双子天使の、今生の別れ。1
皆さん初めまして。夜宗EBITENと申します。
今回の作品は初投稿となります。どきどきの初投稿ですが、温かい目で見て下さると嬉しいです。コメントなどを下さると、飛んで喜びます…!もし気に入って下されば、ブクマや★★★★★を付けてくださると嬉しいです!
これから、よろしくお願いします!
誰だって夢を抱くものだ。空を飛びたいだとか、魔法が使えるようになりたいとか。
そんな無垢な可愛い願いばかり。
でも、夢は時には叶わずに残酷な結末を見せる時がある。
これは、とある平凡な夢を抱いた双子の片割れと、その妹の物語。
「キース!!おはよう!!」
誰だ、こんな朝から僕の部屋のドアをノックしまくるのは。そう思いながらドアノブを握り、ドアを開ける。
「おはよう…って、なんだエルか。」
「おはよう、キース!なんだとは失礼だな〜!この私が直々に起こしに来てあげたんだよ?感謝してほしいくらいだね!!」そう言ってふふんと自慢げな顔をするエルを見ると、なんだかこっちまで笑えてくる。
「直々に…って、僕らは双子じゃないか…別にエルは上司とかじゃないし…起こしに来ること自体普通だろ。」
そう、僕__キースとエルは双子で、種族は天使。そこら辺にいる普通の天使だ。エルは妹で、僕はその兄。
両親は、僕たちが生まれてすぐに亡くなったそうだ。だから詳しいことは知らない。
「そんな難しい話は置いといて、今日こそは学校に行ってもらうよ!キース!!」
「いや、全然難しい話じゃないだろ。てか、この話、エルが始めたんじゃなかったっけ……あと昨日も言った通り、学校には行かないよ。だって行ったって、楽しいことなんて一個もないじゃないか。」静かにツッコミを入れつつも、僕はエルの申し出をきっぱりと断った。
「えーー!?なんで!?学校が楽しくないなんてありえない…」エルはとびきり驚いた顔をする。
「だって僕、友達一人もいないし…」そう言うと、エルはいきなり手を掴んできて
「キース、私がいるよ。私たち、最高の双子じゃん!!友達いないとか、そんな嘘つかないでよ!」
双子と友達は、なんだか違うような気がしたが、それは置いておくことにした。すると、
「キース、今日学校で何があるか分かってる?」とエルが言ってきた。
「いや、全然知らないけど…」と僕が返すと、エルは
「遠足だよ。」とニヤニヤしながら言ってきた。
その言葉に、僕はうっ…となる。その気持ちが顔に出ていたのか、エルが、「行きたいでしょ?」と更に後押ししてくる。やめてくれ、そんなこと言われたら、何がなんでも行きたくなるじゃないか。
そんなやり取りをしているうちに、「分かったよ…行けばいいんだろ…」と、最終的に僕が折れてしまった。
「やったぁ!!じゃ、早速準備してね!はいこれ。遠足の準備物一覧のプリント!」
そう言いながら、プリントを僕に渡してくる。こいつ、最初から行かせる気だったな。
「分かったよ…じゃあちょっと待ってて。すぐに支度してくるから。」
そう言って、僕はエルと一旦解散する。態度には出さなかったが内心、楽しみな気持ちもあった。
でもこの遠足が、僕たちの人生を大きく変えることになるなんて、思いもしなかった。
「皆さん、集まりましたね。ではこれから、天使の歴史を知るための遠足…という名目の社会科研修に出発します。くれぐれも離れないようにして下さいね。」そう言いながら教師が今回の遠足の説明を始める。
そんな状況でも、エルは僕にしきりに話しかけてきた。
「ねぇねぇキース!今日はどんな所を周るんだろうね!!すっごい楽しみ!!」
「エル、僕をハメたな?遠足という名の社会科見学じゃないか。」と僕は言った。すると
「?ハメてなんかないよ?だって社会科見学という名の遠足でもあるでしょ?」と言ってきた。
だめだこいつ、話が通じない。そう思った僕は、隣でずっと話し続けるエルを横目にほぼ全スルーしていた。
「そういえば今日の遠足、あの有名な扉のある場所に行くらしいよ!」
突然耳に入ってきたその話を聞いた僕は、思わずエルの方を向いた。
「は…?」
つい僕はそう呟いてしまった。
何故ならその場所は
僕がこの世界で最も嫌う場所だったから。
教師の説明も終わり、僕は、はぁ…と思わずため息をついた。
「あそこに行くんだったら、遠足なんか来なきゃ良かったよ…」
そう僕が言うとエルは
「キースってさ」
と言葉を紡ぐと同時に黙った
「何?」
僕がそう言うと、口を開き
「なんか困った事とかない?ほんとに些細なことでも良いから!」と僕に言った。
「……別に何もないよ」そう僕がうつむきがちに答えると
