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王子様

「道を空けい。」

 寮に、大勢の若鬼を引き連れながら偉そうにやってくるやつがいた。並んでいる鬼たちは蜘蛛の子を散らすように消え去った。


「閻魔大王の甥の閻々様のお越しだ。通るぞ。」

 牛頭といえども閻魔一族には逆らえない。

「ここから先は、閻々様だけでお願いします。」

 牛頭は慌てて、壁のスイッチを押した。


「閻々様のお越しです。全員、通路を開けてください。」

 寮内に、けたたましい警報が流れた。

「いかん。やつが来た。ボクは寝室に隠れるからな。後は九頭に任せた。やつを追い返せ。」

 突然の無茶振りにどうしていいかわからない。

「なんで、僕が?」

「応援するっていっただろ。」

「何の?」

「王子が迎えに来たら、応援するって。」


 ああ、あの時の話か。閻魔大王の甥なら確かに王子だ。

「念願の王子様だ。デートコースとか調べてやるぞ。」

「王子なら何でもいいってわけじゃない。」

 馬頭は隣の部屋へ駆けていった。


 残された僕は、慌てて顔を変えるが角があると元鬼とばれる。あたりを見回すと、競馬で使ったのか馬の被り物が置いてあった。


「馬頭はどこだ?」

 小太りの鬼が、横柄な態度で部屋に入ってきた。金銀のアクセサリーを身につけ、これぞ親の七光りという感じだ。

「会長はあいにく不在ですが、ご用件なら承ります。どちら様でしょう。」

 僕は小さな声で答えた。

「何だお前は?悪魔のようだが、妙な被り物をして。」

「はい・・・会長代理の者です。これは、冠位の烏帽子です。白が会長、黒が秘書の代理を表しております。」

 とっさに思いつくまましゃべる。


「俺は大王の甥だ。まあ、悪魔なら知らなくてもしかたないか。すぐに馬頭を呼んで来い。」

「いくら大王の一族でも聞けません。」

 閻々の顔は怒りで真っ赤だ。これ以上刺激をすると何をするかわからない。

「いつ戻ってくる?」

「聞いてません。」

 そういうと、僕はドアを開けて退出を促した。

「伯父さんに言ってお前の家族を地方へ飛ばすこともできるんだぞ。」

「それは残念。うちは悪魔なので閻魔の部下じゃありませんから。」


 やつは、悔しそうに「また来る」と言い残して部屋を出て行った。

「次からは受付で順番を守って来てください。」

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