クエスト1
あれから数日、俺は飲食店でのバイトの最終日を迎えていた。
今回店側が依頼を出した理由は奥さんが動けなくなったという事なのだが、実は俺が働き始めて次の日には良くなっていたりする。しかし大事を取って欲しいという事と、普段頑張って働いている分休んでもらいたいという親父さんの希望でちょっと期間が延びたのだ。
「短い間でしたがありがとうございました。おかげでちょっとお金に余裕が出来ました」
朝日が照らす店先で、俺は親父さん達家族に深々と頭を下げる。
「こちらこそありがとうな。もし困った時にはまた来いよ、とりあえずメシくらいはサービスしてやるからよ」
「私からもありがとうございました。おかげでゆっくりとお休みを頂けたわ」
「また来てね、約束だよ」
思わずウルっとしそうな送迎を受け、俺は改めてお礼をして冒険者ギルドに歩き出した。とりあえず2~3日は宿に泊まれる程の報酬まで頂けたので、これを元手にさらに生活を安定させなければ。ちなみに親父さんの知っている宿で一泊5000G、食事が別なら親父さんの所で食事すればいいから500G前後を三食分。つまり生きて行くだけなら一日7000G稼げばいい計算だ。
(出来れば…冒険者として活動出来る装備も整えたいんだけどなぁ)
冒険者ギルドの前まで来たところで、ちょっとプレイヤー用のギルドの方を確認してみる事にした。相変わらずワープ中に入っていくプレイヤーキャラを尻目に扉を開けると、中の様子はこの前よりは幾分マシなものだった。
そもそも早朝だから人が少ないという事もあるのだろうけど、銀行に比べればそんなに人は入っていない。そういえば銀行はどんだけ強くなっても必要だけど、冒険者ギルドのクエストは強くなるとあんまり来なかったような気がする。お使いクエストは報酬の割には面倒なだけだし、討伐クエストは街周辺のモンスターが対象なので大して素材も旨くない。結局ダンジョンに行った方が効率が良かったからだ。
(けど、今の俺に必要なのはそういう安全かつ安定して稼げるクエストなんだよなぁ)
結局今の俺ではこのギルドが使えないという事を再確認して、俺は改めて通常窓口の冒険者ギルドにむかった。とりあえず中には入れたのだけれど、どうやらまだ営業時間では無かったようだ。カウンターの向こうで準備をしている職員さん達を眺めつつ、俺は設置されている待ち合い用の椅子に腰を掛ける。
「お待たせしましたー」
しばらく待っていると、準備が終わったのか受付から声が上がった。俺は報告用の窓口に向かうと、自分のギルドカードを提出する。
「ちょっと前に受けたクエストなんですけど、依頼人の厚意で延長して受け続けていました」
「わかりました。チェックしますので少々お待ちください」
受付の人が謎の機械のようなものにカードをセットすると、半透明なモニターのようなものがカウンターに現れる。受付さんはそこに書かれている事を確認して、それが終わるとカードを外してモニターを閉じた。
「ありがとうございました。報酬の確認をお願いします」
手元に戻ってきたカードを確認すると、お金の欄にしっかり親父さんが提示した分の数字が記入されている。
「大丈夫です」
「クエストお疲れ様でした。続けてクエストを受ける場合はボードから選んで向こうの窓口で宜しくお願いします」
「はい」
テンプレのセリフに見送られて、俺はクエストボードの前までやってきた。この前はまかないの文字しか目に入らなかったけど、今度こそしっかりクエストを見比べなくては。