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飯マズパーティ冒険譚〜勇者なのに料理番やらされてます〜  作者: ベニサンゴ


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第19話「鉄の思い出」

 ドグラ鉱山の麓と頂上を繋ぐのは立派なトロッコの路線だ。ビボルに案内されて訪れた発着場は、周囲に倉庫が建ち並ぶ広い場所だった。


「いつもなら、もっとたくさんのトロッコがここに並んでるんだけどね」


 閑散とした様子を見渡し、少し悲しげにため息をつくビボル。使えるトロッコはほとんど全て、物資を載せて上町へと送ってしまった。しかし、上町からトロッコが帰ってきていない。

 彼はトロッコの運営を管理している老獣人を紹介してくれた。


「アンタらが上町の様子を見てくれるっていう勇者さんだな。よろしく頼むよ」


 もさもさの毛で目元が隠れてしまっている爺さんは、そう言って枯れ枝のような手を差し出してきた。


「ワシはローラルという。使えないトロッコでも良けりゃあ、案内しよう」


 ローラルは杖を突きつつ線路を跨いで倉庫群の奥に向かう。普段からほとんど使われていないのだろう、年季の入った倉庫の前までやって来て、腰に下げた大きな鍵束から古びた一本を取り出す。


「さて、開くかのう」


 少し不安になるようなことを言いつつも、扉は無事に開いた。軋む音を立てながらゆっくりと開いた倉庫の中は、カビや埃、古くなった油の臭いが立ち込めていた。匂いに敏感なラウルがむっとしている。


「ここにあるのはほとんど廃品同然じゃ。自由に使ってもらって構わんよ」

「自由にって言ったってなぁ……」


 外から差し込む光で薄暗く照らされた倉庫内を見渡したラウルは途方に暮れる。彼女の言いたいことはなんとなく分かる。

 倉庫内には、古びたトロッコが乱雑に積み上げられていた。大人が十人は余裕を持って乗り込めそうな巨大な鉄の塊をどうやってここまで、と感心してしまうほどだ。ほとんどは錆びついていたり割れていたりと、いっそ鋳溶かして再利用した方が良さそうな有様だ。


「こんなんでも良いのか?」

「大丈夫だと思うわよ」


 訝るラウルにエレナは気楽な様子だ。彼女の思いついた秘策とやらは、いまだにわかっていない。しかし彼女は確信を持っているようで、積み上げられたトロッコをしげしげと見つめていた。


「ローラル。ここにあるトロッコは何度も使われたの?」

「そうじゃのう。このへんの型はワシがまだ子供の頃に動いておったものじゃ。最低でも30年、長いものなら50年は現役だったはずじゃ」


 現行のトロッコと比べて数世代前のものだというトロッコを撫でながら、ローラルは懐かしげに語る。彼はこの鉱山都市で生まれ育ち、トロッコ運転手を長年続けてきたという。

 毎日何十両というトロッコが行き交い、荷物を運ぶ。トロッコ運転手は町の稼ぎの柱を支える存在でもあり、大変な激務だったという。それでも、今となっては誇らしい記憶なのだろう。


「それだけ働いてたなら、まだ()()()()()しょ()()()。うん、大丈夫だと思う」

「エレナ、いったい何をするつもりなんですか?」


 ひとりで納得するエレナに不安を抱く。シエラがついに尋ねると、彼女はもったいぶった様子でようやく教えてくれた。


「ツクモガミって知ってるかしら。極東の島に伝わるローカルな魔術体系の概念なんだけど」

「極東の島……。醤油とか米とかの生産地か」

「アンタはそっちで覚えてるのねぇ」


 大陸の片隅、東方の辺境に独特な文化が根差す小国があるという話は知っている。以前のバイト先では、たまにその国が発祥の料理なんかもメニューに載せていた。


「とにかく、そこのツクモガミ理論をこっちのゴーレム作成とか人工精霊(ホムンクルス)作成の理論とかけ合わせて、ちょいちょいっとすれば、良い感じになるのよ」


 そう言いながら、エレナは杖を振ってトロッコに魔術を付与していく。すると、積み上がった山がグラグラと揺れ動き、トロッコがぐにゃりと形を変えていく。結合し、変形し、滑らかに。

 異様な光景にローラルも驚き、腰を抜かしそうになる。

 忘れていたが、エレナは魔術に関しては比類なき天才なのだ。


「よくこんな魔術使えるな」


 大きく形を変えていくトロッコたちを見上げながら、ラウルが感心したように言う。


「伊達に20年以上就活してないわよ。いろんな論文漁って組み合わせてやってみたの」


 誇って良いのか微妙なところを突いてくる。とはいえ、エレナは魔術学院主席の頭脳を活かし、ウチでタダ飯をたかりながら研究を続けていた。その成果を元に自分を売り込もうとしていたらしい。結局は、研究成果はともかく性格が災いしすぎて路頭に迷っていたのだが。


「さあ、完成するわよ!」


 エレナの指先で動いていたトロッコが、一つに集まり形を取る。それは滑らかな流線型の、全く新しい形のトロッコだった。


「これは……」

「この子たちが自分で選んだ姿よ。この形ならまだ働ける、また働けるってね」


 その声はどこか優しさを帯びていた。彼女は魔力と術式によって、手伝いをしただけ。この姿になったのは、ツクモガミと化したトロッコたちの意志によるものだという。


「なんと……これは……」


 ローラルも言葉を失っている。引退したと思っていた、ただの鉄屑として溶かされる運命にあったトロッコたちが蘇ったのだ。


「これなら、上までひとっ飛びよ。早速乗せてもらいましょう」


 ウキウキと胸を躍らせながらエレナはトロッコの車体を叩く。俺たちははやる気持ちを抑えながら、トロッコへと駆け寄った。

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