地獄を味わう
いくら能力者でも、キャンプ場は一日にしてならず。一週間ほどかかってやっとテント場とログハウスは完成した。
これも授業の一環だ。悪魔は鎌の使い方がうまくなった。天使は空を自由に飛べるようになった。それに比べると魔導師たちは進化が無い。死者を操っているためか、怪我人がでても気にしない。手抜きも多い。おかげで役員の見回りが欠かせない。
「生徒会長の見回りである。控えおろう。」
「お忍びじゃ。」
「屋根から人が落ちた。」
「こりゃ、いけねえ。すぐに医者を。」
「脈が無い。手遅れだね。」
「死体ですから。」
「魔導師組の多数の僧侶たちが、日当をよこせと抗議してますが。」
「無量法師といったら無料奉仕。講義なんだから抗議は聞かん。」
「他の組からは何もないのか。」
「天使も悪魔も仕えることに喜びを感じるので、生き生きと働いてます。不平不満をいうのは人間だけです。やつらは、ことあるごとにサボりますから。」
神様はなんで、こんな自堕落な連中を作ったんだろ。そのわがままに付き合わされる天使や悪魔は気の毒だ。おっと、僕も今では悪魔なんだっけ。
そんな人間を戒めるのが、神と鬼の務めだ。
「お金は出せないが、連中のために一肌脱いでやるか。」
ひそかに生徒会で、ある施設を作った。校庭の隅に大きな穴を掘り、淵が崩れないように石で囲った。その上に、枝や葉っぱでつくった蓋をした。
「こんなもんかな。やつらめ、当日になったらきっと泣き叫ぶに違いない。たっぷりと地獄を味あわせてやろう。」
僕は、一人でにやにやとほくそ笑んでいた。
施設が完成し、前夜祭を行なうことにことにした。そこで僕は、魔導師たちを、例の穴の蓋の上に裸で座らせた。
「みんな、ご苦労。これで明日、無事にキャンプを行なうことができる。魔導師の諸君はさぞ疲れたろう。これは生徒会からのご褒美だ。たっぷりと地獄を味わってくれ。」
そういった瞬間、穴の上の蓋は穴の中へと沈んでいった。当然、その上の魔導師も蓋とともに落ちる。魔導師たちの足元にはゆっくりと水が上がってくる。その水は湯気をあげながら、かれらの胸の当たりまで上がってきた。
「どうだ。地獄の釜の湯加減は。」
「最高です。」
穴の中には巨大な鉄釜が敷かれている。いわゆる五右衛門風呂だ。蓋の上に座らせたのは、火傷を負わせないためだ。湯は地獄から引きこんでいる。本来なら熱湯なのだが、地上に来るころにはちょうといい湯加減になっていた。




