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九面相

 馬頭が来てから、高等部の視線が痛い。九頭は頭を複数持っている鬼の家系だ。普通は決まった人物には決まった顔で接する。だから僕の全ての顔を知っているのは、幼少期に接したものたちだけだ。


「馬頭はこの顔がいい。」

 やつは幼い僕の顔を見比べて、自分専用の顔を指定した。だから馬頭といても誰も僕だと気がつかなかった。しかし、寮にいればばれる。そこで、常に死神のマントをかぶって部屋を出入りするはめになった。


「牛頭のやつは秘書っていってたが、何をしてるんだ?」

 金狼はちょくちょくやってくるが、牛頭は下の階にいて、ほとんどやってこない。

「あいつは門番みたいなものさ。」


 馬頭が詳しく話してくれないので、こっそり牛頭の様子を見に行くことにした。

「会長に面会したいんだが。」

 牛頭の部屋の前には、鬼たちが長蛇の列をなしていた。皆、手に何かを持っている。

「予定がつまっていて無理だな。会長室まで聞きに行ってくるから二時間ほど待っていてくれるか。」

 牛頭はゆっくりと歩き出した。

「もっと速く歩けないのか。次の授業が始まっちゃうよ。」

「これでも全速で走ってるんだ。」

 のんびりした牛頭に皆諦めて帰っていく。

「会長に渡し欲しいんだが。」

「プレゼントか?牛頭便で送るから送り状書いて。到着予定日は一年後かな。」

 見かねて僕が尋ねた。

「急ぎのようなら手伝おうか。」

「やめてくれ。あいつらは、馬頭に会いにきた連中だ。下手に通すと、馬頭に蹴飛ばされる。」


 どうやら、モテモテというのは本当のようだ。イベントの下見を口実にデートに誘おうとする者、プレゼントで気を引こうという輩。確かにろくなやつがいない。

「勝手に上がってくるやつはいないのか?」

「下心のある連中が、閻魔側近の牛頭家の機嫌を損ねるわけ無いだろ。逆にそんなやつを馬頭は待ってるのかもしれないがな。」


「おい、そこのやつ。割り込むじゃねえ。」

 並んでた鬼が僕に突然突っかかってきた。そうか、こいつら牛頭と話している僕が九頭だってわかってないんだ。

「知るかよ。」

 そういって、僕はさっさと出て行った。


「馬頭と同じ部屋に住んでるとわかったら殺される、いや悪魔だから消滅させられるな。ましてや一緒に寝てるなんて。」

 これは、早く何とかしないと。そう思ってもすぐにアイデアなんて出るものじゃない。とりあえず、九面相を駆使して逃げ切るしかない。ただ、中等部の連中が馬頭に興味を示さないのは幸いだった。

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