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3 忘れられた皇子と絵に描いた王女と強気な公爵令嬢

よろしくお願いします

 ジャンガリアン王国第一王子とロブイヤー帝国第五皇女の婚約白紙から、両国間で協議が重ねられた。

 その結果、王国第一王女プリムローズと帝国第七皇子レオパルドの婚約が内定した。



 それに先立ち、プリムローズ王女とラバンディン公爵子息オリヴァーとの婚約も白紙とされていた。

 また帝国第七皇子レオパルドとアゼレア・クラフトンとの婚約も白紙とされた。




 

 第五皇女のやらかしで縁戚外交の目論見がとん挫しかけた帝国側が、新たに提案してきたのは王国の王女と自国の皇子との婚姻だった。

 力関係では帝国の方が上だ。ジャンガリアン王国だけが反旗を翻したとしてもさほど脅威ではない。

 しかし、他国が王国を取り込む前に帝国側に付かせたいという考えがあったのだろう。

 外戚として王国内に干渉するのは難しいが、人質として王女を求めた形だ。

 

 この案で鍵を握るのは、留学生として約一年前から王立セントラル学園に来ていた帝国第七皇子レオパルドの存在だった。

 

 帝国には、第五皇女の他に王子と年齢的に釣り合う未婚の皇女がいない。


 発展途上中とはいえジャンガリアン王国はこれといった目ぼしい産業もない。

 さらには三方を海に囲まれ、もう一方は険しい山々に囲まれている。海側も大きな港もなく、小さな漁村が点在する程度。未開発な土地も多く、国民は慎ましくのんびりとしたやや閉鎖的な生活を続けていた。

 

 例え帝国が事実上、王国を支配したとしても逆に多額の投資が必要なほどで、うま味は少ない。

 また帝都から遠く離れ、途中のそびえ立つ山々も険しく、往来も情報も少ないことからも偏見が根強い。

 

 帝国内で今回の婚約に対して、皇太子を始め、多くの重鎮が難色を示していたが、皇帝が一人ごり押しした形だった。

 そんな事情もあり、特にプライドの高い皇族は、婚姻相手が一王国の王女であっても進んで手を挙げる者はなく、消去法で残ったのが第七皇子レオパルドだった。


 レオパルドは皇子だけでも7人目。しかも、皇帝の数多あまたいる側妃の一人であるレオパルドの実母は元々身分が低い。

 帝国内には大きな後ろ盾もないため、ジャンガリアン王国にその活路を求めて留学をしていた。  が、その実は、次代の覇権争いから距離を置く為の亡命に近い意味合いがあった。

 それがこの状況で貴重な存在となった。





「プリムローズ殿下とレオパルド殿下との婚約式は、あと3ヶ月足らずの冬至祭で行われるのですね。王室同志の婚約式としては早急ですね」


 ロメリアは記事を修正しつつ呟いた。


「帝国も苦肉の策だからな。第五皇女殿下が婚約式の決定から、のらりくらりと理由をつけて一年以上先延ばした結果が今回の騒動だ。皇女殿下の時のように先延ばしして、また頓挫したらたまらんのだろう」

 

「プリムローズ殿下はいずれ結婚されたら帝国に渡られるんですよね。殿下はあまり外交的な性格ではありませんし、大丈夫でしょうか」


「確かに周りに全てをおぜん立ててもらうのが当たり前な生活をしてるが、まあ大丈夫じゃないか。まだ2年ほど先だし。帝国内もそれまで、現行体制を保っていられるか先行きは不透明だ。トップが変われば、外交方針も変わる可能性もある。

 それにレオパルド皇子殿下は苦労人だから、人の痛みのわかる好人物らいしぞ。

 ただ、統べる者たる皇族としては、致命的に優しく甘すぎるというのが前出の皇太子の評価だ。

 といっても優秀なんだろうけど。

 王子殿下の動向にいち早く気づいて、母国の皇太子殿下に連絡を入れていたのはレオパルド殿下なんだ」



「レオパルド殿下は学園でも確かに、お優しい気遣いのできる方だと感じましたわ。

 私がカフェテリアでメニュー人気調査をしていた時も、気さくにお声をかけていただきましたし。

 数を数えるために書いた”正”の文字に興味深げでしたわ」


「カフェテリアの片隅にうずくまって、人の流れを睨みながら紙に何かを書き連ねる令嬢によく声をかけられたな。意外と勇敢だなレオパルド殿下。しかし、それ完全に怪しまれてるぞ。

