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嫁6

「うめぇー!」


 市場で買った軽食を食いながら、アテナは見てるこっちまで旨さが伝わりそうなリアクションを取ってくれた。


「確かにこれはイケる!普段は外で携帯食だから市場来る事自体あんま無いけど、たまにはこういう昼も良いな!」


 昼ちょっと過ぎの市場はかなり賑わっていて、アテナはゲームでは見れないアルハの街の様子に興味津々だった。おかげでさっきの微妙な雰囲気は流れたのだが、多分コイツも気を遣ってくれたんだと思う。なんだかんだで空気を読める奴ではあるのだ。


「りんごジュースも濃くて旨いな。これはゲームのグラでも旨そうだったけど、実際飲めるとは思わなかった」

「分かる。ゲームで使う時は一瞬だけどさ、こうして味わって飲み食い出来るのは新鮮だよな。つーかいくら回復アイテムだとしても、連打で全部飲み食い出来るっておかしくね?」


 特にステやスキルが揃っていない序盤なんて回復アイテムを使いながら肉弾戦をするしか出来なかった。その時の回復アイテムとしてポーションの他に食べ物や飲み物系のアイテムもあったけれど、普通に考えたらどんな状況なんだと。


「オレは転職した時点で回復使えるようになったからなー…むしろ気になってたのはカロリーの方かも、全部本当に食ってたとしたらカロリーやばくね?お前転生してからそんな戦い方してないよな?オレ、不摂生のデブは嫌いだぞ?」

「してねーしできねーよ。俺が現実でイモ食いながら戦ってる姿想像してみろよ、やべぇだろ」

「…くふっ!」


 アテナは俺が言った通りの事を想像してみたんだろう、一瞬考えた後、吹き出して笑いを堪えている。モデルが俺って事もあるんだろうけど、相当ツボにはまったみたいだ。

 ゲームの時は見下ろし視点で現実感が薄かったけど、やっぱり視点って大事だな。一人称視点になるとそういう現実味の無い事の誤魔化しが利かないんだろう。


(まだツボってら)


 俺はまだうつむいているアテナを眺めながら、バナナジュースを一口分吸う。これもゲーム内であった回復アイテムだけど、実際に飲んでみると本当に旨い。食事についてはほとんどみちのひらきに頼り切りだったけど、新しい店を開拓するのも良いかもしれない。


「そういやさ、魔法使う職業のテクで座りながら移動ってあったろ?あれ現実にやってる姿想像してみ?」


 するといつの間に持ち直したのか、アテナは悪戯っぽい笑みを浮かべながらそんな事を言いだした。

 それは確か魔力回復スキルの仕様の穴をついたテクニックだったっけ?座っている間という条件を満たすために、移動中でも屈伸しながら…。


「ブフォ!?」


 アテナがゲームの時にやっていた動きを思い出し、それを今のアテナがやっている所を想像して思わず吹いた。コイツ…タイミング!


「げほっ!げほっ!」

「悪い悪い、やっぱ何か飲んでる時に言うのが定番かなって」


 モロに気管に入って悶絶している俺を、アテナは楽しそうに見つめている。ほんとコイツ…なんでこんなに悪戯したりからかったりしてくるんだろう。俺のプレイヤーのフレンドは流石にこんな性格じゃなかったハズだ。というか…俺もアテナも、どうしてこういう性格で人間になったんだろうか?


「あー…わり、結構きつそうだな?…怒った?」


 中々むせるのが治まらない俺を見て、アテナは心配そうにそんな事を聞いてきた。だったらやめろと言いたい所だけど、本当になんとなく…アテナが落ち込んでいるような雰囲気を感じて強く言えないという気持ちになる。やっぱり…俺が知っているフレンドの性格と何かが違う気がするのは気のせいなんだろうか?。


「…あー。大丈夫だよ。ただ、なんでお前がそんなに悪戯してくるのかは気になった。お前…そんなキャラだったっけ?」

「………」


(あ…)


 瞬間、地雷を踏んだって思った。俺の言葉にアテナは、目を見開いて信じられないようなものを見たような…無表情とも、なんとも言えないような表情になったからだ。


「あ…」

「悪い悪い!確かにはしゃぎすぎだった!」


 一転、アテナはさっきの表情からうってかわって楽しそうに笑いだした。


「いやほら、ゲームだとチャットでのやり取りだから顔とか声とか…感情ってもんが分かりにくいじゃん?それが今じゃ面と向かって分かるのが面白くてさ、お前のリアクションが良いのもあって調子に乗っちまっただけだ。気ぃ悪くしたならごめんな」

「…はぁ。気持ちは分かるけどほどほどにな」


 アテナに合わせて、俺は無難な返事でこの話題を終わらせる事にした。アテナは表面上は元に戻って笑顔で食事を再開してるけど、何か気持ちを隠しているのは明白だ。ここで問いただすべきか、無かった事にして流すべきか。今の俺は…どちらも選べず中途半端な態度で、アテナに倣って目の前のメシを食う事しか出来なかった。

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