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GM4

「名犬アテナ。まずはどこに行くつもりなんだ?」

「任せてくれてまえワトソン君」

「…なんで知ってんだそんなの?」

「プレイヤーに聞けよ、てかお前も知ってんじゃん」


 軽口を交えながらアテナの先導に付いて行くと、そこはプレイヤーキャラが出入りしている銀行だった。俺が転生した時初めて降り立った場所であり、プレイヤーキャラの異常さをすぐさま理解した所でもある。プレイヤーキャラにトラウマが植え付けられた今では、絶対に立ち入りたくない場所だ。


「うわっ…」

「大分参ってんな。そんなにあの中ヤバイの?」

「当時は気持ち悪ぃってぐらいで済んだけど…今見たら多分吐くかも」


 所狭しとあさっての方向を向きながら棒立ちするしたり、NPCの前で重なりまくっているプレイヤーキャラの群れ。それらをすり抜けて出入りするプレイヤーキャラ、そしてそんな室内でにこやかな顔をしているNPC。ゲームの異常さを詰め込んだような光景を思い出し、本当に気持ちが悪くなってきた。


「…うっ」

「んー、まず気になったのは銀行のカウンターの裏なんだけどなぁ。あそこポータルが無い真っ暗な感じになってたろ?あの奥ってどんなってんのかなーって」


 俺の背中をさすりながらアテナはここに来た目的を語る。確かに銀行のポーズとしてはあの奥に様々な物を預かっているという事なんだろうけど、実際に置いてある訳では無いのだろう。ゲームのプレイ人口を考えれば、こんな小さな店構えで全部を預かれるハズが無いのだから。


「…お前はまだ中入った事無かったよな?とりあえず覗いてみろ、銀行の奥うんぬんじゃなくて…絶対にあの建物の中に入る気が失せるから」

「…分かった。とりあえず覗いてみよう」


 銀行の入り口近くまで移動して、俺とアテナはとりあえず並んで壁に寄りかかった。一応ここはプレイヤーキャラ…勇者だけが使う施設なので、一般人が寄り付くと結構目立つのだ。なのであくまでちょっと休憩してる風を装って、ささっとアテナに確認して貰う事にした。


「じゃあ行ってきます」


 サー、といった感じで敬礼をするアテナ。


「見てこいカルロ」


 俺は若干投げやりに返事をして。この後のアテナのリアクションを予想した。まぁ…まず間違いなく。


「っ!?」


 入り口の扉を少しだけ開いて中を覗いたアテナは、一瞬で体をビクつかせて俺の隣に戻って来た。


「…こぉわぁ~」

「ヤベぇだろ?」

「…ヤベぇわ」


 無事?銀行の異常性を確認したところで、アテナは俺を引っ張ってそそくさと銀行を後にした。俺の手を握る強さが強くなっていた事から、大分堪えたというのが良く分かる。


「リアルで見るとああなってんのか…何度も思ってきた事だけど、今回のはぶっちぎりだったぞ。ギルドの奥も気になってたけどスルーだスルー」

「分かってくれたようで何より。ギルドは銀行よりはマシだけど…見ないに越した事は無いな」


 というわけで、初っ端から企画倒れな感じがしてきた侵入不可能地域探索ツアーだが。アテナがギルドの事を口にした事でちょっと気になる事が出来た。折角だから銀行もチェックしておきたい所だ。


「なぁ、ちょっと銀行まで戻って良いか?外観を確認したい」

「え?なんかあんの?」


 今度は俺がアテナの手を引いて銀行の近くまで戻って来る。そして近くまで来た所で、近くの路地に入って裏側に回り込んだ。


「やっぱりな」

「なんか分かったのか?」

「ああ、この建物さ…中と比べると奥行が無いんだよ」


 そう、例えば普通の店なら店舗スペースの奥に作業スペースがあるのが普通だ。しかしこの銀行の建物はそれが無い。銀行の中のカウンターはスペースのかなり奥に配置されていて、外観から判断すると奥の壁がそのまんま外壁になっているぐらいだ。


「ってことは…この外壁の向こうが例の黒い所な訳か?」

「だろうな。お前がギルドの話したから一般用の冒険者ギルドの内装を思い出してみたんだよ。そしたら普通ならあるべきスペースが無いんじゃないかって気が付いた。ゲームの画面って見下ろし型だから見やすさ重視だったんだろうけど、建物の構造を考えると作った奴って結構ザルなんだな」

「ふーん…」


 アテナは確かめるように銀行の壁をコンコンと叩いている。出来れば反対側から確かめたい所ではあるが、あんなとこに無理して飛び込む事も無い。ある程度納得してくれればそれでいいだろう。


「結局見た目だけって事か。確かにどうやって保管してんだって話だし、それ言ったらプレイヤーのインベントリもそうだよな」

「確かこの前呼び出した時はインベントリ開けなかったんだよな?あくまでゲーム部分の機能って事なんだろ」

「ここはゲームだからで結構誤魔化してるんだな。確かに結構ザルな仕事に思えてきた」


 けどこうして興味を持たないと気が付かない事でもある。プレイヤーからすればゲームだからで済んで、こっちからすれば勇者だからで済むようなラインなのかもしれない。例えばさっき考えた民家の中とかは、勇者だからで誤魔化しきれない場所なんだろう。

 となると…こっちの事情が関係無くてゲームでは侵入できない場所は、ゲームだからで誤魔化しきれない場所って事か。興味深さと共に、やはり若干の怖さというのが湧いてくる。アテナは次に、どこにいくつもりなんだろうか?

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