GM5
道すがらプレイヤー用のギルドの構造もチェックして、次にやって来たのはアルハの街の北にある砦だ。アルハの街の北は序盤の街とは思えないほどの強いモンスターが出現する危険地帯になっていて、ゲームではある程度のLvまで達していないと入れないという場所だった。そこで関所のような役割をしていたのがこの砦で、条件を満たして砦の中に居るNPCに話すと通行する事が出来るのだ。
一方現実の世界で見てみると、北のモンスターから街を守っているのは勿論だが、なんとアルハの街の領主が常駐している砦になっていた。ゲームの時は気にして無かったけど、こんくらいの規模の街なんだから統治する人が居るのは当然だ。そんな訳でゲームの時はフリーパスで入れていた砦の前には、当たり前のように警備の人が立っていた。
「まぁ、そうなるな」
「えー…砦の中は色々入れる場所あったから楽しみだったのになー」
残念そうなアテナだがこればっかりはしょうがない。さっきから数人のプレイヤーキャラが警備を素通りして砦の中にワープしていってるけど、もし俺達が近寄ったら容赦なくしょっぴかれるだろう。ここはプレイヤーキャラが多少入り込んでも問題無く、逆に一般の人が入ってはいけない場所という訳になる。
「ゲームだったからこそ行ける場所か」
「システムの壁はあってもしがらみは無かったからなぁ。他の街では城の中にも入れなかったっけ?作り込みすげーって観光してたけど…よく考えたら見えなかっただけで人は居たんだよな?城の人達迷惑に思わないのかね?」
「あー…SS撮るのに並んだりしたな。流石にどっちからも見えなくなるとか対策してるんじゃないか?」
じゃないと重要な会議とかの時にプレイヤーキャラが乱入してくる事になる。真面目な人達が話し合う中、空気を読まない奴がウロウロ動き回るのか…。
「ぶふぅ」
「おう!?どうした?」
「わ、悪い…ちょっと想像したらツボった」
なんかのバラエティー番組であったなそんな企画。笑っちゃいけない状況ほど笑いを堪えるのが難しい的な。
「はぁ、とりあえず前科はつきたくないから次行こう」
「了解。…ところで何想像してツボってたんだ?折角だから教えてくれ」
「えーとだな、例えば…」
想像してた事に加えてちょっとアレンジしたネタを追加して教えてやると、アテナには俺以上にツボに入ってしまった。笑い過ぎで先導できそうにないので場所を聞き出し、俺が引っ張って行く事にする。
「ついたぞー」
「お、おう…」
ようやく収まりかけてきたってところか。場所が場所だけに笑いながらっていうのは不謹慎だし、もうちょっと落ち着いたら…。
「領主。衛兵。アウトー」
「あはははは!ナギっ!?お前…!」
我慢できなかった…収まりかけの時って防御弱くなるよな。アテナは腹を抑えながら俺の体をポコポコと可愛らしく叩いてくる。どうやら笑い過ぎて力も入らないらしい。
「おぼえ…てろよ」
そんな恨み言を聞きながら、ひとしきりアテナが笑い終わるのを待った。流石に天丼するのはやめておいて、今度こそ目的の場所への侵入を試みる事にする。
「墓地か…」
「ここは正真正銘ゲームの時に入れなかった所だな。そんでさっきまでの場所みたく、一般人が入れないって場所じゃない」
墓地といえば、普通のRPGなら定番のオブジェクトだ。街の外観作りにとりあえず配置される事も多く、イベントが仕込んであったりもする。そんな色々と扱いやすい場所であるにも関わらず、このゲームにおいては一切立ち入る事が出来なかった。
「………」
そんなゲームでは入る事が出来なかった墓地に、とりあえず一歩足を踏み入れてみる。するとゲームの時のように見えない壁に阻まれる事無く、俺の足はしっかりと墓地の中に足を踏み入れる事が出来た。
「ちゃんと入れるな。ここはどういう理由で入れなくしていたんだろう?」
「ん-…そりゃあまぁ、墓地だから?家の中と同じだろ。いくら勇者でも墓地で走り回られるのは良い気がしないに決まってるし、家族とかが埋まってるならなおさらだ」
「確かに…一応、手を合わせとくか?」
俺の提案にアテナは頷いて同意した。二人で一緒に目をつむって手を合わせる。こっちの世界で仏教が通じるか分からないけど、死者への敬意は多分異世界でも共通だろう。少々騒がせてしまうかもしれませんとお祈りして、俺達はゆっくりと墓地の中へ進んでいった。