交換留学
珊底羅の目をそらすことがきできたのか不安だ。
「心配するな。悪魔のクズ家の出所を示すものは地獄にはないし、語るものもいない。閻魔庁の恥だしな。」
馬頭の話では、悪魔に転身した段階で、地獄からは除籍されてしまったようだ。しかし、いつまでも行方不明で押し通せないだろう。
「珊底羅のやつはインドから転向してきたばかりで何も知らない。しかし、薬師如来が厄介だ。」
というのも、閻魔は地蔵菩薩の化身である。薬師如来は仏でありその眷属となれば血統としては上だ。どんな無茶をいってくるかわからない。しかも、圧倒的に鬼女子の人気が高い。やがては悪魔女子にも広がる。
「薬師如来は七仏。頭の数では九頭の勝ちだ。」
こういうところは馬頭はのんきだ。いや、大胆というべきかもしれない。
「鬼と違って悪魔は死なないんだから、どうにもできないさ。」
僕の心配は、鬼退治の鎌というものが地獄のどこかにあって、鬼はもちろん、悪魔も消滅できるとの噂があることだ。
「これはこれは、交換留学ご苦労様でした。」
校長室には、ソファーにどっかりと腰を下ろす珊底羅の姿があった。
「破格の待遇と聞いてインドまで行ったのに、敬意どころか馬鹿にされたがどういうことだ。」
珊底羅は不機嫌だった。
「あちらでは牛が神聖なものということでしたので、本来なら丑の王子に行かせるところを、午と間違って薬師如来様に伝えてしまったようで。」
「如来の命でなければ即刻帰っていたところだ。まあ、いい。ところで、あの生意気な生徒会長とは何なのだ?」
「生徒たちの要望を聞いてまとめたり、イベントを企画したりする役職にございます。現会長の馬頭は人気が高くそのためかかなり強硬なところがありまして、少々手を焼いております。」
校長は言葉を選びながら説明する。
「なら、やめさせればいいではないか。」
「それが、やつの幼馴染に牛頭がおりまして。牛頭家は閻魔の金庫番。閻魔様より多額の寄付をいただいている当学園の立場というものがございまして。」
校長は珊底羅の機嫌をこれ以上損ねまいと必死だ。
「それで、閻々というやつも自由に出入りしているというのか。」
「はい。」
「なら薬師如来から寄付を受ければ閻魔や牛頭も大きな顔はできまい。」
「薬師様は口癖がセツヤクとかケンヤクですから。」
「確かに御自身も飾り物はつけないしな。」
珊底羅は自分の言葉に軽く笑った。
「ところで、馬頭には行方不明の許婚がいると聞いたが。」
不満が和らいだのか、ようやく本題に入った。
「おや、もうお聞き及びですか。さすがお手が早い、いやお目が高い。なんでも九頭という下級鬼の一族らしいですが、それらしい鬼の子は見当たりませんでな。今では本当にその者がいるのか疑わしという噂まであります。おそらくすでに生きてはおらぬと思われますが、死亡も確認できてませんでな。牛頭家と馬頭家がそろって証言していますので、絵空事と断言することもできないところが難しいところ。」
「今更出てきたところで、薬師如来の眷属である珊底羅家の力があれば、おとなしく引き下がるだろう。あの一緒にいた下僕と呼ばれていた悪魔は何者だ?」
「あれは、中等部の生徒会長。クズという悪魔です。素性の知れないやつですが、悪魔として珍しいことじゃありません。わりと知恵はあるようですが、気に留めることもありますまい。」
「どこの世界にも屑はいるものだな。」




