天使のおとずれ
「でさぁ、ラストの客なんて最悪だったんだから」
佐和子はデリバリーヘルス勤務の36歳だ。
年齢も相まって人妻店に移動させられ、本業の翻訳の仕事とダブルワークで働いている。
「身体洗う時くらいじっとしてろっての。ねぇ佐和子、そう思わない?」
多弁に話すのは同じ風俗店で知り合った京子だ。佐和子より数歳若いが、風俗1本で生きている者独特の空気感から人妻店に移動させられた半年前から度々同じ帰り道を帰りながら、京子の愚痴を聞くのが佐和子の締めの仕事のようになっていた。
「今日も、いくの?パチンコ。」
「あったりまえじゃん!1万ぽっきりじゃ割に合わないよ。今日は勝てる気がするんだよね。」
時刻は既に夕刻を超えていた。仕事のストレスをパチンコで浄化させる京子は、どこか退廃的に見えたが本人は今日生きればそれでいいらしい。
「じゃあまたあしたね。」
「はーい!またあしたね!」
家に着いた消えかけた蛍光灯を通り過ぎると階段の奥まったスペースに見たくない顔を見てしまった。良二だ。
佐和子の心拍数は一気に最高潮にあがる。なぜ?家がバレたことや帰りの時間を知っていたことに恐怖を覚えて震える手で鍵を開ける。
良二とは前の職場で出会い5年前に交際していた。別れたのは良二が怒りをコントロールできず、飼っていた犬をガスバーナーで炙って殺したからだ。逃げるように仕事を辞め引っ越したが、まさか家の前にいるとは思わず、じとりと脂汗をかく。
やっとの思いで部屋に入った。京子に電話をかける。出ない。焦る手は震えが止まらない。
ガチャ。
非情にもぼうっとした顔の良二が入ってきた。無言で抱え込まれた。筋肉質の良二に佐和子は必死に抵抗するも虚しくベランダへ移動させられた。
「来世は燃やしてやるよ、愛してる」
ふわっとした感触のあと重力でどんどん地面が近づいていく。
「おー、びくびくしてら。」
佐和子の悲しみも苦しみも終わりを迎えた。




