いつか王子様が
「さすが、九頭ちゃん。頼りになる。」
奥から馬頭が出てきた。
「あれは、なんだい?」
悪魔の僕には、鬼の世界のことはよくわからない。
「閻魔の甥で卒業しても、ずっとボクのことを追いかけて時々やってくるんだ。」
「断ればいいのに。」
「馬頭家としては、上司の閻魔一族には逆らえないよ。それに、元を辿れば、許婚のあんたが悪魔になったからなんだからな。」
馬頭の親はこうなることを見越して、九頭からの婿取りを決めたのかもしれない。
「でも、許婚がいたら王子様と一緒になれないだろ。」
「だから、結婚式場に王子様が迎えに来て、一緒に逃げるんだよ。」
いやな相手ってのは僕ってことか?
「どうして、ボクの周りにはろくな男しかいないんだろ。はやくすてきな人が現れて、連れ去ってくれないかな?」
僕は、後ろから流れる戯言を無視して白い馬の被り物を脱いだ。
馬頭が後ろから抱き着いて、僕の耳元でささやく。
「優しくて勇気があって、権力に屈しない。でも、ボクの頼みなら何でも聞いてくれる。あんたの知り合いで、すてきな王子様いない?」
「いない。」
僕は即答した。優柔不断な僕でもこれだけは断言できる。
「だいたい鬼の知り合いなんて牛頭ぐらいしかいないし。」
「牛頭はダメ。あんなゆっくりしているやつはタイプじゃない。王子様は筋肉じゃなくて頭で解決してくれるの。そして地位も名誉を捨ててボクのために戦ってくれる。きっと女の子なら誰でもそう願うわよ。だから、女好きはダメね。浮気なんてしない。初恋がボクっていうのが理想。」
「女に興味がなくて、初恋って矛盾してないか。」
僕には女の子の気持ちというのが理解できない。
「パートナーって感じかな。綺麗とか可愛いとか見かけで判断するんじゃなくて、気持ちでつながっているというか。しいて言うなら馬と騎手みたいな。だからボク以外の女はかぼちゃにしか見えてないの。」
夢を見るのは勝手だが、世の中そんな都合のいいやつがいるわけがないだろ。