 知ってるとは思うが、《正》って漢字で数の統計を取る文化はこの世界にはないからな。そもそも漢字がない」


「ひえぇ!」


 本日2回目の驚きを表すロメリア。

「気が付いてなかったことに俺が”ひえぇ”だよ」お手上げのオリヴァーだった。





 レオパルド皇子は留学と同時に、クラフトン公爵家の後継者となる一人娘アゼレアと婚約を結んでいた。

 王国での後ろ盾を探していたレオパルド皇子と、高貴な身分が仇となり、公爵家後継者の配偶者選びに難航していたクラフトン公爵家の両者の思惑が合致した縁談だった。


 アゼレア自身もそれまで頑なに婚約を拒否していたが、帝国の皇子の申し出を無碍にはできず、16歳でようやく婚約をしていた。 

 


「レオパルド殿下はマメな性格らしくてな。頻繁にクラフトン公爵家に贈り物を携えて赴く。

 で、クラフトン公爵令嬢とお茶を飲み、ニコニコしながら話を聞いて帰って行く。

 クラプトン公爵令嬢はそれを逐一王宮で王子殿下たちに報告するんだ。俺も王女殿下と婚約中は、王子殿下たちとのお茶会に同席する度に聞かされた」


「一見、理想的な婚約者の姿ですけど、何か問題なんですか」


「レオパルド殿下は公爵令嬢とのお茶会中、挨拶と相槌以外ほぼ話さないそうだ。ただニコニコ聞いてるだけ。言葉はわかってるんだぞ。細かいニュアンスまでは怪しいが。

 クラプトン公爵令嬢といえば学園一の才女で有名だろ?政治・経済、文化や歴史にも精通していて、知識だけなら大臣クラスの仕事ができるんじゃないかってレベルなんだ。

 

 公爵令嬢としては、自分の婚約者ゆくゆくは伴侶となる者とはもっとディスカッションをしたいんだと不満を爆発させていた。

 

 まあ、不満だけならまだいいが、同時に贈られた品々を見せるんだ。

 そしてちらっと王子殿下の後ろに控えているブルームを見る。ブルームの反応を確認するために。

 ブルームは真顔を保ってるつもりらしいが、必ず眉がひくついてる」



 「ブルーム様にしたらかなりのプレッシャーではなかったかしら・・・」頬に手を当て、独りごちするロメリア。



「王子殿下たちとのお茶会でもあの二人が一番話してるからな。政策や外交について嬉々として二人が意見をぶつけ合っている横で、会話の内容に付いていけない殿下たち兄妹が優雅にお茶を飲むのが常態化してる。

 そしてそれを見せられる俺。なかなかシュールな光景だぞ」



「私もカフェテリアで、難しいお顔で殿下やブルーム様とお話されているアゼレア様の姿を何度も見かけたことがありますわ」


「人気調査中に?」「はい」

 

 ロメリアにとってみれば、カフェテリア人気メニュー調査は壁新聞の恒例ネタとして人気を博している(と思っている)ので、定期的に続けていたのだ。

 

 いつかカフェテリアの店員に直接聞いてみればいいじゃないかと提案されたロメリアは、狼狽えながらも、学園生以外の教員や学園内部で働く人々も利用するからそれでは正確さに欠くと主張した。


 学園生の、学園生による、学園生の為の人気メニューランキングだと息巻いた。

 

 そんな大層なランキングかどうかはさておき、ロメリアがこの人気調査に並々ならぬ執着を持っていることは間違いなかった。

 

