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転生1

 目を開けると、そこは銀行の中だった。


「…あれ?」


 俺は銀行の端っこに立っていて、狭い銀行内には沢山の人が棒立ちになっているのが見える。


「なんで?俺は確か…」


 さっきまで俺は…プレイヤーに操作されて全部のアイテムを…。


「そうだ!削除されたはずだろう!?」


 俺は覚えている。俺のプレイヤーが新しい職業のキャラを作りたいという理由で俺というキャラを削除した事。その理由がステ振りの失敗だったって事。他キャラの倉庫と化していた俺の所持アイテムを全部、フレンドのキャラに預けた事。そして…。


「…なのに、なんで生きてるんだ?」


 試しに腕を回したり、軽く跳ねたりして体の調子を確かめる。今までプレイヤーに操作されていた時とは違い、全身の感覚というものが鮮明に感じられた。


「人間になってる?」


 にわかには信じられない事だけど、ベタにほほをつねってみてもしっかり痛い。どういう理屈か分からないけど、削除された俺は人間に転生する事が出来てしまったみたいだ。


「…マジかよ」


 という事は…もうログインされない事にガッカリしなくていいし、後発キャラに圧倒的な戦力差を思い知らされる事も無いし、他キャラのアイテムを保管するだけの日々を送らなくていいって事なんだ。


「…っ~シャァ!」


 思わず雄たけびを上げ、ガッツポーズを取ってしまった。


「…あ」


 一瞬でここが銀行の中だった事を思い出し恥ずかしさが込み上げてくる。しかし、そんな奇行をしていた俺に対する銀行内の人達の反応は…。


「あれ?」


 銀行内の人達は、人によってはなんでそっちを向いているんだという感じで棒立ちのままだった。


「うぇ!?なんだあれ?」


 さらにカウンターの受付の前に至っては、人が重なってキメラのようになっていた。


「…もしかしてこの人達…プレイヤーキャラか?」


 そうだ、俺はこの建物の事はすぐさま銀行だと確信を持っていた。今目の前に広がっている異様な光景にしたって、ゲームの中では当たり前の事だったハズだ。


「この世界は…あのMMORPGの世界だって事なのか?」


 恐る恐る、プレイヤーとおぼしきキャラの隙間をぬってカウンターへ向かう。


「うわっ!」


 もう少しでカウンターに辿り着くというところで、唐突に重なってる人の中の一人が俺に向って歩き出した。


「…え?」


 ぶつかると思って思わず目をつむってしまった瞬間、その人は俺の事をすり抜けていってしまった。


「………」


(ゲームの仕様では確かにすり抜けていたけど、現実にやられるとこんなに心臓に悪いものだったのか)


 だからといって周りの人間をすり抜けて行くような事はせず、俺はようやくカウンターまで来る事が出来た。


「あのーすみません」


 カウンターの向こう側に居る、ゲームのグラフィックそのまんまの職員に声を掛ける。しかし、職員さんは他のプレイヤーキャラ同様に、表情も変えずに何の反応も返してくれなかった。


「…だめか」


 ダメ元で銀行に何か残ってないか確認したかったけど、どうやら人間になった俺にはこの銀行を使う事は出来なさそうだ。


「…となると」


 どうなっているか分からないけど、外に出るしかなさそうだ。銀行の中でこれなのだから、外は一体どうなっているのやら。というか、他も同じような事になっているのなら、生活する事も出来ないんじゃないだろうか?


「ええい、とにかく確かめなくちゃ始まらねぇ」


 なるべく当たらないようにプレイヤーを避けながら出口に向かう。今までポータルのような物で出入りしていた扉を、自分の手でゆっくりと開いていく。そうして開いた外の世界は、ゲームで見ていた世界とは全く異なるものだった。

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