背伸び夢
♪ 柱ぁ~の キ~ズは おととーし~の
五月~五日~の 背ぃくら~べ~
この辺りの家々は全て、五月五日に、家の柱に傷を付ける。
子どもの背を測って、柱に傷を付ける。
この一年間の子どもの成長を、目に見て感じ取る。
が、ある高さから、一切、傷は無くなる。
ある高さになると一斉に、子どもは、背を測られることを拒否するのだろうか?
測られるのが、恥ずかしくなるのかもしれん。
ある高さになると一斉に、大人が、子どもの背を測らなくなるのだろうか?
測るのが、めんどうになるのかもしれん。
残念ながら、二つの理由とも違う。
それは、この辺りが、《セノビ地区》だからだ。
子どもは、一定の身長以上になると、あることができるようになり、それをする。
背伸びする。
上空に向かって両腕を伸ばし、手を組み、手首を返す。
手の甲が裏返り、掌が上を向く。
背筋を伸ばし、体が一本の線になるイメージで、手・腕・胴体・脚・足を連動させて、伸びをする。
少しばかり、「ウ~ン」と声を出す。
手首が掴まれる。
上空から伸びてきた腕らしきものに、両手首を掴まれる。
引っ張られる。
上空に、有無を言わさす、引っ張り上げられる。
BLACK OUT
腕らしきものに導かれ、高度が下がる。
足が優しく、地面に着く。
『そっ』と、ソフトランディングする。
手首から、掴まれていた感触が無くなる。
腕らしきものの力感が、無くなる。
その地に着く。
♪ 柱ぁ~の キ~ズは おととーし~の
五月~五日~の 背ぃくら~べ~
この周辺の家々は全て、五月五日に、家の柱に傷を付ける。
子どもの背を測り、柱に傷を付ける。
この一年間の子どもの成長を、目に認識する。
が、ある高さになると、一切、傷は無くなる。
ある高さまで背が伸びると一斉に、子どもは、背を測られることを、拒否するのだろうか?
測られるのが、恥ずかしくなるのかもしれない。
子どもの身長が、ある高さになると一斉に、大人が、子どもの背を測らなくなるのだろうか?
測るのが、めんどうになるのかもしれない。
残念ながら、二つの理由とも違う。
それは、この辺りが、《イドオチ地区》だからだ。
子どもは、決まった身長以上になると、あることができるようになり、それをする。
井戸を覗く。
井戸の底を覗き込むように、半身をのり出して、井戸を覗き込む。
覗いている背中側から、脇が掴まれる。
井戸から伸びてきた腕らしきものに、ガッとばかりに、両脇を掴まれる。
引きずられる。
井戸の底に向かって、有無を言わさす、引きずり落とされる。
BLACK OUT
腕らしきものに導かれ、落ち続ける。
背中が赤ちゃんを置くように、地面に着く。
『ふわっ』と、ソフトランディングする。
脇から、掴まれていた感触が無くなる。
腕らしきものの力感が、無くなる。
その地に着く。
《セノビ地区》から来た子供も、《イドオチ地区》から来た子供も、その他の地区から来た子供も、基本的に、集う地は同じだ。
背の低い草が生え広がる、芝生地。
そこに、集う。
周りは、円形に木々に囲まれ、そこだけ広場のようになっている。
広い。
数百人は、集えそうな気がする。
所々に、木々で作ったと思しき、掘っ立て小屋がある。
所々に、人が使用したと思しき、焚き火跡がある。
いや、立派に現在稼働中の、焚き火もある。
火の手が上がり、煙が上がり、美味しそうな匂いが香り上がっている。
どうやら、食事の準備中、煮炊きの最中だったらしい。
と、陽炎が発生する。
広場の中心が、揺らぐ、揺らめく。
揺らめいた空間から、『そっ』と、ソフトランディングする。
また来たらしい。
ソフトランディングした子供は、何が何やら分からずに、両手を上げた姿勢のまま、キョロキョロする。
答えが導き出せないのか、長い時間、キョロキョロする。
掘っ立て小屋から顔を出した子供も、煮炊きをしている子供も、子供に注意を向けている。
