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5 編集後記  <オリヴァー・ラバンディンSide>

よろしくお願いします


 『生まれ変わっても、また一緒になろうな。絶対に見つけるから。お前も俺を忘れるなよ』

 『あなた、それ・・・』

 続きの言葉を発することなく、彼女は静かに目を閉じた。





 ロメリアと出会ったのは王立セントラル学園に入学して1年が過ぎた頃だった。

  


 数代前の王弟を祖とするラバンディン公爵家。その嫡男として生まれた俺はオリヴァーと名付けられた。

 

 俺はこの王国では珍しい銀髪だった。

 父は金髪、母は亜麻色の髪だ。

 ただ俺の母は、銀髪の異国人を父にもつ。俺の銀髪は隔世遺伝だった。

 物心ついた頃には祖父は亡くなっており、家族の中で自分だけが違う色あいは嫌だと泣いて母を困らせたこともあったそうだ。覚えていないが。

 

 父は外交官としての仕事の関係で、国内外を転々とする生活だった。

 生まれは王国ながらも異国人のルーツをもつ母も通訳兼秘書として父に付き従っていた。

 俺も小さいころから見聞を広げたほうがいいだろうという教育方針で両親と行動を共にしていた。



 母は語学だけでなく、自他国のマナーや教養などに精通していた。

 閉鎖的な王国にあって、異色でまた貴重な人だった。

 

 そんな母に厳しい指導を受けた俺は、まだ10歳にならないうちに近隣の国々の言語マナーを身につけていた。

 母はいつも、『大切なことは文法や所作だけではなく、相手に敬意を持つこと』だと繰り返し口にした。


 ロブイヤー帝国にも数か月間滞在した際、まだ皇太子に立太子する前の皇子と懇意になった。

 父と登場した皇城で迷子になったものの、好奇心に勝てず堂々とあちこち見て回っていた俺に話した掛けたのが皇子だった。

 その頃にはすでに、前世の記憶もすっかり現世の自分の知識として取り込んでいた。その大人びた物言いを皇子が気に入ったらしく、その後も長く交流するきっかけになった。

 

 

 俺が14歳の頃、当時の宰相が高齢を理由に後進に道を譲る事となった。

 指名されたのは俺の父だった。

 畑違いではないかと一度は固辞したものの、父の人となりを学園在学中から評価していた国王陛下のたっての望みで拝命することとなった。父と国王陛下は同級生だ。


 と同時に王女プリムローズと俺の婚約も調った。

 こうして、俺は王都に住むこととなり、翌年王立セントラル学園に入学した。

 


 俺は王国では珍しい銀髪のせいか、学園では初め、やや浮いた存在だった。

 見た目も、育ってきた環境も、前世の記憶があることも、周りとは違う自分。

 優越感を上回る孤独感を感じていた。

 

 だが、物怖じしない性格と、いろいろな国の事情を知っている事に興味を持たれたのか、少しずつ新たな人間関係ができつつあった。そんな時、母が倒れた。


 その頃の父は宰相職に忙殺されていた。屋敷に帰る事すら稀で、母が気丈にも屋敷や領地を守っていた。ギリギリまで普段の泰然とした態度で過ごしていたため、誰もが母の体調不良に気付くのが遅れた。

 母は倒れてわずか数週間で帰らぬ人となった。


 ”異端者”としての最大の理解者であった母を亡くしたことで、自分が何もない空間に掘り出されたような感覚になったことを覚えている。



 国王陛下も心を痛め、宰相である父にしばらく休むよう伝えた。

 が、父は厳格で責任感が強い人間だった。

 一度任された職務に対して手を抜くことはできないと葬儀直後も通常通り職務をこなした。

 

 父のあまりに淡々とした態度に俺は憮然としていた。

 が、ある日の深夜、父の書斎から漏れ聞こえた嗚咽に、父を支えて国の為に働くことが自分の歩むべき道だと心が定まった。

 

 

 学園では1年次から生徒会に入り、王子の乳兄弟ブルーム、クラフトン公爵令嬢たちと席を並べた。

 授業の内容的にはすでに実際を見てきた自分には物足りなかった。

 

 スキップし早期卒業して、多忙な父を手伝おうかと提案したが、(まつりごと)の道を志すならば1年遅れで入学してくる次期国王となる第一王子と交流を深めたほうがいいと言われ、残ることになった。





