GM10
軽い思い付きと勢いで始まった休日の暇つぶしは、まさかの形で世界の謎を知るきっかけになった。神様が居るとすれば聞きたかった事や知りたかった事はあらかた聞く事が出来たし、そういう意味では今日の探索は大成功と言えるだろう。
ただ…世界の謎を知ったからこそ、確認してみたくなった事が出来た。それは俺がゲームの時からずっと思っていた事で、正直なところ確認するのをためらってしまうような…俺のアイデンティティーに関する事だ。
「神様、ちょっと聞きたい事があるんだ」
『なにかな?』
俺からの呼びかけに、神様はどことなく嬉しそうな感じだ。この神様、もしかしなくても話好きなんじゃないだろうか?
「さっきゲームから溢れたモンスターを、人間になった元プレイヤーキャラが狩る事はありがたいって言ってたよな?でも俺は…中途半端な強さしか無いからまともに倒せるのはこの街の周辺の雑魚モンスターぐらいだ。やれる事といえば普通の人でも出来るような簡単なクエストを安全に行えるくらいだし、そっちが意図したような部分で役に立っているとは思えない。神様は…なんで俺みたいなのを人間にしてくれたんだ?」
「…ナギ」
神様に投げかけた俺の質問を聞いて、隣のアテナが心配そうな声を上げた。さらに手を握ってくれたりと気を遣わせてしまったが、どうしても聞いておきたい事なんだ。
ステ振りに失敗した俺は、ずっと倉庫キャラなんて事をしていた。そして転生した後も、倉庫キャラと同じように誰でも出来るような仕事しか出来ていない。この世界の人よりも強い元ゲームキャラであるにも関わらずだ。だからどうしても考えてしまう、「別に俺じゃなくてもいいんじゃないか」と。
『一つ勘違いをしているな。人間になった君達のようなアバターにモンスターを倒して貰うというのはあくまで副産物のようなものだ。ワタシが君達意思を持ったアバターを救いたかったのは、経緯は違えどこの世界で生まれたワタシの子のようなものだからだ。ワタシは基本的にワタシの作ったこの世界の全てを肯定する、放って置けば負しかまき散らさない、モンスターのような存在はまた別だがな…』
神様は、今まで動かなかったのにゆっくりと俺に向って歩いてきた。
『君は自身の力不足を嘆いているようだが、そんな事は無い。君はこうしてこの世界の一部として生き続ける事で、十分すぎる程の役目を果たしている。そしてそれは、生まれてから今まで君が培ってきた全てでもって成した事なのだ』
俺の目の前まで来た神様と、俺は真正面から対峙する。
「じゃあ…俺がステ振り失敗で倉庫キャラになっていた事も、新キャラに立場を追われて削除された事も、転生しても大した仕事が出来ない事も…」
『君の生きて来た道に無駄な事など一つも無い。今君が手に入れたと思っているものは、全て君だからこそ手に入れる事が出来たものなのだ。ワタシから君に言える事があるとしたら、この言葉だけだろう』
神様は手を伸ばし、俺の頭に手を置いた。
『ワタシの世界で、生きてくれてありがとう』
「…っ!?」
全てを肯定すると言った通り。その言葉を聞いて、俺のわだかまっていた気持ちが一瞬で霧散するように感じた。そうだ…散々不遇だと思っていた今までだったけど、今の俺はそれでも幸せってものを感じている。
例え大した強さを持ってなくても、隣にはアテナが居るし素晴らしいと自慢できる知り合いも沢山出来た。俺のやってきた事は…神様からも太鼓判の誇らしいものだったんだ。
「いっ!?」
手の甲が引っ張られたような痛みにアテナの方を見ると、アテナは不機嫌そうな顔をして俺を睨みつけている。
「…バカヤロ」
「…ごめん」
さっきまでの俺の中には「ステ振りを失敗した中途半端なキャラ」という無視できないトラウマめいたものが残っていた。そこを神様の話で刺激されて、ちょっとネガティブになりすぎてしまっていたのだろう。俺には神様以外に全てを肯定してくれてる、アテナという最高の嫁が居たはずなのにな。
『ふむ…しかしそこまで思いつめて居たのであれば、良ければワタシの力でステータスの振り直しをしてやろうか?こちらで人間になって貰えるアバターを増やす為と、その人物からはゲームに追加しないと言われていた力なのだが…折角こうして出会えたんだ、君一人ならば大丈夫だろう』
「えっ!?」
まさかの提案に、心臓が跳ね上がるように鼓動するのが分かった。ずっと…ずっと切望していたステリセットを、受ける事が出来るのか?
『どうする?』
恐らくこの世界を舞台としたゲームのプレイヤー全てが望むであろうそのシステム、それを今…俺だけが。
「…俺は」