新企画
生徒会室に行くと、天使だけが待っていた。
「魔導師たちは、筋肉痛で欠席だそうです。」
拷問痛の間違いだろう。つくづく、人間でなくて良かった思う。
「まもなく夏休みということでキャンプを企画しようと思う。」
今、人間界ではグランピングなるものが流行っているらしい。生徒に食料調達を任せると、一帯が惨劇になる可能性がある。寮から食料と道具は調達して、自分達で調理だけしてもらうのが無難だ。
悪魔は野宿、魔導師はテント泊を希望したが、天使たちはベッドのある部屋を要求してきた。そんなものを建てても、後始末が大変だ。
「使用済みの建物が移設できるなら許可しよう。」
無理な条件を出せばあきらめるだろうと考えた。
「それなら、学内に移設し、生徒会役員専用の寮にするということで、校長に許可を取ってあります。」
どうやら、魔導師のリンチ騒ぎを問題視した学校が、役員だけを隔離しようと決めたらしい。
昔の僕なら喜んだが、今は他の悪魔たちともうまくやっている。
「最上階は生徒会長専用のスイートルームにします。」
貧乏性の僕には狭いところのほうが落ち着く。
「秘書室もあります。どなたかお気に入りがいらっしゃれば、交渉しますよ。」
いや、好みの悪魔なんていないし。だいたい鬼は女性のほうが強い。鬼嫁というくらいだから。
全員参加というのは規模的に無理がある。各組10名程度で複数回行なうしかあるまい。3回か4回か。これではこっちの身が持たない。何か一回で終わりに出来る案はないものか。
「いい考えがあります。3班に役割を分けましょう。野営班、調理班とキャンプファイアー班。これで3倍の参加が可能です。」
天使の一人が発言した。いまだに名前は覚えられない。いや、名前というよりほぼ一緒にしかみえない。
「ナニエルだっけ?」
「アニエルです。順番にダニエル、ウリエル、アリエル。」
後から知ったが、この4体は4つ子だというのだ。道理で見分けがつかないわけだ。双子の天使というのはまれにいるが、4つ子というのは特殊すぎるだろ。
「天使と魔導師は収まるが、あぶれた悪魔組をどうする?」
悪魔に調理をさせては何が出来るかわからない。天使は香りを、悪魔は生気を食事とし、人間は死肉を食らうものである。人間が火を使うことで、食物の香りと生気を飛ばすことで、天使と悪魔の食事は成り立つのだ。
「残りの連中には整地でもさせるか。」
ところが、この安易な発想が後々大変なことになるとはその時は誰も思ってもいなかった。