不戦敗
戦いは始まった。組み合わせはくじ引きだ。候補者か応援者がタッグを組み、どちらかが勝てば次へ進める。
丑や虎、辰を冠した十二神将たちが順当に勝ちあがっていった。そん中にあって、1対2という不利な状況をももろともぜずに閻々も勝ち進む。
僕としては試合どころではない。馬頭が帰ってこなければ不戦敗だ。まさか、牛頭を馬頭だと偽って戦わせるわけにもいかない。
「会長本人が間に合わなければ不戦敗になります。」
僕はルールに抜け穴がないか九つの頭をフル回転して探した。
「いるんだろ。隠れてないで出て来いよ、馬頭の許嫁。」
戦いに勝利したのは閻々だった。そして彼は客席に向かって叫んだのだ。その言葉に会場はざわつき、観客は辺りを見回す。
「会長を賭けたこの戦い。今現れなければ、馬頭を我が妃としてもらいうけることに同意したと見なすぞ。」
「閻々、会長は僕のものじゃないのか?」
クリシュナが客席から立ち上がって叫ぶ。
「戦っているのは俺だ。会長職はお前にやる。しかし、会長自身は俺が貰う。」
それを聞いて、クリシュナはがっかりしながらその場に座った。
マントを被った一体の悪魔が、擂鉢状の客席の最上段から勢いよく円を描きながら飛び降りてきた。
「よくわかったな。」
悪魔はゆっくり立ち上がった。
「前回の選挙戦のメモだ。ジョッキー9頭。これは九頭。お前のことだな、中等部生徒会長。」
馬頭が昔の姓で登録してしまったのだろう。閻々の言葉に、観客は一層ざわつき始めた。
「最後の余興として決勝戦といこうじゃないか。武器は自由だ。」
僕はフードから頭を出した。
「おっと、ここで実行委員から待ったがかかった。高等部の選挙戦に中等部の生徒が参戦するのはどうなんだ。・・・おっと結論が出たようです。確かに現生徒会長ではあるが、あくまで高等部現生徒会長ではないので代行は認められません。ただし、応援者として参加であれば可能ということです。会長が欠席なので、負けれは馬頭会長の負けになります。」
鬼の閻々は金棒を振り回した。僕は、鎌を構えた。力では勝ち目がない。何とかやつの隙を突いて背中に回り込むしかない。しかし運動会で見せたサリエルのような素早さは僕にはない。やつの一撃を食らわぬように、鎌で応戦する。その度に僕の鎌は悲鳴を上げる。だが、鎌のほうが間合いが長いためか決定打を放てず閻々はしだいに焦り始めた。




