Tレックス走法
「もういちど、リプレイで見てみましょうか。」
第一コーナーでは、逃げ切ろうとする霊馬たちの後を、天馬たちがついていく。この時点で、馬頭はその差数馬身と大きく出遅れていた。直線に入ると、天馬たちが追い上げてきた。馬頭はようやくコーナーに差しかかる。ここまでは覚えている。第三コーナーでペガサスとユニコーンが大外から一気に先頭に踊り出た。体の重いケンタウロスはコーナーでは不利だ。
「ここで、最後尾の馬頭選手が怒涛の追い上げをみせましたね。いったい何が起こったんでしょ。」
「ここでジョッキーの体制が変わりました。体を大きく後ろに曲げて空気抵抗を無くしたんです。」
いや、気を失った僕は風に流されているだけだ。
「まったく力まず、風に逆らってないように見えますね。よく落ちないですね。」
「馬頭選手が彼の足をしっかり腕で挟んでますからね。二足走法ならではでしょう。よく見てください。馬頭選手の上体とジョッキーの体が一直線になってT字になっています。まるでジョッキーが恐竜の尻尾のように見えます。これで体の後ろに空気の大きな渦ができず、細かい無数の渦によって馬頭選手だけより滑らかに走れるようになります。さらに、コーナーではジョッキーの体が大きく外に飛び出しています。馬頭選手もスピードを落とすことなく、上体を内側にねじって常に自分の体とジョッキーの体が直線になるようにして、倒れないように遠心力をうまく足腰で支えていますね。どちらも体が地面に触れない絶妙なバランス。並みのジョッキーなら恐怖で体が起きてしまいます。これぞ人馬一体のTレックス走法。尻尾の無い馬頭選手によって最高の走り方です。よほどの信頼関係がないとこうはいかないでしょう。」
最後の直線に入ると、馬頭はさらに加速した。同時に僕の頭からフードが外れた。
「落馬してないのか。」
「ボクが負けるわけ無いだろ。危なかったがな。角の差ってやつだ。」
判定写真をみると、ユニコーンと馬頭が同時にゴールしている。顎が上がったユニコーンの角は上を向いていたが、顎を引いた馬頭の角は前に出ていた。
落ちたのは僕の意識だった。
「ジョッキーの顔が見えました。中等部生徒会長のようです。まさにサプライズ。」
「走りにくくなかったか?」
僕は倒れたまま尋ねた。
「ボロ布みたいで抵抗が無かったからな。むしろ走りやすかった。」
馬頭は照れくさそうに空を見上げて答えた。
「投票の結果もでたようです。やはり一番人気の馬頭ちゃんで決まりですね。」




