頭の差
「この婚姻に異議のあるものは?」
「待った。」
後ろのドアに白い馬のかぶりものをした不審者が立っていた。
「何者だ。」
「花嫁をもらい受けに来た。邪魔するなら、鬼といえどもこの鎌の餌食となるぞ。」
そう叫ぶ侵入者の手には、黒光りする魔界の鎌、長柄草刈り刃が握られていた。
「不審者に鎌を奪われました。」
段上にいる司祭に横から牛頭が現れて報告をした。
「不審者を捕まえ・・・。」
「いいんですか?この式の費用に、随分公費が使われているようですが。」
司祭の後ろで牛の頭の鬼が囁く。
「・・・なくていい。」
司祭は参列者を座らせた。
「動けば、誰であれ、そのかぼちゃ頭を切り落とすからな。」
馬の被り物をした人物は中央の通路をゆっくりと祭壇に近づき、花嫁の前に跪いた。
「姫様。お迎えに参りました。」
「やっと来たか。待ちわびたぞ。」
馬頭は着物の裾を破り捨てるとその若者を背負った。
「まあ、なんて格好。」
参列者から、どよめきが起こった。
「息を止めておくから、思いっきり走れ。」
馬頭は大きく前傾をした。
ドン!
大きな足音が会場に響いたときには彼らの姿は消えていた。その衝撃に背中の若者は大きく後ろにのけぞり、被り物だけがその場に転がっていた。
「Tレックス走法。やつは、九頭だ。生きていたんだ。すぐに指名手配しろ。」
花嫁を奪われた閻々は真っ赤になって叫んだ。
「おっと、いいんですか。」
牛頭が閻々に囁く。
「もし、やつが本当に九頭なら許婚を取り返しにきたということになる。許婚のいるものに手を出したとなれば、大王の一族でも捌きを受けることになりますが。」
「お前もやつらの仲間か?」
「いえ、牛頭家はあくまで大王様の法に従うまで。」
「やつは反逆者だぞ。」
「九頭は闘技場で公開処刑をしております。あなたも見ていたでしょう。やつの頭は完全に落ちました。それでも、生きていたというなら無罪。」
「もういい。あんな、はしたない娘はうちには相応しくありません。こちらからお断りです。」
「ママ、そんなこと言わないで、何とかしてよ。」
「これ以上、お父様に恥をかかせるんじゃありません。あなたには、もっといい娘を探してあげます。」
ぐずる閻々を引きずるようにして、彼の母親は部屋を出て行った。




