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開会式

「これより、聖成神学園中等部運動会を開催する。」

 生徒会長の言葉から、熱い戦いの一日が始まった。


 世界には、人間以外の者が通う学校がいくつかある。そのうちの一つが日本にも存在する。それが「聖成神学園」だ。元々は、八百万の神が学ぶために建てられたものだが、昨今の乱開発と少子化のあおりで、神の数も減ってきた。そこで日本各地に点在していた鬼の養成所と併合し、日本で唯一の神学校となった。現在は、神と鬼のための高等部と天使と悪魔の中等部がある。


 敵同士が同じ学内にいたら、さぞかし荒れるだろうと心配するかもしれないが、無用だ。まず立地の問題がある。彼らは天国と地獄に分かれて住んでおり、相手の区域に入ることが許されない。なので、唯一共存できる空間が地上だけなのだ。だから、この地上が荒れて困るのはお互い様。


 さらに言うならば、彼らは敵では無く、互いに異なった役割を担っているだけだ。神は天国を悪魔は地獄を統治しており、天使は死者を天国へ、悪魔は地獄を運ぶ運送業だ。だから、死者を取り合うことも無い。なので、地上では皆、仲良く学んでいる。


「天使も悪魔も同業者なわけで、共に同じクラスメートとして互いに理解を深めていただきたい。」


 中等部での入学式での校長の言葉だった。互いのことを知れば、無益な争いも起きないだろうということなのだろうが、見た目や家系が異なればどこの世界でも対立は起こる。特に歳の若い中等部の連中は血気盛んだ。そこで、困った人間どもは魔導師クラスを作り、彼らに生徒会を運営させようとした。


 ところが、「自分たちこそが学園の規律を守るにふさわしい。」と、これに猛反発したのが天使たちだ。そこで、やむなくそれぞれから委員を選出することになった。もっとも悪魔はそんな面倒なことはしたくなかったのだが。


「たりいなあ。だれもやりゃしねえよ。」

 悪魔たちはできるだけ自由に過ごしたい。

「お前行ってこいよ。」

「いや、リーダー格の兄さんこそ。」

「んじゃ、そこの新入り。お前だよ。」

 クラスの中で日頃番長風を吹かせている悪魔が教室の隅で寝ぼけていた僕に向かって言った。


「あいつは、無理だって。何の役にも立たないですよ。なんせクズなんすから。」

「こんなのは使いっぱしりでちょうどいいんだよ。」

 他の連中が止めても、もはやヤツは聞く耳をもたない。


 こうして悪魔代表として、僕が生徒会に出向くことになった。なぜ僕が新入りと言われたかと言えば、僕は純粋な悪魔の家系ではない。もともと鬼と呼ばれる存在だった。が、近頃は地獄行きの人間が一気に増えた。それに伴い、悪魔不足が深刻になり、急遽悪魔が追加された。鬼というのは生涯、地獄から出られない。地獄、極楽、現世のいわゆる「3G」の中で最も環境も悪い。閻魔帳に暮らす一部の高級官僚以外は、灼熱や極寒の偏狭の地で血の臭いにまみれて暮らすしかなかった。そこで、下級役人である親父は、格こそ下がるが、息子を現世にも自由にいける悪魔とすることにしたわけだ。実力主義の悪魔の世界なら、魔王になることも夢じゃない。


 僕個人は地方の下級役人で、平々凡々と暮らしたかったのだけれど。


「悪魔代表のクズです。」


 僕は恐る恐る生徒会室に入った。別に卑下してクズと言ったのではない。牛頭馬頭は鬼でも一流の家系だ。うちは最下級役人の九頭。九頭竜といえば今でこそ立派な神様と知られるが、元来は鬼の家系だ。しかし、下級の鬼では生活していけず、実入りのいい神や悪魔に転身するものも多い。ヤマタノオロチも同族だが、人間に負けちまったしな。


「一体だけかい。でも、悪魔代表が来るとは思わなかったな。」

 部屋には、天使が四体、人間が四人いた。

「そうか、元は鬼の家系か。やつらは単独行動の悪魔と違って、集団行動をするからな。」


 候補者は揃ったが、誰が会長になるかで、またもめた。

「規律を重んじる私たち天使しかあるまい。」

「いや、ここは現世だ。俺たち人間がなるのが一番だ。」

 天使と魔導師はどちらも譲らない。悪魔は一体だけなのでわざわざ名乗り出ることも無い。部屋の隅でじっと眺めていた。


「悪魔君に決めてもらおう。」

「さあどっちを選ぶ。」

 いや、そんな僕が決めたとわかったら戻ってどんな目にあわされるか解らない。

「私だ。」

「俺だ。」

 天使と人間が目の前にせまってくる。どっちがいい。考えろ。


「私だよね。」

「俺だよね。」

 そう言われて、思わず

「僕だ。」

 と言ってしまった。


「どうぞ。」

「どうぞ。」

 天使と人間はあっさりと引き下がった。計略だったのでは。そう気がついた時には遅かった。一番統率の取れない悪魔をトップにして自由が利かないようにしておくのが狙いだったようだ。


 8対1。結果は火を見るより明らかだった。とりあえず、その日は解散。とぼとぼとクラスに帰った。

「どうだった。」

 皆に尋ねられる。

「会長になりました。」

 僕は、罵倒されるのを覚悟した。


「すげえじゃねえか。これで、この学校は悪魔の天下ってわけだ。」

 事の重大さを理解していない連中は大喜びしている。三すくみの板ばさみ。鬼もたいがい脳筋だが、能天気な悪魔たちに説明しても理解するはずもない。


「先祖を鬼の家系に持つクズ君が初代生徒会長になってくれた。鬼ほど団結力の強いものもおるまい。その団結力で本校生徒をまとめてもらいたい。生徒会役員は九人。まさにクズ君にぴったり。」

 朝礼で校長が紹介する。天使は飛び回り、魔導師は直立不動。悪魔は座り込んでいる。こんな連中にまとまりなど求められるか?


「まずは、学校行事として、運動会を催したい。天使・魔道師・悪魔の組対抗だ。最下位の組は優勝の組の願いを一つだけ叶えること。個人的な要望はNG。要望には審査がある。なお、競技に関する要望を一週間だけ受け付ける。」

 僕は朝礼で運動会の実施を宣言した。これで親睦が深まるかは疑問だが、団結力は増すだろう。

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