「王子殿下の元婚約者がカフェテリアで不審な行動をしている?なんだそれ?」


 2年次になり俺は生徒会副会長になっていた。

 俺が初めてロメリアに関して、直接口にしたのは殿下の警護も担当していたブルームから聞いた報告だった。


「王子殿下を追っかけているのか?とにかく一度確認してみる。ブルームは引き続き殿下の身の回りを頼む」

 

 ロメリア・アングスティという令嬢が王子殿下の元婚約者ということは認識していた。

 だが、それまで王城でも学園でも一度も接点のないままだった。


 俺がロメリアとはっきり顔を合わせたのはそれからすぐ、生徒会室でだった。


 壁新聞について熱く語るロメリアを見た瞬間、理解した。

 見た目は全然違う。でも分かる。

 堪えきれず、笑い声がもれた。

 運命という単語が頭に浮かぶ。



 『彼女だ』

 


 当時はまだプリムローズ王女と婚約していたため、ただ見守るために壁新聞部を創ることを思いつき、やや強引に一緒にいられる時間を作った。



 いつもは公爵家のため、周りからの期待に応えるため、気を張り自分にも他人にも厳しい態度でいることが多かったが、ロメリアと過ごす時間だけは違った。

 

 大概のことはおおらかに受け入れられる。

 

 二人だけの会話では一人称も「俺」に戻り、口調もつい、前世寄りになってしまう。

 

 ロメリアのナナメ上をいく行動に呆れつつ、指摘して、それすらも楽しく感じる日々だった。

 たぶん、浮かれていたんだろう。

 ブルームに、壁新聞部を創ってから雰囲気が明るくなったなと言われるくらいには。


 

「ロメリア嬢にも前世の記憶があるんだろう?」


 ロメリアの行動や会話には本人は無意識だが、明らかに前世の記憶が含まれていた。

 創部して、しばらく経ち、ファーストネームで呼ぶことを了承してもらった頃、自分にも前世の記憶があることを打ち明け、問いかけた。

 

 『俺との記憶』があることを期待して。


 「あら、私、転生者だと言いましたか?編集長も転生者なんですね」

 

 意を決して打ち明けたが、あっけらかんと応じられた。

 期待した答えではなく、落胆する気持ちとどこかほっとする気持ちになった。

 『記憶』があったとしても、この時はまだ共に歩む未来がなかったから。

 

 ロメリアの話では前世の記憶は、”まだら”らしい。

 思い出した時期が幼すぎたせいか、ロメリアの中で前世の記憶がうまく処理できず、時々前世の記憶なのか現世の知識なのか、ごちゃ混ぜになってわからなくなることがあるようだ。

 

 だが、あの皇女失踪事件が大きく俺の運命をも変えた。

 



 

 王都の一角にある王立セントラル学園の2階、壁新聞部の部室には夕陽の低い光線がわずかに入っている。

 ふと、これまでの事を思い起こしていた自分の意識をロメリアの言葉が現実に引き戻した。



「ええ、まあ。前世あなたと夫婦だった記憶はあります。

 あなたは見た目が前世と全然違うのに不思議とすぐわかりましたわ。

 だからこそ、あなたの存在を知ってからずっと、王城でも学園でもできるだけ視界に入らないようにしてましたのに。

 お会いしてからもまさか部活動をご一緒することになるとは思ってもいませんでした。

 

 ・・・だって、現世であなたには私にこだわらず、自由に生きてほしかったから」




「自由って何だよ。俺は君を見つけてまた一緒に生きていこうって約束を・・」


「それ。その約束。あなたは前世も現世も律儀な性格で、そこは素敵なところだけど、私にも記憶があると知れば、きっと約束に縛られてしまう。

 だから、記憶はない振りをして、今度はあなたに相ふさわしい方と結ばれて幸せになってほしいと思っていたの」


 ロメリアの言葉が頭でうまく処理できない。

 


「俺は約束をしたから婚約を申し入れた訳じゃないよ。あっ、それから他に高位令嬢がいないからってわけでもないからな」

 ようやく言葉を絞り出した。


「でも前世で結局、感動の一生もののプロポーズというのもされないままだったし、あなたは前世でも、現世でも、とてもおモテになるし。

 前世でいつも私ばかりが気持ちを伝えて、返事はないし。私、あなたの”お知り合いの女性”に”お話”を聞かされたこともあったわ。信じてはいたわよ。あなたは人を裏切るような人ではないって。

 でも不安はずっとあった。なぜ私と結婚したのか最後まで分からなかった。何だか結婚してもずっと私の片思いのような時間が長くて、疲れてしまったの。

 今回も私ではなくてもいい縁談はあったのではないですか? 

