ロマンスってそも何ぞ?
近頃ニュースにもなっているロマンス詐欺。
あなたに会いに行きたいけどそのお金がない、起業資金が必要なんだ、などと同情を引いてお金を引っ張る詐欺だ。
そんなもの自分には無縁だと思っていたのに、それが私にもやってきた。
インスタでキレイな花を毎日アップしているアカウントがTLにあったので、イイねをしたらフォローされた。なお私は見る専門で何一つアップしていない。
本当はSNSをやる気はなかったんだけど、大好きなパン屋がインスタでしか情報公開していない。しかも不定期。
これはもう仕方ないと諦めて登録したのだが、インスタとかSNSっていうのは時間泥棒だと思う。つい見てしまう。つい見てしまっていたその中にロマンス詐欺アカウントがあった。
何の写真もあげていない私をフォローする意図が分からず、一応フォローし返して様子を見ることにした。おかしな動きをしたら即ブロックするつもりで。もしかしたら、本当にただ花が好きで、花の話をしたいだけの人かもしれない、そう思って。
まぁ、違ったんだけど。
──はじめまして、フォローしてくれてありがとう。
日本語できた。どう見ても日本人じゃなさそうなアカウントなのに。
──こちらこそ、いつもキレイな花の写真に癒されていました。
──そういってもらえて嬉しい。ところで、どちらにお住まいですか?
花のみをアップするアカウントだから、本来なら花の話をしてくるんじゃないのか? いきなり住んでるエリアを特定しようとは、ネットマナー違反だと思う。
日本語で送ってきているから、日本だと思っているだろう、きっと。
──関東圏ではないです。
特定されるようなことは教えない。SNSやってなかったとしても、これぐらいは分かる。
──そうなんですね、僕は韓国に住んでいて、整形外科医です。
──そうですか。
いきなり己の情報開示甚だしいな。嘘だろうけど。
──職業は何をしてるんですか?
血液型を聞くのすら失礼じゃないのか、海外。ガンガンくるな。十中八九ロマンス詐欺だろう。
ロマンス詐欺でよく使われる職業は軍人、医者、と聞いていたけど、本当にそうなんだ。
相手をしてもしかたがないし、そろそろブロックしようかな、と思っていたら第六感でも働いたのか、長崎さんからLINEがきた。たぶんただ暇なだけ。
『奈津なにやってんの?』
呼吸レベルで休日を邪魔しにくるのやめてほしい。
『ロマンス詐欺らしきアカウントとDM合戦してます』
『なにそれ詳しく!』
これまでのやりとりを伝えたら「よし、おちょくってやれ! 日本人女性はチョロいなどと思わせてはならん!」と言われてしまった。
『嫌ですよ、面倒な』
『私の休日に潤いを与えてくれるなら、一週間ランチをおごろうじゃないか!』
『安い店は許しませんよ?』
『いいよ!』
そこまでして……。
本当に暇なんだな、長崎さん……。
『今は職業を聞かれたところなんだよね? 相手がどれくらい資産を持っているかを確認しようとしてるんだろうから、ここは専業主婦と答えてみよう』
『わかりました』
……といった感じで、ロマンス詐欺からのやりとりは長崎さんの指示どおりに対応することにした。
──専業主婦です。
──そうなんですね。僕には娘がいて、今はカリフォルニアの寮制の学校にいるんです。
ご丁寧に写真が添付されてる。ネット上で拾った赤の他人の子供なんだろうなぁ。わざわざ聞いてきたのに専業主婦に関してはスルーなの酷いな。
──そうなんですね。
私の反応が良くないのを察したのか、会話を別の方向に持っていこうとするロマ詐欺くん。娘関連で私の関心を引けないと判断したもよう。さようなら、(架空の)お嬢さん。
──趣味はなんですか? 僕は◯◯です。
おい、花はどうした、とツッコミたいのを我慢する。
──草むしりです。
──そうなんですか、素敵ですね!
そこは大変じゃないですか、ではないかな、ロマ詐欺くん。とりあえずロマ詐欺くんの琴線に触れる趣味ではなかったようだ。
無論、やりとりは全て長崎さんに報告している。
──僕、以前は日本に住んでいたことがあるんですよ。亡き妻が日本人で。
──そうだったんですか。日本語お上手だなと思っていました。
翻訳ソフト凄いな、とは思ってた。
……と、ここで本日のDM終了。
良い子でなくても寝る時間だ。睡眠は大事。
翌朝、インスタには自称韓国人 整形外科医からDMがきていた。
深夜二時に今から出勤ですときたもんだ。
医療関係には全く詳しくないのだけれども、整形外科医も夜中二時に夜勤として出勤するのだろうか?
内科外科などの科に関わらず夜勤は当番制としてあるのかもしれないが、それって夜中に家出んの? という素朴な疑問。
ロマ詐欺くん、韓国と日本は時差ないと思うんだよね。だからさ、夜勤だったとしてももっと早くに病院入りするんじゃないかな、それともお車だから可能なのかな? 知らんけど。
そして朝八時だというのに長崎さんからLINEがきた。
『ロマ詐欺くんからDMきてる!?』
すっごい楽しそう。
『おはようございます、長崎さん。きていますよ。深夜二時にこれから出勤ですときていました』
『時差とか考えてー! 脇が甘いなロマ詐欺くん!』
『私たちが知らないだけで、深夜二時に夜勤の為に家を出る方もいるかもしれませんよ』
『そうかもね!』
いや、思ってないな、この反応。
『そろそろジレてLINEに誘導してくると思うんだよね!』
『何故LINEなんですか?』
『送金可能だからさ!』
なるほど、そういう手口。
『そろそろ面倒になってきたので、早くLINE誘導されて終わりにしたいですね』
『私的にはもっとジラしたいところだけど、このへんで手をうつか! 楽しめたし!』
長崎さんならどんなことも楽しいことに変えてしまいそうだ。
『LINE誘導されたら即通報、即ブロックして報告しますね』
『了解!』
お仕事お疲れ様です、とDMを送ると、即レスがきた。仕事は終わったのか、君。
──なんだかあなたとは知り合って間もない気がしません。良かったらLINEでやりとりしませんか? 僕のIDは……
はい、きました。
即座に詐欺アカウントと思われると報告し、ブロックして、長崎さんに『任務完了です』と送って終わった。
お昼休み、ほのかさんも一緒に外ランチ。
週末にあったロマンス詐欺の話をしたところ、ほのかさん大笑い。
「ロマンス詐欺しっぱーい! 残念でしたーっ!」
長崎さんは一連の流れを私のスマホで確認し、ずっと笑ってる。
「くさ、むし、り……」
「お金を持ってないように思わせたかったんですが、思いつかなくて」
「大きなお庭のあるマダムと思われたかもしれませんね!」
ほのかさんに言われて、私の想像力のなさを反省する。
ただ言わせていただきたいのは、少量の草むしりで、かつするっと根っこごと引き抜けた時は気持ちいいと思っている。ただ、大量の草と戦わねばならぬ方たちのご苦労はお察しする。熱湯をかけるといいらしいけど、効果のほどはどうなんだろうか。
「憂鬱な月曜が、奈津先輩のおかげで楽しくなりました、ありがとうございます!」
「お楽しみいただけてなによりです」
なお、長崎さんは本当に一週間ランチをおごってくれた。ご馳走さまです。
こちらは私のロマンス詐欺体験を元にしております。
勿論被害に遭っておりません。
ロマンス詐欺に遭う方がいなくなりますように!




