼女が入ってきた。
大きな工具袋を片手にぶら下げて、埃よけのゴーグルの奥、瞳がまっすぐ俺を射抜く。
> 「これはヘリオスX-00。昔、銀河系レース用だったの。
今じゃ古いけど、エンジンは量子原型のまま――今じゃ手に入らない貴重な代物よ。」
俺は目を見開いたまま、車と彼女を交互に見る。
> 「……本当に修理できんのか?」
彼女は口紅ひとつない唇で、虹色の油膜のような微笑みを浮かべた。
> 「できる、どころじゃない。得意分野。
昔から機械が大好きで、ナノ機械工学を2年間専攻してたの。……でも姉に止められた。“女の子のイメージが崩れる”ってね。」
彼女は手袋を外し、髪を耳にかけ、しゃがみ込んでタイヤのボルトを一つ一つ外し始めた。
> 「私はね……
オイルの匂いが好き。
心臓みたいに安定したエンジン音が好き。
スピードが、好き……でも、ずっと黙ってた。」
俺は黙った。
何も言えなかったわけじゃない。
下手に言葉にしたら、この胸のざわつきを壊してしまいそうで、怖かっただけだ。
---
【一時間後 ― 生まれ変わった姿】
あの鉄くずの塊が、今では少し“車”らしくなっていた。
彼女はバンパーを交換し、塗装の剥げを研磨し、ライトを修理し、ガラスを磨き、エンジンルームの配管まで丁寧に点検していた。
汗と埃にまみれた額を、手の甲で拭ったその横顔――
その瞳の輝きが、心の奥を揺らした。
俺は一歩踏み出して、彼女の後ろに立ち、静かに言った。
> 「……まさか、こんなに強いとは思わなかった。」
> 「……守りたい人がいるから。」
その言葉は風のようにか細いのに、心臓を一突きするくらい、力があった。
夜風が彼女の汗まみれの髪を揺らす。
ガレージの黄ばみがかった灯りが、油と埃にまみれた顔を照らしていた。
それが、どうしようもなく……綺麗だった。
何か言いたかった。でも唇が乾いて、言葉が出てこない。
彼女が俺を見た。何も言わず、ただ見つめていた。
---
【その少し後 ― 静寂の中で】
俺たちは車のボンネットの横に座り、何も喋らなかった。
コウモリが一羽、屋根の梁に降り立ち、「チッ、チッ」と鳴いた。
まるで、「まだ日常の中にいるんだぞ」とでも言うように。
俺は彼女を見た。彼女も俺を見た。
きっと、お互い心の中に、言えない“何か”を抱えていた。
> 「……明日、運転、教えてくれる?」俺はそっと訊いた。
> 「うん。でも、転んでも怒らないでよね?」彼女は微笑んで、ちらりと目を伏せた。
> 「怒らないよ。転んだら……君が起こして。」
二人して、くすっと笑った。
小さな笑い声だった。でも、嘘じゃなかった。
うるさくもなく、気まずくもない。
まるで、心の距離がほんの少しだけ、近づいたような夜の一歩。
まだ触れたことのないものが、この世にはいくつかある。
たとえば――目の前に停まっている、この車みたいに。
俺は運転席に腰を下ろした。アン・ダオが修理してくれたばかりの〈ヘリオスX-00〉。
外装は雨上がりの貝殻のように艶めき、車体は地面からおよそ一メートルほど浮いている。
量子エンジンの鼓動は、まるで眠る猫の呼吸音のように静かだった。
俺はそっとハンドルを押し、加速レバーを撫でるように触れた。
車体がわずかに震えたかと思うと――雲の上を滑るように、軽やかに進み出す。
> 「この車……俺の気功歩きより軽いかもな……」
俺は思わず呟いた。
> 「今、何て言った?」
アン・ダオの声。黒糖シロップのように甘く、とろける音色。
慌てて首を振り、視線を前へ戻す。
> 「いや、なんでもない。ただ、慣れなくてさ……」
夕方の風が車内に流れ込む。
遠くの運河からは土とホテイアオイの香りが運ばれてきた。
車は無重力のように滑り進む。速すぎず、けれど確かな力で。
俺が初めて“何か”を操っている、そんな感覚が胸に広がっていく。
> 「どう? 恋人が修理してくれた車に乗る気分は?」
