人気投票
校長は僕が馬頭の許婚とうすうす感づいているのだろうが、生徒の個人情報を憶測で語るほど馬鹿ではない。それに、これ以上のもめごとは起こしたくないのだろう。キャリアに傷がつけば退職金にも定年後の再就職にも影響する。悪魔になって真っ先に「悪魔は本心を隠して人に近づけ。」と教わった。教師と言うのは、生き馬の目を抜くような世界だ。それは役人の世界も同じだった。
「やつらに一泡吹かせる良い方法はないのか。」
珊底羅は取り巻きの連中に向けて怒鳴った。
「おそれながら、リコールという規則がありまして、総会で解任決議が通れば会長職を解くことができます。」
「すぐに総会を開け。」
「総会は年に一度の定期と、会長が招集する不定期がございます。われわれでは叶いません。ですが、方法が無くもありません。全校投票で開催要求が多数になれば、会長も招集せざるを得なくなります。」
「投票なんてすぐにできないだろ。」
「それには、考えがあります。」
そういって、彼は珊底羅にそっと耳打ちをした。
「なるほど。では、早速要望を生徒会に出そう。」
「会長、多数の生徒からこんな企画が出ておりますが。」
牛頭が執務室にやってきた。
「中高全校で人気投票か。面白そうだ。まあ、一番はボクで決まりだろうが。許可しよう。」
この決断が後々波乱を呼ぶことになると彼らは知る由もなかった。
僕は「中高全校」という部分に違和感を覚えた。そしてそれは現実のものとなった。
候補者は一定数の推薦を元に選ばれた。その中には、在校生に限らず卒業生も含まれていた。
高等部からは馬頭と珊底羅。中等部からは生徒会役員の天使アニエルとキャンプで活躍した金狼法師、そして悪魔代表の僕。さらに、卒業生から閻魔の甥の閻々。
女性の候補者が少ないのは、どこの世界でも推薦者がまとまりにくい傾向にあるためだ。一方、女子たちが作る押しグループにより、男子候補はまとまりやすい。それにしても、人気のないはずの僕が入っているのはどうにも解せない。誰かの策略かもしれない。用心に越したことは無いだろう。特に悪魔は何を考えているかわからないからな。
全校イベントともなると、アンケートによる予想で盛り上げようとする連中も出てくる。
「高等部の男子は馬頭、女子は珊底羅の人気が高いようですね。珊底羅は中等部でも女子に人気があるようです。男子では閻々が一番人気。アニエルと金狼法師が追いかけてます。おっと、どうしたんだでしょうか。現会長クズと答えたものは誰もいないようです。多数の推薦があったと聞いてますが、彼らはどこへいったんでしょう。」
やはりだ。誰かが僕を貶めようと策略しているに違いない。