が、慣れているのか、興味津々と言うわけではない。
さりげなく注意を向けておき、『何か行動を起こしたら、フォローしてやろう』という雰囲気だ。
と、陽炎が発生する。
広場の中心が、揺らぐ、揺らめく。
揺らめいた空間から、『ふわっ』と、ソフトランディングする。
また来たらしい。
ソフトランディングした子供は、何が何やら分からずに、仰向けに顔を上げた姿勢のまま、キョロキョロする。
『そっ』と来た子供と、『ふわっ』と来た子供は、上から下から顔を合わせる。
お互い、警戒心を隠せないが、攻撃的な雰囲気は発しない。
直感的に、同じような境遇であることを、理解し合っているらしい。
そこに、子供が一人、近付いて来る。
子供と言っても、背もそれなりに高く、体もそれなりにガッシリしているので、子供と言うより少年といった面持ちだ。
近付いて来る少年に、『そっ』子供と『ふわっ』子供は、警戒心を露わにして、身構える。
少年は、怯える子供達に、拳を差し出す。
グータッチを求めるかのように、差し出す。
そして、言う。
「Welcome to The Jungle」
「「はっ?」」
『そっ』と『ふわっ』の子供達は、聞き直す。
この芝生広場は、ジャングルでは無いが、ジャングルみたいなもんだった。
ジャングルで暮らす、部族の集落みたいなもんだった。
構成員は、全部、子供。
所々、無数に掘っ立て小屋があり、掘っ立て小屋の数だけ、焚き火場がある。
基本的に、男女ごちゃ混ぜで生活しているが、寝る小屋だけ、男女別に別れている。
ああ、勿論、トイレも。
全員子供と言っても、年齢差はある。
上は十代中頃くらいから、下は五、六歳くらいまで。
中学生ぐらい ~ 小学校低学年くらいまで。
それそれの年代が、各人が、的確にできる仕事をこなし、助け合って、相互補完して、生活をしている。
誰かが誰かに、一方的に依存している関係は、見受けられない。
比較的年少の子は、瞬発力・起動力を要する、各小屋間の連絡係や配達係等に従事している。
比較的年中の子は、持久力・応用力を要する、各小屋での指導や教育等に従事している。
比較的年嵩の子は、分析力・企画力を要する、集落全体の計画立案やロードマップ作り等に従事している。
今回新しく加入した子供も、そしてその後、続々やって来た子供も、集落内に引き取られ、みるみる馴染んでいった。
無理も無い、というか自然。
年齢が近くて、ほぼ同世代。
世代間の断絶なんて皆無で、ジェネレーションギャップもほぼ皆無。
新旧世代闘争なんて、あるわけがない。
それに、何よりまず、力合わせて生きていかなあかんのやから、争っている暇が無い。
厳しくも、清貧な、平和の日々を送る子供達。
でも、子供達に、厄介事運んで来るのは、いつも大人達だったりすんのやなー。
そいつらは、来た。
八十歳代と思しき老人二人に、四十代と思しく男一人、計三人。
老人達は、かくしゃくと動いているが、動きに瞬発力が無く、キレとスピードが劣っているのは否めない。
三人は、隣村の代表、補佐、用心棒。
隣村から人が来るのは珍しく、ほぼ初めてのことだった。
三人は「相談事と、お願いが、ある」と言う。
応対に出た子供達は、とりあえず、年嵩の子供達が寝泊りしている小屋へ、三人を案内する。
三人が小屋に入って、数時間。
三人が出て来るまで、数時間。
小屋の中で、話し合いが持たれたらしい。
出て来た三人は、『ほっ』とした顔を見せて、速やかに去って行く。
三人が小屋から出て、数時間。
三人が集落去って、数時間。
その小屋に、七人の子供達が呼び出される。
それから、数分。
七人が小屋に入って、数分。
たったの数分後、集落内の全子供達に、集合がかかる。
年嵩の子供達の小屋前に、子供達は集合する。
子供達は、前に居並ぶ、七人の子供達に注目する。
先日の新入りも、みんなと同じように集って、注目する。
そして、ちょっと驚く。
七人列の一番左。