彼女が笑った。えくぼが、ふっと沈んだ。
ちらりと横目で彼女を見る。髪を後ろに束ね、薄く結ばれた唇。
化粧っ気のないその顔が、夜のホタルのように静かに輝いていた。
> 「……全然違う。」
俺は小さな声で言った。
> 「何が違うの?」
喉がひくりと鳴り、声が一段低くなる。
> 「……あったかい。」
母を亡くして以来、「あたたかい」なんて言葉を誰かに向けたことはなかった。
でも今、アン・ダオがダッシュボードにそっと手を添えるその仕草を見ていたら――
ふいに、あの雨の日の記憶が甦った。
古びた寺の裏で雨宿りしていた少年の俺に、見知らぬ女の人が差し出してくれた、あの湯気の立つおかゆ。
あの時と同じぬくもりが、今、ここにいる彼女の中にもあった。
> 「……そんなこと、言われたら危ないってば。運転中なんだから。」
アン・ダオは顔をそらし、頬を赤らめた。
俺はふっと笑った。
風がまた車内を抜けていく。彼女の恥じらいを、どこかへ連れていくかのように。
---
車はゆっくりと、チャン家の裏庭に戻ってきた。
そこにはすでに、チャン・クオック・クオン氏が腕を組んで立っていた。
片方の口角だけを持ち上げて、ニヤリと笑う。
> 「ほう、もう運転できるようになったのか、小僧。」
車を降りて、袖口の埃を払う。
> 「まあ……スーパーに行けるくらいには。」
> 「フン、ちょっと走っただけで偉そうに。」
そう言って、今度は娘の方へ向き直った。
> 「こいつが運転できるのも、お前のおかげか?」
アン・ダオはまだ車のそばにいた。
風に髪が揺れ、顔には機械油の跡が残る――それでも目は澄んで、眩しいほどに光っていた。
> 「分かってて聞くなんて。パパ、私が機械好きなの、十代の頃から知ってるでしょ。」
父親の顔が、一瞬だけ静まる。
笑みは消え、視線はどこか遠くへ。
> 「この家の技術者の血はな……母方じゃなく、俺の家系から来てるんだ。
チャン家は、昔は政治だけじゃなかった。お前の曾祖父は、連邦王家の機械技術長だったんだ。」
そこで言葉を切り、声が少しだけ低くなる。
> 「……なのに、お前らの代になると、法律だの、政治だのばっかり押し付けられて。
つまらん世の中になったもんだ。」
アン・ダオは俯き、小さな声で言った。
> 「でも私は……まだ機械が好き。これからも、それを貫きたい。」
二人の会話を聞きながら、俺は静かに立っていた。
まるで、一つの鼓動を持つ二人の心音を聞いているようだった。
この家族、少し変わってる。
でも、その“変”の中に、どこか温かさがある。
――風の強い日に、ぽっと灯る台所の火のように。
俺は彼女を見つめた。
泥にまみれても、俺のために車を直してくれた少女。
講堂で初めて出会った日の、あの輝きを今も失わずに。
俺には、果たしてこれを受け取る資格があるのだろうか。
……でも、何も言わなかった。
ただ、静かに、そっと停まっている車を見た。
風の音を聞きながら、胸の中が、なぜかいっぱいになっていた。
---
> 幸せって、なんなのかはわからない。
でも――
ときどき、それはふっと訪れる。音もなく。
たとえば、埃まみれの手で微笑む彼女と、人生初のハンドルを握った、そんな夜みたいに。
【個室 ― 夜。黄昏の灯りが、恋を知った心の色に似ていた】
ベッドの上で、俺はスマホを手にしていた。
つい数日前まで、この機械を“ぶっ壊してやろう”とさえ思ってた。得体が知れず、心も通わず。
なのに今は、指が自然に触れて、スワイプして、タップして……まるで一生共にしてきたかのように。
> 「そんなに難しくないな……触って、なぞって、押して……ほら、完了。」
俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
ここ数日、この世界に馴染もうと努力していた。
メッセージ、通話、検索、果ては「スラング」なんて奇妙な言語まで勉強している。