「そっか、それなら良かった。」と、笑顔で返してくるのだった。
その時僕は、エルに後ろめたさを感じた。
なぜなら僕は、僕は______
「エル!!」
そう考えていると、後ろからクラスメイトが駆け寄ってきた。
「あっ!ミカ!おはよう!!」そうエルは笑顔を振りまきながら返す。
「おはよう…って、またキースと話してるんだ。エルって物好きだね。そんなつまらない事、止めれば良いのに」
僕が目の前にいるのにも関わらず、ミカはそう言い放つ。
まぁこんなの日常茶飯事だ。別に気にしてなんか___
「そうかな…私って物好きだったんだ…!ありがとうミカ。また新しい自分に気付けたよ。」
そうエルは返した。
少しだけ、エルのこういう__悪口を言われている事に気付かない所が、僕が日常的にいじめられている事に気付かないのが、僕は嫌いだった。
そうこうしているうちに、遠足は始まった。
最初は、天使のお偉いさん達がいる宮殿を見学しに行った。それは豪華な宮殿で、僕たちには眩しかった。
二番目に行ったのは、公園だった。とても綺麗な水が流れている噴水があった。それはそれは美しかった。
__というのが、全校生徒ほぼ全ての感想だろう。僕一人を除いて。
実は嫌味を言われたあの後、エルはミカに半強制的に連れて行かれた。なので僕は、みんなが周りでワイワイしている中、一人で過ごしていた。その間にもクラスメイトに何回も足を蹴られたり、悪口を言われたりした。なんで僕ってこうなんだろう。なんでエルとこんなに対照的なんだろう。エルにはたくさんの友達がいて、たくさん笑顔を振りまける。なのに僕は__遠足の最中、どこに行こうが僕はずっとそう考えていた。加えて三番目は、僕が世界で最も嫌いな場所に行かないといけない。文字通り最悪だ。
三番目の場所がなぜ嫌いなのか、その理由はすぐに分かる。
「皆さん聞いて下さい」そう教師が生徒に言う。
「三番目に__魔界への入口となる扉のある花畑に行きますが、これから言うことは、絶対に守ってくださいね。」
教師は話を進める。
「絶対に扉の付近にある結界に近づかない事、ふざけない事、天使の心得を守って行動すること。この三つを守ってください、良いですね?」そう教師が言うと、生徒達ははぁいと返事をする。
もう分かっただろ、僕のこの場所が嫌いな理由が。誰だって魔界と繋がってる場所になんて、行きたくないだろ…
「なぁなぁ、キースはこの話どう思う?」
突然、さっきから僕の背中を叩いていたクラスメイトがそう言う。
「何が?」僕がそう言うとそいつはニヤニヤしながら、
「魔界への入り口となる扉に入ったら、どうなるかって話」
僕はそれを聞いて背筋に寒気が走る。なんでこいつがニヤニヤしながらこの話を僕にしてきたのか。理由は大体わかる。
僕を、扉の中に入れようとしているのだ。
「何ふざけた事言ってるの?先生の話、聞いてなかった?」そう僕が言うと、そいつは
「うわー!キースが切れてる!!こんな冗談で怒るとか、天使じゃありえねーっつーの!」
そうわざとらしく声を上げる。周りの奴らも同調して、クスクス笑っている。
「君が冗談で済ます保証がないから、ただ警戒しているだけなんだけど」
「ハッ…偉そうに…ってうわ、なんだよエル…」
喧嘩が始まりそうになったその時、急にエルがこっちにやってきた。しかも俺の方に。
「行こうキース。」そう言ってエルは僕の手を引っ張って、その場から走って離れていく。
「見てろよキース」
背後から、あのクラスメイトの声がした。
クラスメイト達から、なんなら遠足の列からすごく離れた場所までエルは走っていって、やっと足を止めた。僕は荒くなった呼吸を整えながら
「はぁ…なんで僕なんか助けたのさ…お前だってあいつらと同じように思ってるんだろ?」そう僕が言うと、エルはこっちを向いた。
その目には、大粒の涙が溢れていた、
「えっ」
そう僕は思わず言ってしまった。エルが泣いているのなんて何年ぶりに見たか。やばい、どうしよう。
そう僕がオロオロしていると、エルが「ごめん、キース。私、今までずっとキースが__お兄ちゃんがいじめられているの、横目で見て、ほったらかしにしてた。妹なのに、家族なのに。こんな馬鹿な真似してごめんなさい。」
そう言いながら、エルは泣きじゃくった。
僕はどうしていいか、分からなかった。でもただ一つ言える事があった。それは、
「僕こそ、いつも冷たく当たってごめん…」謝罪の言葉だった。
「今日はどうしてもって言うのは、これが言いたかったからだろ?」僕がそう言うとエルは頷いて
