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感情論

 女の敵は女。

 女はすぐ感情的になる。

 ……といった言葉はよく聞かれる言葉だ。

 女の敵は女だけじゃない。男もだろう。競争が当たり前だからなのか、男の敵は男とは聞かない。でも実際競っているんだろう。

 女はすぐに感情的になる、に反論するとほらすぐに感情的になる、はい論破ーとやってくる男達、それ小5男子のうん◯大好きから変わってないことにそろそろ気付いてほしい。言っても女はすぐ感情的になってー! のエンドレスになるので言わないけど。

 男女問わず同性の立場を引っ張る人間はいるし、感情的になる人もいるので、すべてを否定する気はない。

 

「川野じゃん! おまえくっそ地味になったな! 前はあんっな可愛かったのに」

 

 おまえは誰だ。

 ……この馴れ馴れしい態度からして過去に同じ部署だったか同期あたりか。記憶に絞り込みをかけてみて思い出す。そういえば同期にこんな人がいたような。

 私は本社ビル勤務。目の前の男は一応同期で、大阪勤務だったはず。

 

「どうも、お久しぶりです」

 

 たった数秒で私の中で不要に振り分けた同期に取り立てて思うことはないので、最低限の挨拶だけしてその場を去る。……が、回り込まれた。

 

「えっ、マジ今ので怒った? だって事実じゃん!」

「怒ってはいません、あなたと関わるのが無駄だと判断しただけです」

「またそんなー、久々の同期にそれはないんじゃないのー?」

「接点のない同期なんて道端の他人と同じですが?」

 

 同期に何を求めてるんだ。研修期間中だって仲良くもなかったのに。

 

「川野さん、こわぁい」

 

 同期Dの鬱陶しさに隠れて気付かなかったが、Dの横に子犬か、と言いたくなるような可愛い女性社員がいた。まぁなんていうか、昔の自分のようだ。ただ当時の私よりあざとい感じがする。あざとさ上級者。

 

「コイツはねー、男に振られまくって世の中悲観してこんな枯れちゃったわけ。昔は男にモテようと頑張ってたんだけどさー」

「えー、そうなんですねー、川野さんも大変だったんですねー」

 

 煽ってくるなぁ。怒りはないんだけど面倒くさい。

 よし、ここは長崎さんを召喚しよう。

 業務用スマホを取り出したところ、後ろから長崎さんの声。すごい、面倒ごと感知センサー持ってるんじゃないだろうか。

 

「おやー? うちの奈津にウザ絡みしてるのは誰かなー?」

 

 なるほど。ウザ絡みと分かる程度には話を聞いていたと。私の隣に立った長崎さんはDとその後輩を上から下までしっかりと確認する。その間十秒ほど。

 

「一応同期のDとその後輩のようです。私の進路を塞いでいるので長崎さんを召喚しようと思っていました」

「悪魔呼ぶみたいに言うねぇ」

 

 間違ってないから言い換える気はない。

 

「昔の奈津が可愛かったのに振られてかわいそうとか、恋愛しか頭にない奴らの言うことは薄っぺらいねぇ」

「いや、そんな訳じゃ」

「奈津は営業三部で私の次に稼いでいるわけだ。大阪営業一部で万年中間層のD君としては、それが悔しくてたまらなくて絡んでるであってるー?」

 

 実は私、そこそこ成績良いんです。長崎さんには及ばないし、目指してないけど。

 

「違いますよ、ただ同期として」

「同期として過去を知ってるから、それで切り付けても構わないってこと?」

「切り付けてなんて……」

 

 長崎さんの言葉にDは言葉を詰まらせる。

 同じようなことを私も言ってるのに、長崎さんが言うと効果的なのはなんでだろうか。

 

「切り付けてたじゃん。悲観してるなんて奈津の気持ちを勝手に決めつけてたんだから、無礼以外のなにものでもないと思うけど? それに奈津は不要なことにこれ以上時間を費やしても無駄だと判断しての今だからさ、煽っても意味がないんだけど君の頭、論理的思考できてるー?」

 

 煽りには煽りで返す。煽られなくても煽る。

 さすがの長崎さん。清々しい。

 

「そんなにDさんのことを責めないでくださいっ、Dさんは本当に同期として親しみを込めて」

「親しみをこめて笑顔で切り付けたと」

「違いますっ、ひどぉい」

 

