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転校生

 数日後、高等部がさわがしい。

「転校生は王子様ですって。それも神様よ。」


 鬼だろうが悪魔だろうが、神と結婚すれば神の一族に成れる。女たちが騒ぐのも無理は無い。

「たかが神王の子ぐらいで騒いで。」

 確かに神王といえば、仏を守る天部なので位とすれば低い。羅刹である馬頭とは同じ立場だ。


「やあ、君が生徒会長かい?ほかに役員はいなくて大変だろう。副会長でよければ僕がなてあげるよ。」

 やつは、執務室に現れるなり、馬頭に話しかけた。

「おあいにく様。間に合ってるわ。ここに優秀な下僕がいるんでね。」

 勝気な馬頭は、一歩も引かない。下僕と言ったのは僕のことだ。まあ、本心ではないと思うので聞き流したが、もしかしたらと不安もある。

「噂通りのじゃじゃ馬だ。だが、そこが魅力的だ。来年は僕が会長になって調教してあげるよ。」

 何とも、いけすかない野郎だ。これなら、大王の血筋である閻々のほうがましかもしれない。


「何を言ってる。会長戦には馬しか出られないんだぞ。」

 やはり、対抗馬というのを勘違いしていたか。

「なら、問題はない。我が珊底羅は午の神王。だが、手始めにそっちの下僕君を追い出してあげよう。」


 いや、まずいことになってきた。僕としては会長なんていつやめてもいいんだが、こいつにだけは好きにさせたくない。

「こいつは中等部だから、そううまくいくかな。」

 馬頭も負けてない。僕としては、ことを荒立てたくはない。


「閻々様のお越しです。全員、通路を開けてください。」

 寮内に、けたたましい警報が流れた。

「何者だ?」

 部屋に入ってきた閻々を見るなり、珊底羅は馬頭に尋ねた。

「閻魔の甥の閻々です。」

 馬頭に代わって、僕は珊底羅に答えた。

「で、泣き虫でマザコンの閻々が何をしにきた。とっくに卒業したんだろ。」

 珊底羅にとって閻魔は格上であるが、薬師如来の眷属である珊底羅が臆するものではない。


「閻魔一族に向かって、そのものいい。さぞ、名の在る一族なのだろうな。」

「我が名は、珊底羅。」


「次期会長としての名乗りを上げられたところです。馬頭会長を調教するとかなんとか。」

 僕はすかさず閻々に耳打ちした。

「それは聞き捨てならんな。馬頭は閻々の妃となるのだ。」

 両者は、向かい合ってにらみ合った。


「馬頭が承諾したのか?」

 珊底羅は憤怒の形相で閻々を睨んだまま尋ねた。

「あいにく、消息不明の許婚がいてな。どうせとっくに死んでるだろうが。」

 閻々も睨み返す。

「なら、勝負はついちゃいないわけだ。まだ先は長い。また会いに来よう。」

 珊底羅は部屋を出て行った。

「今なら、閻魔庁に行けば叔父さんに会えるな。」

 そうつぶやいた閻々は、

「今日は気分が悪くなった。また来るとしよう。」

 と言い残して急いで帰ていった。きっと珊底羅のことを調べるために、閻魔庁に行くのだろう。


 幸い鬼の九頭家と悪魔のクズ家が同じとは閻々も気付かないようだ。人間で言えば別の民族の同名さんという感じなのだ。

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