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許婚

 その日、馬頭は叔父さんの結婚式に参列した。そこで、今まで悩んでいたことを尋ねた。

「親が決めた相手と結婚するって古いと思いません?」

「どうかな。そういう者もいるけど考え方しだいじゃないかな。幼い時からそう思って相手を見ているから、互いに良い所も悪い所もわかっている。それに、目移りすることもない。自分を良く見せようと背伸びすることもない。変な期待がない分、長続きすると思わないか?」

「嫌なやつだったら。」

「その時は、家を捨てる覚悟で破棄すればいい。」

 叔父さんは、笑って答えた。


 僕は、遅くに返ってきた馬頭の隣でベッドに横になったが、なかなか寝付けない。

「許婚の件だけど、馬頭が嫌なら解消すればいい。でも、相手がいないなら、まだこのままでいいんじゃないかな。虫除けぐらいにはなるさ。効果が切れたら、捨てればいいんだし。」

 僕は馬頭に背を向けて、思い切って切り出した。


「本当にそう思っているのか?」

 馬頭は淡々とした口調で聞き返してきた。

「僕は王子じゃないからね。馬頭の夢は叶えてやれないさ。」


「お前の夢はどうなんだ。」

 そう聞かれて、僕はしばらく考え込んだ。僕の夢ってなんだろ。今の暮らしに追われて、いつしか考えることも無くなっていた。

「悪魔は夢は見ないんだ。親の後を継いで、しがない悪魔として暮らすのかな。」


 今日は馬頭からいつも違ういい香りがする。ずっと色気とは無縁なやつだと思っていたが、本当はきっかけが無いだけなのかもしれない。

「馬頭は、本物の王子様が来るって信じてるのか?」

 僕は背を向けたまま尋ねた。

「王子ってのは身分じゃないよ。それがわかるまでは、お前も恋ができそうもないな。」

 僕は朝までずっとその言葉の意味を考えていた。

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