賞賛
「こりゃ、しごかれるな。」
勝てなかった悪魔たちはきっと激怒しているに違いない。後始末で罰ゲームを免れた生徒会だったが、クラスに戻るのは気が引ける。一人勝ちの校長から企画を表彰されたことも原因の一つだ。
「ごめん、勝てなかった。」
「すまん、力不足で。」
「できることはすべてしたんだ。」
僕はどうやって謝ろうかと何度も廊下を転びそうになりながら考えた。鬼の世界では泣けば許される。悪魔はどうなんだ?無視されるぐらいなら慣れているが、拷問されるだろうか。鬼は拷問する側であって、されるのは苦手だ。
恐る恐る教室のドアを開けた。
「よくやった。」
「さすが、生徒会長。」
罵声とは程遠い、賞賛の言葉が飛び交った。
「えっと、引き分けだったんですけど。」
恐る恐る答える僕に番長が笑った。
「悪魔にとって、最大の屈辱は負けることだ。それは勝つことじゃない。人間は寿命というやつがあるからか、やたら勝ちにこだわる。だが、俺たち悪魔や天使にとって勝つといことは負けるということもあるということだ。負ければ次はない。だから俺たちは力が強いものに従うことで、無駄な争いはしない。引き分けってことは相手も十分強かったってことだ。」
悪魔や天使っていうのは、どうやら鬼の世界観とは違うらしい。鬼は戦って勝ちあがっていく世界だ。まあ、親父はそれに疲れたからこっちへきたのかもしれない。
いままでばらばらだった悪魔たちが何だか纏まった気がする。ただ、どこからか悲痛な叫び声が響いてくる。きっと、魔導師たちだ。
次の企画を考えなければならない。人間界には文化祭や修学旅行なんてのもあるらしいが、悪魔に知的なものを求めても無理だ。集団旅行も魂狩りになりかねない。
振り返ってみると、悪運が強い。もし、鎌之助が失格にならなかったら、負けもあったということだ。彼が失格したことで、引き分けしか道が無くなった。校長の勝ちは誤算だった。しかし、学校の掃除で済んでよかった。ただ、魔導師の嫌がらせで、廊下のすべりがよすぎて歩くのが大変だが。