 オリヴァーはロメリアがいつか通報・捕縛されるのでないかと不安になった。

「調査する時は壁新聞部の腕章を絶対に付けとけよ」





 はあぁと何を思い出したのか、オリヴァーはため息交じりに話し始めた。

「本当に厄介だったのは、クラフトン公爵令嬢がレオパルド殿下からの贈り物を見せびらかして、反応するのがブルームだけじゃなかったことだ」


「どなたですか?」


「プリムローズ殿下だよ」




 王国第一王女プリムローズ殿下は王子殿下の2歳下の14歳。国王陛下にも王妃陛下にも兄王子にも愛され、蝶よ花よと育てられた。

 サラサラの長く美しい金髪とくっきりとした吸い込まれそうな綺麗な目で、14歳には思えない大人びた顔をした、まさに絵に描いたような王女だった。


 プリムローズ王女は10歳の時に4歳年上の公爵家嫡男オリヴァー・ラバンディンとの婚約が決まった。

 身分も相応しく、幼いながらも美男美女の二人の婚約に、当時国中が歓喜と感嘆にくれたと聞く。

 

 しかし今回帝国の圧力によって、プリムローズ王女とオリヴァーの婚約も白紙とされた。 

  


「王女殿下がおっしゃるには、俺は女性への気遣いが足りないんだと。

 レオパルド殿下がクラフトン公爵令嬢に選ばれる贈り物は、センスが良く、花束一つにしても季節、花言葉や装飾の包み紙まで考え抜かれたもので素晴らしいんだそうだ」


「レオパルド殿下の贈り物のレベルが高すぎますわね。誰もができることはありませんよ」

 拗ね気味のオリヴァーを励ますロメリアだった。



 「俺と王女殿下はそもそも合わなかったからな。

 例えばな、次に仕立てるドレスの色を聞かれて俺が意見を言うたびに不満そうにするんだ。で違う色を言えば、この色でしょ!って言われて・・・。

 答えが決まってるなら聞かなきゃいいのに。万事がそんな感じだ。

 王女は何も言わないが俺が贈った物を喜んでいたことはまずなかったな」

 いつもはどこか俯瞰的で淡々としているオリヴァーにしては珍しく興奮気味にまくしたてた。


「王女殿下はご自分を満足させる贈り物を察してほしかったのかもしれませんね。

 王女殿下は幼いころから、周りの方が全てを察し、先回りして整えてしまうような環境でお育ちですもの。お茶会で目線やしぐさ、声のトーンなどで出されたお茶が全て変わることもありましたから」

 ロメリアは草稿を書く手を止め、顔を窓に向ける。

 その目線の先には、ちょうど夕陽で色づいた王宮の高い塔が見えた。



「それでもきちんと贈り物もされて、お茶会などもお誘いしてたんですよね」


「それは政略だとしても婚約を結んだのだから当然だろう。きちんと婚約者としての義務は果たすべきだ」


「編集長は律儀な方ですもんね。でも、もしかしたらその義務感が強く出てしまって、王女殿下は不満だったのかもしれませんね。

 王女殿下はアゼレア様に憧れていたようですし、レオパルド皇子からの贈り物を度々見せられたら、婚約者への理想像が高まってしまった可能性もあります。学園にもまだ入学されてませんから、他の婚約者同志の事情も詳しくないでしょうし」

 


「でもまあ、新年度前に全て形がつきそうで良かったよ。心機一転、ラスト一年の学園生活を充実させられそうだ」


「あとひと月ほどで新年度ですね。そういえば生徒会会長になれらるんですよね。おめでとうございます」



「ああ。それもあって俺はスキップはせず、あと一年残るが、ロメリア嬢は俺が卒業後はどうするんだ?

 壁新聞部も続けるのか?部員一人になるだろうけど」


「はい。あと2年は学園に残るつもりですわ」


「そうか。スキップして卒業はしないのか」


「そうですね。卒業までは続けたいと思ってます。家族は了承してくれてますわ」




「ところで・・・今回改めて、王子殿下の婚約者の打診はなかったのか?」

 オリヴァーの問いに、ロメリアは、はっきりと動きを止めた。

 


 ロメリアは今回、婚約破棄も婚約白紙にもなっていない。

 彼女はすでに2年ほど前に婚約が白紙となっており、その後誰とも婚約を結んでなかった。

次回、ようやく主役の二人のお話です。

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