そこに先日の、「Welcome to The Jungle」、がいる。
七人は、それぞれ、左端から紹介される。
ライコネン
キントキン
ナベツナッギ
サーダミツ
ウラベッキー
ミフネンコ
シムラング
何故、七人が、みんなに紹介されるのか分からない。
そもそも、何故、全員が集められたのかが分からない。
みんなの顔や頭上に、?マークが浮かぶのを察し、年嵩の一人が口を開く。
・隣村が度々頻繁に、襲われている。
・襲っているのは、隣村御の人々よりも、体格的にしっかりしている男達。
・他に、身体特徴としては、
朱が所々に差した白い肌と、トサカ状に立てた金髪。
・その男達は、「~シュ」「~シュ」と言葉の端々につぶやく、十人組。
・以上から、そのならず者達を、「シュテン」と呼んでいる。
・シュテンの略奪は、今は隣村に留まっているが、
隣村での略奪が一段落すれば、こちらへ矛先が向くことも充分考えられる。
・いや、その可能性は、かなり高い。
・そこで、隣村からの増援以来に基づき、腕の立つ者を派遣することにした。
・その派遣するメンバーが、前の七人。
・隣村の捜索活動により、シュテンのアジトは判明している。
・そのアジトに、この七人を送り込む。
・七人の意志を聞いたところ、全員、同意してくれた。
・さあ、みんな、健やかに、送り出してやろう。
年嵩の挨拶の後、リーダー格と思しきライコネン辺りから、所信表明があるものと思われたが、そんなものは何も無かった。
テント用品と食料と衣服その他を入れたキャリーケースをガラガラ引っ張って、旅立つ七人を見送る。
盛り上がりに欠ける壮行に、『ま、そんなもんでしょ』とばかり、奮い立つこともせず淡々と、七人は進む。
しかして、その淡々が、腹を括った好ましいものに、目に映る。
どことなく、芯があって、信頼感がある。
シュテンのアジトがどこにあるのかは知らねども、ここよりは辺鄙なところだろう。
七人の道行きにも、苦労が伴うだろう。
でもそれは、『自分が選んだ道』なので、納得して、ズンズンと七人は進むだろう。
積極的であろうと、消極的であろうと、ポジティブであろうと、ネガティブであろうと、自分の選択には、自分で責任を持つ。
シュテンのアジトは、山の中腹に在った。
大きな洞窟を、アジトにしている。
アジトの隠蔽化に絶対の自信があるのか、『こんな山奥まで、ムラのやつが来るわけない』とタカを括っているのか、見張りは無い。
こちらが疑問に思うほど、ウエルカムだ。
七人は、入り口近くの繁みに潜み、キントキンを斥候に出す。
キントキンは、警戒しつつ警戒しつつ、慎重に慎重に、入り口から中に入り込む。
十数分後、警戒しつつ警戒しつつ、慎重に慎重に、キントキンは戻って来る。
キントキンの報告によると、中の様子は、各自様々、十人十色だったらしい。
本を読んでるやつもいれば、漫画を読んでるやつもいる。
カードゲームしているやつらもいれば、話をしているやつらもいる。
寝ているやつもいる。
早い話が、各自フリーに行動している。
統一性は無いし、制御されていない。
てんで、バラバラ。
多分、アジトでは、いつもこの様なものなんだろう。
七人は、意見の一致をみる。
攻め込むなら、アジトにいる今やな。
ライコネンは、他の六人に、オオエの木を探すように言う。
オオエの木は、虎柄っぽい模様をした木肌をしているので、見つけ易い。
オオエの木が見つかると、その木の枝から、七人で葉っぱを摘み取る。
ある程度、葉っぱが集まったところで、ライコネンは明かす。
オオエの木の葉には、ある効果がある。
オオエの木の生葉を、水とかに浸しておけば、葉から葉液が滲み出る。
その葉液に、アルコール性の、神経を麻痺させる効果がある。
これを、シュテンの水瓶等に放り込んでおけば、敵の戦力を多大に削ぐことになる。
ライコネンを除く六人は、合点する。
そして、作業に入る。
