クズ
最近、馬頭はよく学外に出かける。なので、中等部の仕事だけでも忙しいというのに、最近は高等部の仕事まで肩代わりさせられる。
「誰かと会っているのか?」
「馬頭のやつ、付き合ってるやつでもいるのか?」
僕は、まわりに聞こえないように牛頭に尋ねた。
「さあ、知らないなあ。」
やはり、牛頭も知らないか。
「王子様、王子様って夢のようなことばかり言ってるが何かあったのかな?」
僕はしつこく尋ねた。
「さあな。あいつ誰も寄せ付けないからな。もしかしたら好きなやつがいるのかもな。」
牛頭の言葉に、僕の心は急にざわついた。
こうなったら、自分で確かめるしかない。僕は、そっと後をつけた。九面相のお陰で誰も僕だとは気付かない。
馬頭は髪結いに入った。
「オシャレなど無頓着なやつだったはずだが。」
出てきた馬頭の後を追う。すると、見たことの無い馬の頭をした鬼が待っていた。馬頭よりもかなり年上だ。やつは馬頭と一緒に、店に入っていく。高級なアクセサリーを売っている店だ。
「まさか、あいつ援交とかやってるんじゃ。」
僕は不安になった。
さらにつけて行くと、時々、会話が漏れ聞こえてくる。
「・じ・様。式は・つ?」
「・月・予定。」
今度は式場に入っていった。
「やつが、言ってた王子様なのか?いや、結婚詐欺に引っかかってるっていうこともあるぞ。」
僕は、学校で馬頭の帰りを待った。やつは、結った髪を解き、何食わぬ顔をして戻ってきた。
「どこかに行ってたのか?」
「あんたには関係ないわ。」
「あの男に騙されてるじゃないよな?」
通り過ぎようとする馬頭に詰め寄った。
「つけてたの?最低。」
彼女は軽蔑するように僕を睨んだ。
「心配してるんだよ。最近様子がおかしいから。」
「あら、ありがとう。でも、なんであんたが心配するのよ。誰かに頼まれたのかしら?」
「そうじゃない。」
「なら、何?それって焼きもちってやつ?」
それ以上、追いかけるのをやめた。僕は何も言い返せなかった。自分でも自分の気持ちを言い表せないのだ。
「意気地なし。」
去り際に馬頭が告ぐ焼くのが聞こえた。その日は、僕は執務室で寝た。
目が覚めると、親から馬頭の叔父が近々結婚するという連絡が来た。
「悪魔になった九頭家は参列しないが、お祝いはしないとな。」
「式場探しとか、指輪の準備とか馬頭ちゃんがお手伝いしているらしいわよ。偉いわね。あんたとは大違い。」
僕の心のもやもやは晴れた。それと同時に馬頭を疑った自分が恥ずかしくなった。どうやって謝ろうか。
「ごめん。」
隣の部屋から出てきた馬頭にとりあえず頭を下げる。
「何?」
いきなりの事に馬頭はキョトンとしている。
「叔父さんの手伝いって知らなかったんだ。」
「いいわよ。あんたが最低ってことに変わりはないんだから。」
やはり、怒ってるんだ。もはや返す言葉も無い。
「お詫びにできることがあったら言ってくれ。」
「うーん。クズの九頭にできることねえ。じゃあ、王子様を探してきてくれる?」
「それはちょっと。」
「できないのに、格好つけんじゃないわよ。だいたい、いつまでもそんなこと気にするボクじゃないし。」
そう言って、やつは朝シャンのためにシャワー室へ入っていった。水の流れる音に混じって鼻歌が聞こえる。とりあえず機嫌は直ったようだ。




