GM7
「………」
「………」
『どうした?』
とんでもない事実と、それが嘘ではないという事を無条件に思い知らされて、俺達二人は何も言えずに固まるしか無かった。一方ゲームマスターと名乗った目の前の人物は、聞かれたから答えたのにといった様子でそんな俺達を見つめている。
『とりあえず中へ、何も無いが外よりは良いだろう』
そう言って小屋の中に消えたそいつを追って、俺達は小屋の中に誘われるように足を進める。こんな明らかに怪しい人物に付いて家の中に入るなんて、普通じゃ絶対にやらない事だ。どう考えても、回れ右して逃げるのが普通だろう。
「…なぁ」
「分かってる、いざとなったら速攻で逃げるぞ」
その違和感をアテナも感じ取っているようで、小屋に入る直前に耳打ちをしてきた。あいつが嘘を言っている様には思えないが、俺達の素性を知っている上に神だとかゲームマスターだとか名乗っているヤバイ奴には違いない。もしもの時は逃走一択だ。
(万が一の場合は、アテナだけでも…)
そうして入った小屋の中はあいつが言った通り本当に何も無かった。家具も何もない素のままで、およそ人が住んでいるとは思えない。あいつは小屋の真ん中まで移動すると、くるりと回って俺達に向き直る。俺達は逃げる時に備えて、ドアを開けっぱなしにして入り口の近く陣取って置く。
『さて、何から話そうか?』
何を企んでいるのか企んでいないのか、どうやらあっちは話の主導権を握ろうという気は無いみたいだ。なら、こっちとしては聞きたい事をとりあえず聞きまくるのが正解だろう。返答のいかんによって、あいつが本当に神やゲームマスターなのかが判断出来るかもしれない。
「じゃあ…聞きたいんだが、あんたは本当にゲームマスターなのか?それと神様とは違うものなのか?」
大前提として、こんな世迷い言を本気で言っているのかを確かめたい。果たして、俺達を納得させる事が出来る説明を言う事が出来るのだろうか。
『ふむ、そのどちらでもあると言って良い。ワタシは元々この世界を創造した神だったのだが、今はゲームマスターも兼任しているといった所だ。もはや神として出来る事は限りなく少なくてな、実質はゲームマスターと言って良いかもしれない』
表情は変わってないように見える…というか見た目がそもそもあやふやなのだが、やや残念そうな感じなのは不思議と伝わって来た。浮世離れした雰囲気は確かに神っぽいのだけど、どことなく人間臭く感じるのは気のせいでは無いと思う。
「なぁ。アンタが元は神様だってんなら、なんで今はゲームマスターなんかやってるんだ?」
多少緊張が解けたのか、アテナがいつもの調子で次の質問を投げかける。ちなみに誰かに見られていると恥ずかしいのか、いつの間にか俺の腕からは離れていた。少々残念だが、もし逃げる時の事を考えれば動きやすくしておいた方がいいだろう。
『目的と言うならば、増えすぎたモンスターを減らす為になる。そうだな…事の始まりから話すとしよう。まずワタシはこの世界を作り、動植物へ小さなキッカケを与え、その発展する様子を眺めていた。いつ頃からか「人」という文化を持つ種族が現れ、「人」は素晴らしい文化を発展させていった。だが世界の発展は良い事ばかりではなく、モンスターという形で悪い部分も現れはじめたのだ』
まさか神様自身から世界創造の話を聞かされるとは思わなかった。荒唐無稽な話なのに妙な説得力を感じるのは、本当に神様だからなんだろう。
『モンスターはこの世界の負の部分だ、発生する事自体は避けられない。ただ、その頃にはもうワタシが世界に出来る事はほとんど無くなってしまっていた。神とは見守るもので、世界を好き勝手に出来るものではない。「人」が出来る事が増えるにつれ、ワタシが出来る事は無くなっていくものなのだ』
目の前の神様からは、残念そうな雰囲気と同じくらい誇らしげな感じも伝わって来た。どうやら神様にとって、人間の成長は嬉しいものだったのかもしれない。例えそのせいで、自分の力が失われていくものだとしても。
『増えるモンスターに困り果て、「人」は教会という場所でワタシに助けを求めた。ワタシはそれに応えたくても応えられない事を嘆き、何か方法は無いのかとひたすらに考え続けた。すると…ある時ここではないどこかの人物とコンタクトを取る事が出来たのだ』
話の流れから察するに…その人物とコンタクトを取った事で、ゲームを通じてモンスターを減らす事が出来たという事になる。神ですら解決出来なかった問題を解決したその人物は…一体何者なんだろうか?




