GM9
『ワタシも神だ、全てを救うという事の不可能さは言われなくても十分に理解している。…しかし、それでもワタシが成した事で生まれた命を、無慈悲に切り捨てる事をすぐに良しとは出来なかった』
「………」
「………」
神様なんだから自然界の弱肉強食なんて腐る程見てきているだろう。ただ…そこで簡単に見捨てる事を選択できるなら、そもそもモンスターをどうにかするために異世界まで助けを求めようとは思わないハズだ。この神様は、人間臭いだけでなくとても優しい神様のようだ。
『その人物には少々苦労を掛けてしまったが、ワタシの意を汲んで良い折衷案を提示してくれた。それは予め決めた条件を満たす人格と力量を持つアバターならば、この世界に人間として転生させても良いという事だ』
「…条件?」
ダイレクトに俺達に関係する事だったので思わず聞き返してしまった。つまり俺達は、その条件とやらを満たせたから転生をする事が出来たという事になる。
『まず十分な人格が形成されている事。無法を行うような人格では無い事。ある程度のモンスターと戦える力量を持っている事だ。まず人格の形成についてはワタシとその人物によってある程度の検証が行われ、どのようにして発生しているのかを把握する事が出来た。あちらの人達がこちらで動かすアバター達は、操作する人の言動や行動を参照して人格を得ていたのだ。そしてそれは参照する長さと、ゲーム内での言動が多さに大きく影響するものだった』
「長さと…」
「言動…」
俺とアテナは互いに確認するように隣を見た。アテナの男のような口調はプレイヤーが男だったからだというのは当たっていた。確かにアテナのプレイヤーはネカマなんてする事無く、そのまんまの口調で遊んでいたからだ。
なら例えば…男のプレイヤーでも女キャラとして振舞っていれば女の人格になるという事なのか?でもその場合キャラの性別はどうなるんだ?アテナと逆のパターンなんて言うのも…ありえるのか?アテナを見る限り性別としてはキャラに引っ張られるようなので、恐らくオネエみたくなるのだろう。…それもまた個性になるんだろうな。
『そして無法を行わない人格というのは、簡単に言うと危険な思想をしていないかどうかだ。アバター達はこの世界の人よりも例外なく強い力を有している。そんな力を持った者が、ゲームの枷を外され暴れまわられたら本末転倒だろう。この事は…その人物が一番注意を払っていた事だ』
そりゃそうだ。モンスターを倒す為の勇者が、モンスターより脅威になってどうするんだって事だろう。多分この条件はかなり厳しく査定されてると思う。その辺の判断基準はどうやってるんだ?
『人格の判断についてはその人物が「ログ」というものを参考にしてくれた。人格が十分に形成されているかは、そのキャラでどれくらいの間ログインして発言をしたか。そしてNPCを相手にした質問にどう答えたかだ。どうやら会話としての性格が多少乱暴なものであっても、NPCへの対応が良いものならば善悪はそちらによるらしい』
確かに口が悪かったりぶっきらぼうな感じでも優しい人は沢山居る。人の性格を完全に把握する事は出来ないだろうけど、そういった基準があるならば最悪の事態は防げるだろう。
そして人格の形成が十分でないというのは、多分だけど無言プレイをしてる人なんじゃないだろうか?最近のゲームじゃ無言OKみたいな風潮でぼっちでも大丈夫感を出しているゲームが多いけれど、それだとMMORPGみたいな人と交流できるゲームしてる意味がかなり薄いんじゃないか?まぁ…基本フレンドとだべってただけの俺のプレイヤーみたいなもの多いんだろうけど。
『最後にモンスターと戦えるだけの力量だが、これはそのままの意味だ。君達も知っているだろうが、この世界にもモンスターは現れ続けている。それはゲームでも処理仕切れなかったものが溢れ出てきたもので、この世界の人では中々相手が出来ないものでもある。しかしそれらの素材はこちらの世界では有用なものでもあるので、それらを狩る事が出来る人が居るのは非常にありがたい事だ』
スライムが落とす魔石なんてまさにそれだろう。けど…そうだとしたら俺がスライムを倒しまくってるのに一向にドロップしないのはなんでなんだろう?単に運が悪いだけなんだろうか?
『ただ、この世界の人でもなんとか出来そうなモンスターについては、アバターだった人が倒しても素材は落とさないようにしてある。それを許可してしまうと、それを生業としている人達の生活と市場に影響が出てしまうからな。もとより、そのように利益を優先しすぎる人物は性格に難があると弾かれてしまうだろう』
(…もしかして俺、ギリギリだった?)
初日でタヂカラさんやサルタさんに出会っていて本当に良かった。選定の時点でギリギリだったとしたら、転生後の素行によってはなんかしらのペナルティーがあったとしてもおかしくない。神様はともかく…その人物さんは容赦をしてくれなさそうである。