ここには霊力も、法陣も、神器も存在しない。
けれど――
一番恐ろしいのは、「知らない」ってことだ。
テクノロジー。
それはまるで、前の世界での“修行”に似ている。
ただし霊気の代わりに電気を使い、古の秘術ではなくコードを用いる。
> 「この世界で生き残るには……技術が基礎だ。」
俺はそう思いながら、Wi-Fiのアイコンを、まるで古代の符術でも見るかのように睨んだ。
> 「戦うにしても、生き延びるにしても……時代に遅れたままじゃ、話にならん。」
顔を上げると、心の中から自然にあの名前が浮かんだ。
> 「……アン・ダオ。」
---
【扉が開く ― 野原からの風のように、彼女はやってきた】
白いTシャツ、ノートパソコンを小脇に抱えて、目が物語の中の妖精みたいにきらめいている。
> 「どうしたの? 本気で技術でも学ぶ気?」
彼女は聞きながら、からかうような笑みを浮かべた。
俺は黙って頷いた。
「うん。少なくとも、ネジと電線の違いくらいはわからんとね。
いつまでもバカのまま生きるのは、さすがに情けない。」
彼女は隣に腰を下ろす。
肩が触れるか触れないか――その距離に、心が静かに揺れる。
彼女の“近さ”は、無理強いではない。ただのぬかるみの田に降る雨の香りのように、やさしく沁みてくる。
> 「じゃあ、明日のデートの後ね。
デート中に勉強とか……気が散って集中できんから。」
彼女は俺の額を、指でちょんとつついた。
> 「お出かけから帰ったら、全部教える。ネジからセンサー回路まで、ひとつひとつね?」
俺は笑った。
わけもなく、けど確かに笑ってた。
彼女を知ってから、“未来”とか“長生き”とか――
今まで何の意味もなかった言葉たちが、急にリアルな輪郭を持ち始めた。
---
彼女が俺のスマホを手に取り、フォトフォルダを開く。
> 「ちょっと貸して?」
> 「……何するん?」
> 「壁紙、変えるの。私の、って証。」
> 「え? でも、明日もっといい写真撮れたらどうする?」
> 「ならまた変えればいいじゃん。難しいこと?」
彼女はウインクして、宇宙の運命でも操ってるような顔をした。
新しい壁紙が表示される。
俺と彼女が並んで、俺が肩を抱き、彼女が頭を傾けて――
二人とも、まるで“悲しみ”という言葉を知らないかのように笑っていた。
背景はチャン家の城館。
俺が最初にそこに足を踏み入れた時は、まるで戦場に向かう兵士のようだった。
けど今では……そこは、“帰る場所”になっていた。
彼女は立ち上がり、扉の前でふと振り返る。
> 「覚えててね。明日は土曜日。」
> 「私たち、デートだから。」
そして、まるで物語の中の最後のセリフみたいに――
> 「Love you。」
扉が閉まり、俺はまた一人に戻った。
けれど、心の中は嵐のように乱れていた。法陣すら追いつかないほどに。
---
【一人きり ― 静かな部屋。まるで戦士の戦後の静寂】
俺は天井を見上げる。
そこに星はなかった。ただ、丸いLED電球が光っているだけ。
だけど、胸の内は――まるで違っていた。
> 「……不思議だな。この世界の感情って……」
> 「静かなのに、激しい。
戦場でも、霊界でも感じたことのない――そんな温度。」
六界を渡り、万の命を断ち、剣を紅に染めたこの俺が――
今、たった一言「Love you」で心を揺さぶられている。
鼓動が一つ、ズレた。
そのズレが……心地よくて、もっと切られたくなってくる。
俺は、そっと笑った。
生まれて初めて――
“生きてる”って、思った。
---
【その頃、上の階 ― 額縁に隠したミニカメラの映像を見ながら】
チャン・クオック・クオンは目を細め、顎を撫で、ぽつりと呟いた。
> 「……恋しとるな、あいつ。
“Love you”なんて言うとは。ディエット・ニャンにしては重症やな。」
> 「明日はちょっとからかってやるか……ふふふ……」




