クエスト2
「なるほどね」
クエストボードを一通り眺め、普通のクエストというものがなんとなく分かってきた。
まず街の中のクエストはいわゆるアルバイト募集。飲食店での仕事もそうだったけど基本的には時給、もしくは日給になっている。内容も報酬も多岐に渡り、中には怪しい物からボランティアというくらい報酬が少ないのもあった。様々なクエストを見比べてみると、先の飲食店での仕事は中々良心的な方だというのも分かる。もしこっちを選択するならば基準と考えていいだろう。
次に冒険者らしいクエストの方、街の外で行うクエストだ。圧倒的に多いのは採集クエスト。街の外にしか無い素材を取ってきて欲しいというもので、報酬は出来高制。取ってくれば取って来るだけ儲ける事が出来る。しかし街の中でやるクエストに比べてレートが高い所から、それ相応の危険性があると考えた方が良いだろう。
(素材集めにしたって、モンスターに出会う確率がゼロじゃないしな)
とにかく逃げまくって目的の素材が集まれば良いのだから、わざわざモンスターを相手にする必要は無い。これはゲームでもあった事だけど、アイテムを持ってこいというクエストを露店で買ったアイテムで達成する事があった。あれは単に連続クエストを達成するのに面倒だったから金で解決したけど、金を稼ぎたい今となっては意味の無い方法だ。
そして数は少ないが討伐のクエスト。討伐の対象はゲームでも聞いたようなモンスターが相手なのだが、報酬がとんでもない事になっている。さらにそのモンスターから特定の素材を採る事が出来たら、高額の買い取りもやっているとのことだ。ゲーム最弱のスライムでもその値段は普通のクエストの数倍で、一匹狩るだけでしばらく生活には困らない程の報酬を得る事が出来る。
「なぁ、そこのあんた」
モンスターに対するゲームとの扱いのギャップに頭を悩ませていると、すぐ隣から声を掛けられた。そちらを見ると動きやすそうな格好に革の鎧、腰に剣を携えた若い男が心配そうな顔を俺に向けている。
「さっきからモンスター討伐のクエスト眺めているけど…まさかソロでやる気じゃないだろうな?」
「え?」
言っている事が一瞬分からず気の抜けたような返事をすると、男は怪訝そうな顔になって詰め寄ってきた。
「慣れてない雰囲気から新人だと思うけど、だからといって危機感が無さ過ぎる。今までどんなところで生きて来たのか分からないけど、モンスターを甘く見るな。『勇者』じゃない限り、あんなの相手にたった一人で勝てる訳が無い。どうしてもモンスター討伐でやっていくなら、せめて何人かの仲間を集めてないと命がいくつあっても足らないぞ」
「…わかった」
あまりの剣幕にとりあえずの返事しか返せなかった。どうやらゲームと違って、モンスター討伐はかなり危険な物と認識されているみたいだ。採集するだけのクエストでも報酬が高いのは、モンスターに遭遇する可能性があるからという訳なんだろう。
「実はこの前街に来たばっかりだし、冒険者になったのもその時なんだ。自分が色々知識が足りないのは良く分かってるから…その、忠告してくれてありがとう」
いきなりでビックリしたし一方的ではあったけど、俺の事を心配して言ってきてくれたのは伝わってきた。飲食店のクエストでもそうだったけど、こういった人達との生の交流はゲームでは無かった事で非常に得難い大事なものだと思う。ちょっと気恥ずかしいけど素直にお礼を言うのが筋というものだろう。
「分かってくれたらいいんだ。俺らみたいな冒険者は数が少ないからな、つまんない事で仲間を無くすとか嫌なんだよ。新人だったらなおさらだ…外のクエストに慣れるならまず採集から、そしてモンスターに出会っちまったらすぐ逃げる事を心掛けてくれ」
「わかった。あ、一つ聞きたいんだけど…勇者って誰の事なんだ?」
男の真剣な物言いに頷きながら、俺はさっき言われた忠告の中で気になる事を聞く事にした。ただ…男の語った「勇者」についてちょっと予想が出来ている。もしかしなくてもその「勇者」って…。