クエスト3
俺の質問に、男はさっきよりも怪訝そうな表情を取った。
「…それについても知らなかったのか?あー…このギルドの隣のギルドに入っていく人達の事だ。表情は変わらないし当たってもすり抜けるし、なんというか…不気味な奴らだけど」
(プレイヤーキャラって…この世界の人からすればそういう風に認識されてるのか)
「あ!俺がそんな事言ってたってのは誰にも言わないでくれよ!勇者ってのは神様からの使いって言われてるんだ。実際勇者が現れてモンスターを退治しまくってくれたから、俺達は多少外で活動出来るようになった訳だし…俺だって批判するつもりは全く無いんだ。ただ…特に教会の連中は勇者に関する事にはうるさいからな、あんたもうかつな事を口走らない方が身のためだぜ」
そう言って男は、人差し指を立てて「静かに」というジェスチャーと俺に向けた。俺がそれに小さく頷く事で応えると、男は安心したように息を吐く。
「ためになったよ、ありがとう。最後にだけど…採集の途中でモンスターに遭遇して、運良く倒せたとしたらクエストはどうなるんだ?」
男は若干呆れた顔を取った後、やれやれといった感じで口を開く。
「…クエストを見れば分かるけど、討伐クエスト達成にはそのモンスターが落とす素材が証明になる。正確には討伐じゃなくてモンスターの素材の採集クエストだと思っておけ、運良く素材が転がってたら臨時収入だ」
そこまで言うと男は踵を返し、そのまま手を振ってカウンターに歩いて行った。
「…名前聞いておけば良かったな」
俺の無謀さに最後は呆れていたけど、かなり有益な情報を教えてくれた良い奴だった。元プレイヤーキャラ…いや元勇者として首尾よく稼げるような事があれば、情報料としておすそ分けを渡してあげるのもいいかもしれない。
「…それじゃあ、いっちょやってみるか」
俺はクエストボードに残っている街の外のクエスト「薬草採集」を剥がしてカウンターに向かう。今の俺がモンスターと戦えるかはさておき、装備を整える為には報酬の良いクエストをこなすしか無いだろう。
「このクエストを受けます」
「はい…街の外での薬草の採集ですね。では…採ってきて頂きたい薬草はこちらになります」
そうして受付の人が見せてくれたのは数枚の薬草のスケッチだ。ゲームの中でも見た事があるもので、確か「薬草」「毒消し草」「麻痺草」という名前のアイテムだったハズだ。グラフィックなんて大して確認して無かったけど、現実になった今では分かりやすく拾える物じゃ無い。しっかり特徴を覚えておかないと。
「街の外での活動は初めてですよね?モンスターの危険性についてはご理解して頂いてますか?」
受付の人までこうやって確認してくるという事は、本当に危険な事なんだろう。序盤の街の周辺のモンスターでこれか…元プレイヤーキャラだからという驕りは持たない方が良いな。前にも考えたけど、もうリスポーンなんて望めないかもしれないのだ。
「はい。さっき良い先輩に忠告をして貰いました」
「タヂカラさんですね。ちょっとぶっきらぼうですけど、あの方はとてもギルドに貢献して頂いているベテランなんですよ。慣れていない人を見ると放って置けないみたいで、あの人のおかげで新人さんのトラブルがかなり抑えられているんです」
「はぁー…そうだったんですね」
どうやら、本当に凄い人に気を遣って貰っていたみたいだ。削除された事は不運だったかもしれないけど、こうして転生した上に良縁に恵まれた事を考えるとあながち不運とは言い切れないかも知れないな。