特定屋
先日の放送ジャックは、珊底羅が閻々を蹴落とすために計画したものだと判明した。その映像に何者かが密かに珊底羅の部分を追加したのだった。世間にはこういう人の秘密を暴いて喜んでいる連中がいる。暴露系と呼ばれる連中で、地獄行きの死者の悪行を勝手に晒すのだ。中には、なんでもない普通のことも、悪意があるように流布するものもいる。
「一番人気でよかったね。」
部屋に戻った僕に馬頭は言った。その声は明らかに弱弱しかった。
「らしくないなあ。僕は馬頭が一番だと思ってるよ。」
実際、僕は馬頭に票を入れた。後から牛頭に聞いたが、馬頭も牛頭も僕に一票を投じたらしい。
「これからは下僕なんて言わないから。いつまで、ここにいられるか解らないから。」
まるで別れ際の恋人同士の会話みたいだ。馬頭の言葉に僕はなぜか寂しくなった。
馬頭がここに来たのは、牛頭のためだったらしい。足の遅い牛頭は、いつも遅刻気味だった。そこで、寮の話を聞きつけた馬頭が学内に住むことを思いついたらしい。お陰で牛頭の遅刻は減ったが、二体だけの生徒会は独裁的だと馬頭の人気は下がったようだ。
そもそも悪魔が有名になっていいことなどない。強力な魔力を持っているなら、たびたび召還されることもあるが、使者の魂を運ぶ程度では指名されることもない。むしろ無名のほうが、同業者に警戒されずに大物に当たることも望める。罪という荷が重いほど、遠くに行くので料金が高くなる。無間地獄行きの長距離専門までいるくらいだ。
さらに有名になると当然ながら世間は放っておかない。家族や先祖のことなど調べて、正体を特定して晒そうとする連中が現れる。何が楽しいのかわからないが、相手の嫌がることをするのも悪魔の性なのだ。
ほどなく鬼の出ということで、国栖つまり土蜘蛛という蛮族ではないかという噂が広まった。久頭家は久頭一尾と呼ばれ九頭龍神としてのイメージが強い。それに比べ、国栖は卑しい身分とされたので、馬頭が下僕と呼んでいたこともあり、素性のわからない僕にはぴったりだったのだ。さらにご丁寧に朝廷に討伐された土蜘蛛が悪魔に転身したという、まことしやかな説まで付け足された。
まさか、役人では食えないから悪魔になったとは誰も想像しないだろう。
「ジョッキー・・・9頭。そういうことか。」
そいつは放送室で一枚の古いメモを見て笑っていた。