石を、オオエの木の葉で包み、オオエの木の葉で括る。
これなら、水瓶等の中に落とした時、水面に浮かぶことも無く、気付かれにくい。
作業が終わり、幾らかの、木の葉包みが出来上がる。
木の葉包みを袋に入れ、キントキンは立ち上がる。
斥候に出たのは、キントキン。
よって、アジト内のことも分かっているのは、キントキン。
だから、水瓶等に、木の葉包みを落とし入れる役目も、キントキンがするに相応しい。
キントキンは、さも当然のように、迷いなんて一切無く、アジトの入り口に向かう。
他の6人も、さも当然のように、見守る。
十数分後、キントキンは、帰って来る。
帰ってくるやいなや、左手の親指を立てて、掲げる。
成功したようだ。
首尾良くいったようだ。
攻撃実施は、翌日の朝食時間帯後にする。
水を飲み、水を使うであろう、朝食後にする。
それを聞き、各々は、うなずく。
各自、各々の木槍を手入れする。
先を尖らした木槍を、手入れする。
先が丸まっていないか確認し、丸まっていたら、尖らせることに勤しむ。
鳥の声、鳥のさえずり。
朝ぼらけ、朝露。
肌寒さ、清浄な空気。
朝は、やって来た。
『朝イチ』か『朝ニ』くらいには、食事を取るであろうから、急襲する時も迫る。
七人は、朝食として、果物を口にしていた。
準備は、OK。
後は、空気というか雰囲気が変わるのを、待つのみ。
洞窟内から醸し出される雰囲気が変わるのを、待つのみ。
木の葉包みの効果が出始めたら、洞窟の中は、大騒ぎになるはず。
洞窟内から漂う雰囲気も、一変するはず。
それを、待つ。
それを合図にして、攻め込む。
七人は、木槍を手にして、待ち受ける。
ザワ ‥ ザワ ‥
ゴゴゴ ‥
空気が、変わる。
雰囲気が、変わる。
洞窟の中が、心なしか賑やかになる。
洞窟の中が、ハッキリと騒がしくなる。
洞窟の中で右往左往してる様子が、手に取るように分かる。
「ここぞ!」とばかりに、七人は踏み込む。
シュテンの十人は、虚を突かれまくって、浮き足立つ。
体勢を立て直そうとするものの、オオエの木の葉液で神経が麻痺して、体が言うことを聞かない。
ズボッ
ズボッ
ズボッ
ズボッ
ズボッ
ズボッ
ズボッ
「あっ」と言う間に、7人のシュテンをなぎ倒す。
残るは、3人。
対して、こちらは、七人丸々残っている。
数的優位は、明らか。
「ギバルシュ」
「ああ?」
「俺ら3人だけに、なってしもたな」
「そうやな」
「3人で三角陣、組むか」
「そうしよ」
「そうしましょ」
残った、ダニッシュ、ギバルシュ、トリッシュの3人は、お互い背中合わせに引っ付き、三角陣を組む。
外から、周りからの敵に対して、各自対抗する構えだ。
敵は、案の定、3人の周りを取り囲む。
そこから、フォーメーションを変える。
1人に二人が対し、残った一人は、六人の周りを廻る。
遊撃手として、六人の周りを廻る。
その一人は、優位に攻めているところに加わり、戦況をもっと優位にする。
形勢不利なところに加わり、その形勢を立て直す。
周りを廻って、随時随時、合力する。
誰が呼んだか、これぞ、軌道衛星の陣。
「軌道衛星で来たか」
「数的優位あるんやから、まあ妥当な手やろな」
「軌道衛星取られてしまうと、ちょっと挽回は難しいかな」
「おいおい」
「まあ、足掻くだけ足掻いてやろうや」
「やな」
「やね」
そう言ってる間に、敵は木槍を差し込んで来る。
その木槍を、こっちも木槍で、弾き飛ばす。
が、一 対 二 +α
むっちゃ形勢不利、勝てる可能性、かなり低し。
相手は少しずつ、3人の三角陣を囲んだ輪を、縮めて来る。
縮めることで、こちらの木槍捌きを封じるつもりらしい。
敵は、後方にスペースがあるから、木槍使いに心配はいらない。
「やばいな」
「そうやな」
「相手は外側やから、木槍振るえるスペースは、確保できるしな」
「どうする?」
「逃げることに専念するか」
「どうすんねん?」