 涙の出し入れが自由自在なら大したものだなーと思って後輩ちゃんを見ていた。あ、本当に涙出てる。すごいな。

 

「私の知る、女はすぐ泣くの理由を教えてあげるよ」

 

 おや、それは知らない。

 

「強い言葉で責められて、どうすれば良いかを脳は必死に考える。男性脳はそこで目の前の存在を黙らせたい衝動に駆られるらしいんだけど、力関係から我慢する。女性の場合は泣くことがある。そうすると相手が攻撃を止める。結果、脳は学習するんだよ、泣けば良いんだってね。それからはどれだけ本人が泣かないようにしても、脳がそう学習してしまっているからね、泣いちゃうんだよ」

 

 見ると後輩ちゃんの涙が止まってた。分かりやすい。

 

「男性のいう可愛さはさ、若さとは切り離されないわけ。生きていれば日々歳を取る。来年には君より若い子が入って来ちゃうわけだ。がんばれ〜」

 

 それから、と言葉を切ってDを見る長崎さん。Dがびくっとする。

 

「君が狙ってる女子社員、君みたいに恋愛脳な男は嫌いらしいよ」

「オレは別に恋愛脳じゃ」

「恋愛脳じゃん。奈津に会って外見のことやモテの話しかしてない。元気かの言葉もなく、開口一番落ちぶれたと言い放ったわけだ。昔は可愛かった? で、今の君はどうなの? 更に新入社員だった時は? 今はなんか順当にオッサンになる道を進んでいるように見えるけど」

「実年齢より若く見えるって言われてますから!」

 

 ぶはっ、と長崎さんが盛大に噴く。

 

「社交辞令とかリップサービスって言葉知らない? 大体それ何処で言われてんの? ガルバやキャバ嬢に言われんだったらそりゃぁ彼女達は言うよ。気持ちよくお金使ってもらいたいからね、嘘でもなんでもサービスで大盤振る舞いしてくれるよー。いっやー、まさかそんなリップサービス間に受ける奴いるなんて、SNSに生息するこどおじだけかと思ってたー!」

「長崎さん、こどおじとは?」

 

 ガルバ?

 

「子供部屋おじさん。おばさんバージョンもあるよー。社会性が乏しい人間が言葉の裏の意味を読めなくて本気になるって奴。あー、いやぁ笑わせてもらったわぁ」

 

 ご機嫌な長崎さんに腕を引っ張られてその場を去る。

 

「ありがとうございます。良かったらランチ奢らせてください」

「えっ、ほんと!? めっちゃ高いところ予約しよっ!」

「別に構いませんよ。日頃から何だかんだとお世話にもなってますし、何度も奢っていただいてますから」

 

 長崎さんはにんまり笑うと、「奈津は本当に可愛いねぇ。世の男どもは本当に見る目がない」と言った。

 

「恋愛は不要ですが、お言葉ありがたくいただきます」







 その後、Dが狙っていたのはほのかさんだったと知った。

 それから長崎さんの言うガルバは、ガルバリウム鋼板ではなく、ガールズバーのほうだと思われる。ガルバリウム鋼板はリップサービスできないだろう。

 

「奈津先輩への暴言マジ卍っ」

 

 怒り心頭といった様子のほのかさん。

 Dごときがほのかさんを狙うとか、身の程知らずなのであの時長崎さんに叩きのめされて良かった。

 

「マジ卍とは」

「すみません、つい興奮すると昔使ってたの出ちゃって」

「絶許ってことだよー」

「長崎さん、ネットスラングを日常生活に持ち込みすぎです」


 あっはっは、と笑い、長崎さんはハンバーガーに豪快にかぶりつく。長崎さんが選んだのはグルメバーガーのお店。

 

「面白そうだったからさー、あの後輩ちゃんが常務の娘がいる部署に配属されるよう、常務に進言しといたー」

 

 蠱毒を生み出そうとするのはどうかと思うけれども、こっちに害が来ないならそれで。

 

「どっちが生き残るかなー」

 

 私とほのかさんは呆れた顔で長崎さんを見る。

 

「勝負にならないのでは?」

「えー? 涙の出し入れ可能な才能の持ち主だしさ、ちょっとは頑張れるんじゃない?」

 

 なんとなく嫌な予感がするものの、私が思うことはただひとつ。

 面倒ごとに巻き込まれませんように。

 

日頃使い慣れない単語を使っているので、用法を間違えていたら申し訳ありません…。

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