「だってキース、家じゃずっと部屋に引きこもって出てこないから、言うタイミングなかったし、こういうことはちゃんと目を見て話したいなって、思ったから。」
エルの言葉を聞いて、僕は嬉しくなった。こんなに僕の事を思ってくれていたなんて、思いもしなかったから。
「ありがとう、エル。」
僕はそう言ってエルの手を取った。
そうして、みんなのいる所に戻っていった。
先生に、どこに行っていたのかと、めっちゃ怒られた。
その後、僕たちは二人で楽しくおしゃべりしながら行動していた。なんだかわかだまりが消えたような気がして、いじめられている事なんか、どうでも良くなった気がしたから…
これで、全部解決したと思ってた。
だから僕は浮かれていたんだ。でも、浮かれすぎていたせいで、肝心なことに気が付かなかった。
僕たちは、目的地にたどり着いた。エルがいるのに、この場所はやっぱり心地が悪い。やはり魔界と天界の生活環境の差とでもいうのか。なぜこの場所を、遠足__社会科見学で周る場所に選んだのか未だに謎だ。
__色々この場所の歴史の説明を受けた後、僕たちは自由時間になった。お昼はもちろんエルと一緒に食べた。
普通に美味しかった。
食べ終わった後は、ずっとエルと話していた。帰ったら一緒に本を読もうねとか、そういう話をしてた。
しばらく話を続けていると、「エルさん、ちょっと良いですか」と、先生がエルを呼んだ。
「はぁい。キース、ちょっと行ってくるね」そう言って、エルは行ってしまった。
すると、エルの居なくなるタイミングを狙っていたのか、さっきのいじめっ子たちがやってきた。しつこいなこいつら。
「お前に見せたいものがあるんだ」
そうそいつらは言って、僕に目隠しをしてきた。
「…ッ!!何勝手な事してるんだよ!!」僕は怒鳴り声を上げた。とてつもなく嫌な予感がした。
「別に大した事じゃないから大丈夫だって!!」そう言いながら、僕をどこかへ連れて行く。
その間に僕は[見せたいもの]が何であるかに気付く。
「お前まさか…本気なのか!?」そう僕が言うと
「当たり前だろ。ずっと思ってたんだ俺。エルはすっごく良い天使なのに、双子の兄のお前は陰気臭くて見てるだけでイライラする。天使と悪魔、生まれる種族を間違えたんじゃねーの?」
ケラケラ笑いながらそう僕に言ってくる。
その言葉は、僕にぐさりと刺さった。
そうこうしているうちに、僕たちは扉の前にたどり着く。
「でも結界があるから、僕をその中に入れる事は不可能だと思うよ。」そう僕は言った。
「お前知らないのかよ。今この結界の貼り直しをしていて、俺たちでも壊せるくらい脆いんだ。先生はああ言って俺たちをビビらせたけどな。」
そう言いながら、結界の解除を始める。他の奴らも介助し出した。これは__かなりまずい。
「止めろよ!!!!!!」僕はそう叫ぶが、全く耳を貸してくれない。
その時、結界がぱりん、と音を立てて割れた。
「お前も魔界に堕ちて悪魔や堕天使にでもなれば、少しは好きになってくれる奴がいるんじゃねーの?」
そう言いながらそいつは僕に付けられた目隠しを外す。
僕の目の前は_______真っ暗だった。暗黒に染められた闇の中、僕はこの中に堕ちてしまうのだろうか。
いやだいやだいやだいやだいやだ
僕はそんな思考しか出来なくなっていた。完全にパニックになっていた。その時
「キース!!!!!!」僕が居なくなったことに違和感を抱いて探しに来たのか、エルがこちらに走りながら向かってきた。「お願いだからやめて!!お願いだから!!!」そうエルは今にも泣き出しそうになりながら懇願する。しかし、いじめっ子達は聞く耳を持たなかった。
「お前、エルや天使のみんなの為に、消えろよ。」
「バイバイ」
そう言って、そいつは僕を突き飛ばす。
最期に見えた天界の光景は、泣きながら走ってくるエルと、僕を嘲笑う天使達。
堕ちる、堕ちる、堕ちる。
今思えば、あの状況に先生も気付いていたはずだ。他の生徒も気付いていたはずだ。
なのに、なのに誰も___エル以外、助けてくれなかった。
僕は、いつしか憎しみを抱いていた。全ての__妹を除く天使へ。
僕が悪魔になったら、僕のことを褒めてくれる人が居るのかな。
僕が堕天使になったら、僕と友達になってくれる人が居るのかな。
僕がもし普通の天使だったら、もっとエルとも仲良く出来たのかな。
僕は、ぼくは_____
「ふつうのてんしになりたかった」
ぽつりと、そう呟いた。
もう僕の心には、何の光も差し込んでいなかった。
__続く
いかがだったでしょうか?キースとエルは別れ、魔界へと堕ちていきます。
そこに待っていたものとは___?
続きをお楽しみに!