「三角旋風陣、で行こ」
「あれかー」
「あれね」
木槍を、胸元で水平に持ち、素早く3人で、円を描くように動く。
木槍を縁にした独楽が廻っているように、木槍を縁にした風が巻っているように、3人一体で、物騒な旋風を作る。
見た目ほど、殺傷能力も破壊力も無いが、敵を怯ませるには、充分過ぎる程の手だ。
敵が手をこまねいている隙に、『包囲をかい潜って、逃げよう』という作戦である。
「ほな行くで」
「おお」
「はい ‥ 」
‥ ズボッ
「 ‥ ぐっ ‥ 」
肌が突き破られ、肉が突き抜けられる音がする。
トリッシュの、呻き声がする。
「トリッシュ!」
「トリッシュ!」
見ると、トリッシュの腹からは木槍の持ち手が生え、背からは木槍の尖った先が生えている。
ご丁寧に、ダメージをもっと与えるように、トリッシュを突き刺した相手は、木槍をグリグリ廻している。
「 ‥ ぐっ ‥ ぐぐっ ‥ 」
トリッシュは、ダニッシュとビバルシュを見つめ、眼に弱まる光を湛えて、ささやくように言う。
「 ‥ じぃん ‥ ごひぇんね ‥ 」
もはや、三角旋風陣ができなくなったことを、あやまっているのか。
もはや、そんなことは、どうでもええのに。
『どうでもいいことだ』とばかりに、トリッシュを突き刺した相手は、木槍を手元に引き、トリッシュを寄せ付ける。
ほとんど眼から光を失ったトリッシュの肋骨部分に、足を掛ける。
ぐしゅ ‥ ズボッ ‥ ぶしゅ ‥
そのまま脚を伸ばし、トリッシュの体を木槍から引き剥がす。
木槍から抜け剥がされたトリッシュの体 ‥ 傷口から、血が噴き出す。
動かない。
地面に転がり、眼から光を失ったトリッシュは、動かない。
軌道衛星の陣は、増強される。
一 対 三 +α
死への道程は形造られ、生への道程は断絶する。
「ギバルシュ」
「ん?」
「今まで、ありがとな」
「いや、その言葉、死亡フラグ立ちまくりやろ」
「そんなん気にしんでも、死亡フラグ立ちまくりの状況やん」
「それもそやな」
ダニッシュとギバルシュは、背中を合わせ、背中越しに、会話する。
「『そっ』と来て、『ズボッ』と逝く、ってか」
「俺は、『ふわっ』やったけど」
「そうなんか。
トリッシュは、何やったんやろう?」
「聞いておくの、忘れた」
「ああ、もう聞くわけにいかんし、謎が残ったな」
「少しぐらい、謎が有る方がええやろ」
「違いない」
「人生、謎がある方が豊かになる」
「もう、終わるけどな」
と、「なに、ごちゃごちゃ言っとんねん」とばかり、三× 2 = 六本の木槍が、解き放たれる。
ダニッシュとギバルシュは、それぞれ一本は弾き飛ばしたものの、残り二本に貫かれる。
腹部を、貫かれる。
ズボッ
ズボッ
ダニッシュとギバルシュは、交点に付く。
体の左側・右側から木槍に刺し貫かれ、クロスした木槍の交点に、体を位置する。
丁度、木槍で作ったX文字の中心点に、体がある感じ。
背中合わせのダブルエックス。
XX
『ああ、背伸びしんかったらよかった』
ダニッシュは、思う。
『ああ、井戸覗かんかったらよかった』
ギバルシュは、思う。
『任務完了』
ライコネンは、思う。
『ミッション、コンプリート』
キントキンは、思う。
『『『『『やれやれ、終わったか』』』』』
ナベツナッギ、サーダミツ、ウラベッキー、ミフネンコ、シムラングは、思う。
『ま、そんなもんやろ』
誰かが、思う。
『ご飯やで』
誰かが、言う。
「ご飯やで」
声を、掛けられる。
ホケーとした視線で、掛けた人を見る。
そこには、ちゃぶ台を囲んで、お茶をすする数人の人間がいる。
ホケーとした眼のまま、何も言わないで佇んでいると、母が言う。
「ご飯できたで」
父も言う。
「飯できるまで、横になって背伸びしてしもたら、ええ気持ちになって、
寝てしもたんか」
どうやら、少しまどろんで、うたた寝したらしい。
じーちゃんも、言う。
「まあ、一睡の夢、やな」
{了}