GM3
流石にこれ以上連続で食べれなくなったのか、俺とアテナは仲良く手を繋いで、腹ごなしにブラブラと街を歩く事にした。隣を歩くアテナは時折興味を持ったものを指差しながら俺に話を振ったりしてきて、その楽しそうな笑顔を見てるだけでこっちまで楽しくなってくる。
「おっと」
「わっ!?」
そうして前方不注意になっていたアテナを引っ張り、前から来ていた人とぶつからないようにする。前を向いてなかったアテナも悪いけど、あっちはちゃんと前を…って、あれ?
「悪い、当たりそうになってたな」
「ああ…けど、今のはプレイヤーキャラだったっぽいな」
プレイヤーキャラはこの世界では勇者なんて言われている連中で、この世界の人からは触れる事は出来ない。普通の人からすればそういう特性や浮世離れした表情とかがらしく見えるんだろうけど、ゲームのキャラがどういうものか知ってる身からすれば素直に許容出来るものじゃない。俺もアテナも、元がああだという事に割と嫌悪感を抱いている。
「そっか…でもまぁ、さんきゅ。いくら当たらないにしても当たらないに越した事は無いからな」
「まったくだ。俺は二度とあいつらと重なりたくない」
この前タイミングが悪かった上に唐突に見せられたアレは、俺の中では結構なトラウマになってしまっている。おかげで街中での人の動きに、必要以上の警戒をするようになっちまった。
「しっかし…今午前の10時だぜ?ニートかね今の奴は?」
「…言ってやるな。今の俺達には関係無いけど、MMORPGなんてやってる時点で俺らのプレイヤーも同じ穴のムジナだぞ」
「それお前のほうがディスってね?社会人プレイヤーさんのおかげで、オレらのプレイヤーは無課金で遊べてたんだぞー」
俺達が元プレイヤーキャラとして冒険していたMMORPGは、基本プレイ無料でアイテム課金というよくあるものだった。ただ昨今問題視されるようなガチャ要素は無く、あくまでプレイ時間を埋める成長促進を重視していたような気がする。俺達のプレイヤーは学生らしく遊べる金が少なかったようで、そういった課金要素には手を出さないで遊んでいるライトユーザーと呼ばれる層だった。
「んー…けどさ、今思えば微妙な課金要素じゃなかったか?」
「ふむ…」
プレイヤーが無課金勢だったせいでおぼろげな記憶を二人揃って振り返る。さっと思い出せた成長促進系はさておき、他の課金要素はというと…。
「微妙だったな。そういやセルランはめちゃくちゃ下位だった」
「だよな。アイテムも役立つっていえば役立つものだったけど…それより追加する要素あっただろって」
例えばスキリセとかキャラスロ増加とか…まぁ、あったところで俺は消されてた運命だっただろうし、こうして転生した今ではそれで良かったけど。運営も稼ごうとすれば稼げる余地はまだあったと思うんだけどなぁ。
「グラフィックのリアルさとか操作性の良さで人気だったけどさ、あの課金内容で黒字出してるとは思えなくなって来たな。基本無料系ってもっとがめつく稼げないとすぐサービス止まる気がするんだけど」
「…案外、そんなに金掛かって無かったりするんじゃないのか?」
アテナはやや神妙な顔つきで気になる事を言いだした。
「とりあえずグラフィックのリアルさって…この世界が元からあるなら作る必要無いだろ?元からあったもの利用するだけなら、初期費用を相当抑えられる。操作性もシンプルって事は、面倒なプログラム組んで無いんだろ?今じゃ割と標準機能のオートも無かったし」
「…なるほど。つまり俺達はゲームを通じてプレイヤーキャラっていうアバターを操作して、ゲームの中じゃなくて異世界を冒険していたって事か?」
「そういう事。なんか…陰謀論めいてきたけど、ちょっとわくわくして来ないか?」
ちょっと楽しそうになっているアテナには悪いけど、俺は逆に怖くなってきた。これって…俺達が考え付いて良いものだったのだろうか?分不相応に考えを巡らせて、気付いちゃいけない事に気付いてたりしないよな?
「なぁなぁ!ちょっと面白い事思いついた!」
尻尾があったら振り回しているような勢いで、アテナは目を輝かせながら俺を見上げてくる。思わず言う事を聞いてしまいそうな可愛さだが…この場合は俺の方がストッパーにならなくてはいけないだろう。
「嫌な予感がするけど…言ってみ」
「ゲームの時に行けなかった場所…行ってみないか?」
「は?」
アテナからの提案は、予想の斜め上を行くような事だった。
「ほら、ゲームの時って入れない所って結構あったろ?行先指定しても途中で止まったりする所。ゲームの補正無くなった今なら、もしかしたら入れたりするんじゃないか?オレ前からずっと気になってたんだよそういう所」
「あぁー…あったな、そんなとこ」
「デバッグまがいの事してるプレイヤーがいくらやっても入れなかったって聞いた事あるし、よっぽど見られちゃいけないものがあったりするんじゃないか?」
(確かに面白い試みだけど…大丈夫か?うっかり足を踏み入れて罠があったりしない…よな?)
一応、ゲームの時に入れなかった場所としては大抵の建物がある。最初は単に容量削減とか考えてたけど、この世界が元々あったと考えれば理由はそんな事じゃ無い。例えばプレイヤーキャラが民家の中に入れたとしたら…いくら勇者といえども気分は良くないだろう。特に風呂やらトイレにでも侵入されたら発狂ものだ。
つまりこの世界を舞台にMMORPGを組み込んだ「誰か」は、無秩序にルールを決めた訳じゃ無い。少なくともこの世界で生活している人達に、プレイヤーキャラが迷惑掛けるような事を望んではいないだろう。そんな「誰か」がゲームの時に入れなくした場所なんて…俺達が入ってしまって良い所なんだろうか?
「もし危なそうだったらすぐやめるからさ、こういうの…なんかモヤモヤしっぱなしじゃ気持ち悪いんだよ。なっ、なっ」
どうやら、アテナとしてはどうしても確かめてみたい事のようだ。一応引き際は考えているみたいだし、今断っても後日勝手に調べに行ってしまいそうだ。それなら一緒に行って監督する方が遥かにマシだろう。
「分かった。少しでも変な事になりそうだったらすぐ帰るからな」
「おう!しっかり手綱握っててくれよ、ご主人様!」
「…お手」
「わん!」
可愛かった。




