転生4
「「いらっしゃいませー!」」
「いらっしゃいませー」
店主さんとその息子の息の合った声に遅れ、申し訳程度に声を出す。
「ごちそうさまー」
「「ありがとうございましたー!」」
「ありがとうございましたー」
という訳で、俺は今冒険者ギルドのクエスト「飲食店の手伝い」をやっている。ゲームの中では街の中で出来るクエストと言えばNPC間での荷物運びが主だったのだが、こっちのクエストでは割とガチで仕事の手伝いをする仕事が大半だった。モンスター退治に不安がある現在、そんな仕事の中から目についたのがこの仕事だ。決して、まかない付きの言葉に釣られた訳では無い。
「ナギさん、お皿お願いします」
「わかった」
小さいのに頑張り者の息子から汚れた皿を受け取って、俺は洗い場でそれらを綺麗にする。本来この飲食店は店主で料理人の親父さん、給仕の奥さん、雑用の息子で成り立っていたのだが、どうやら奥さんが風邪かなんかで休む事になったのがクエストを出した理由なんだとか。
「上がりました!」
「おう…よし!」
店主さんにOKを貰ってすぐに自分の持ち場に戻る。皿洗いのアルバイトも、やってみると意外と楽しいものだ。しっかりと仕事をしてそれを認められるのは、今までの適当に荷物持ちを任されていた俺には無かったものだ。初対面の時に盛大に腹を鳴らし、まずまかないから頂いてしまった恩に報いる為、俺は皿を洗い続ける。
「おつかれさん」
「おつかれさまでした」
「…おつかれさまでした」
長いようで本当に長かった仕事が終わり、ようやく一息つく事が出来た。味が良いのはまかないを貰った時点で分かっていたけど、家族経営でここまで繁盛するのは中々のものじゃないだろうか。
「いやあ、本当に助かったよ。ここまで丁寧に仕事をしてくれるなんてな」
「ありがとうナギさん。お皿、凄く綺麗にしてくれてた」
「いえいえ、仕事なんだから当然ですよ」
(自分の仕事を褒められるって…気持ちいいものなんだなぁ)
貢献しているといえばそうなんだけど、ただの倉庫役とかブラックもいいとこだ。ステのせいである程度強いモンスターだと当たらない、避けれない、耐えられないで倒せないだからしょうがないけど…それじゃあ俺じゃなくても良いって話だし。こうして自分自身が頑張った事を褒められる事なんていつの事だっただろうか。
「それじゃあカードを出してもらっていいかい?ギルドに報告出来るようにするから」
店主さんにカードを渡すと、店主さんもカードを取り出して俺のカードと重ね合わせた。なるほど、これで俺のカードに依頼達成の情報が書き込まれたって事になるのかな。
「はいよ、これで大丈夫だ」
「ありがとうございます。…あ、ちょっと聞きたいんですけど。今日の稼ぎで泊まれるような宿って知ってますか?」
折角なので今日泊まる宿の情報を聞いてみる。ギルドで聞いても良いけれど、こういう情報はギルドよりも街の人に聞いた方がお得な情報が聞けるような気がする。店主さんは仕事中もお客さんと軽い雑談もしていたし、お店同士の繋がりもあって良い所を紹介してくれるかもしれない。
(大体が奥さんを心配する声だったし、慕われているんだろうなぁ)
「なんだい?決まって無かったのか?」
「実は今日この街に来たばっかりで…。おまけにまったくお金の持ち合わせが無かったんですよ」
「だからお腹が減ってたんだね」
一応元プレイヤーキャラとか転生したとかいう事は伏せておこう。上手く聞けるならその辺の事も確認しておきたい所ではあるが…。
「んー、今回の内の給金だけじゃ難しいな。この辺の一泊の相場は安くても5000Gだ。今回の給金は一時間あたり1000Gで4000Gになる」
「あー…」
まかないで食費はなんとかなったけど足りなかったのか、もう外は暗いし…ギルドで事情を話して椅子でも貸して貰うしかないか。明日からは最低5000Gと食費を稼げる仕事を選ぶとしよう。
「なぁ、良かったらうちのが完全に良くなるまで仕事を続けないか?」
「え?」
「すぐ良くなるか分からないし、もともと明日も募集を出すつもりだったんだ。お前さんの仕事ぶりは分かっているし、続けてくれるなら手数料がちょっと省けるんだ。もし受けてくれるなら、宿代わりにといっちゃなんだが家の空いてるスペースで寝泊りしてくれていいぞ」
なんという人情。こんな申し出、ありがたすぎて申し訳ないくらいだ。
「あとはそうだな、当然まかない付きだ」
「よろしくお願いします!」
「わーい。ナギさん宜しくね」
力強く頷いて店主さんと握手する。なんでか息子さんのほうも喜んでくれているし、このクエストを受けて本当に良かった。そう言えばと返してもらったカードを見てみると、俺のどうしようもないステータスには運がそれなりに振られていた。
(ゲームの時はあんまり効果の無いステータスだったけど、転生した後はそういう運の良さが上がってたりしてな)