 隣国の皇太子殿下からのご紹介もあったと聞いていますし」


「そ、その話は、その場ですぐ断りを入れている。どこで聞いたんだ」


「イカが教えてくれました。それに私、これでも本当は理想が高いんです」


「理想ってどんな?」


「私は前世も今世も、うまく周りに合わせて生きることが、たぶん苦手なんです。いつも浮いた存在で。自分に自信が持てなかった。

 だから、そんな私を丸々受け入れてくれるような、私の四コマまんがを一緒に笑ってくれるような人が理想なんです」


「えっ、あの四コマまんがをか、難しいな。いるのか、そんな奴・・・。

 いや!君がいないと俺の人生は何の意味もないつまらないものになるんだ。

 前世は俺の態度とか言葉が足りなかったかもしれないど、でも、でも、俺しか本当の君の良さはわからないし、君しか本当の俺を受け入れてくれる人はいないんだよ。もちろん君の幸せも願ってるが、二人で一緒に幸せになる道はないのか?」


 「二人で・・。ううっ。そんなことを言われると・・。あなたのそういううかがうような表情、私弱いんです。ホント、ずるい!そんなの、私の人生だって、あなたがいないと意味を持ちません。私の存在を世界に繋いでくれているんですもの。

 ふうぅ。‥‥‥本当は、私、あなたの幸せを願うと言いつつ、あなたを好きになり過ぎて、またあの苦く、苦しい気持ちを思い出すのが怖いだっただけなのかもしれないわ。

 一度は諦めようと思ったのに。もう知らないから。私、これって決めると結構しつこいのよ」


「知ってるよ」ロメリアの赤られた顔を見ながら熱くなる自分の顔を自覚しつつ、俺は万感の思いで告げた。



「例え、生まれ変わっても、君を見つけるからずっと一緒にいような」



「あなた、それって、・・・前世でも最期に言われたけど、前カノには言ってないわよね?」


「心外だ!!俺は守れない約束はしない。せっかく、かっこよく決めたと思ったのに!」


「フフフ。ごめんなさい。わかってるわよ。あなたって本当にロマンチストね」

 ようやく、俺の大好きなロメリアの本当の笑顔を見ることができた。







  あの”婚約破棄のドミノ倒し騒動”からどれほどの時が流れただろう。

 窓からは春先の穏やかな日差しと心地よい風が入ってくる。

 王都の一角のラバンディン公爵家の邸宅の2階にある執務室からは、ペンを走らせる音だけが聞こえてくる。

 

 部屋のドアがのノックされ、入室の許可を得てから、一人の銀髪の男が入ってきた。

 手には一冊の本が携えられている。


「父上、何を書いておられるのですか?宰相職を譲って、ようやくゆっくりできる時間ができたのにまたお仕事ですか?」


「いや。ロメリアとの出会いのルポルタージュ、記録記事かな。俺も時間ができたら書きたいと思っていたんだ。

 彼女のことを考えると楽しいだろう?残しておきたくってね」

「母上のですか。それは面白そうですね」



「ロメリアがこの屋敷を旅立って、一週間か。彼女一人がいないと静かだな」


俺はペンを置き、窓からどこまでも澄み渡っている青空を見つめた。

「そうですね、屋敷から灯が消えたようです。寂しくなりました」


「ロメリアは悔いなく旅立てただろうか・・・」




「ところで父上、雰囲気出してますけど、母上は姉上の出産後のお手伝いに出かけただけで、後一週間ほどで戻られますよ?」

「うん、わかっているよ。それまでに、今度こそロメリアを唸らせる最高のプロポーズを考えて準備を始めないと。場所はやはり夕陽が沈む海辺か、いや夜空を見渡せる丘のほうか、・・」

「まだ納得してもらえてなかったんですか、プロポーズ・・・」







「しかし、実母とはいえ、娘の嫁ぎ先に手伝いとして長期間泊まり込みます?相手先にも使用人たちがたくさんいるんですよ?」



「まあ、半分は相手先の辺境伯夫人とお茶会をしたいだけなのかもな。

 唯一の友人なのに、こんな機会がないと会えないから。

 ほら、ストライフ辺境伯夫人は滅多に領地からお出掛けにはならないから」


「ああ、かなりの人見知りで、その姿を見ることできた人はいいことがあるという伝説すらありますもんね。僕は姉上の結婚式でお目にかかれたので幸運でした」


「たぶん、瞳まで見ないとダメだと思うぞ」 俺はにやっとした顔を、母親譲りの緑色の瞳の息子に向けた。

 



「あっ、そうそう、”アナスタシス先生”の新作小説の装丁ができましたら、お持ちしました。今回のタイトルも長いですね。


《前世を思い出し婚約破棄される前に修道院に逃げ出した悪役皇女が救国の女神と呼ばれるまで~解放したイケメンわんこ系騎士が迎えに来ましたが、私はここでのんびり農業します~》


 ・・・確か隣国で起こった農業革命は、修道院にいた元皇女が発端でしたよね。これって実話じゃ、ないですよね?」



「けっこう脚色はしてあるらしいけど、フェレシア様にも手紙で取材もしていたな。

 ロメリア曰く、”アナスタシス先生”渾身の作だそうだよ」


「父上が繋いだんですね、お二人を。

 母上、小説書くのはいいんですけど、食事や寝る時間もままならなくなるから、心配になります」


「ああ、確かにノッてると話しかけても返事もしない。でも壁新聞以外でやる気をみせたことだしなぁ」



 ロメリアは常に新しい恋愛小説に飢えていた。

 自分が求めるウキウキする恋愛小説がない!

 ないなら自分で書けばいいのか!

 

 そこでたどり着いたのが自身での執筆活動だ。

 ロメリアが二つ目にやる気を見せたのが恋愛小説の執筆活動だった。

 

 ロメリアは結婚後、趣味で小説を書き始めた。知り合いをモデルに脚色をして書いた恋愛小説だ。


 前世の知識と現世の知識を総動員し、文面を考えた。

 前世スキルの使う方向性が拡張されたパターンとも言える。


 

 

 完成品をモデルとなった夫妻に、サン・クリストバル・デ・ラス・カザス三世卿も同席の(俺は丁重に辞退申し上げた)お茶会で披露したところ。

 

 これを読んだストライフ辺境伯夫人ミレットはいたく感動。諸手を挙げて出版を勧めた。

 ちなみにこれを読んだストライフ辺境伯ルースはいたく動揺。両手を上げて赤い顔を隠した。

 

 それらを聞いて、失笑した俺が余りある能力を駆使して、あっという間に商会を興し、出版した。



 ”ラベンダー出版社” 誕生の瞬間である。



 編集と校正はもちろん、俺が担当した。

 

 新進気鋭の作家アナスタシスのデビュー作品《引きこもり令嬢は幼馴染の堅物強面騎士に偽装結婚を申し込まれる~実は筋肉フェチなので、至福の時間をありがとうございます~》は斬新な作風が受けて、まあまあヒットした。


 

 ()()()の両親がモデルとされる、2作品目《ツンデレ令嬢と氷雪の貴公子~結婚したら辛口からこんなに甘口になるなんて聞いてません~》は舞台化の話が出ていて、かのクラフトン公爵家が後押ししている。



「新作本、今回の旅に間に合えばよかったなぁ。まあ、俺もあと半年くらいしたら、かわいい孫に会いに行くつもりだから、その時でもいいか」

 「父上の執筆も終われば、それもお持ちして辺境伯夫人や姉上にも見てもらいましょうよ。僕も読みたいです、父上のルポルタージュ。どんなタイトルにしたんですか?」

 


  ”ドミノ”はラバンディン公爵家の力ですでに世に送り出してある。


 「ああ、タイトルは《創刊!王立セントラル学園 壁新聞部 ~婚約破棄のドミノ倒し~》」


                


                           ~終わり~


読んでいただきありがとうございました。

追って、号外を発行します。目を通してくださると幸いです( ´∀` )


※作中に登場したロブイヤー帝国第五皇女フェレシアの短編のお話を書きました。

「前世を思い出し婚約破棄される前に修道院に逃げ出した悪役皇女の真実」

こちらもよろしくお願いします


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