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嫁4

「お疲れ」

「おっ?お疲れさん。今日は早かったな」


 森を抜けて城門まで来たところで、衛兵である「ミナカタ」に声を掛ける。ミナカタは俺が初めてのクエストの時に街の出入りを担当してくれた衛兵で、その縁もあって後日仲良くなった友人だ。基本的に日中に南門の警備を担当していて、商人以外の人の出入りを記録してくれている。ちなみに商人担当の相方は「ミカヅチ」、ちょっとお堅いがミナカタに負けず劣らずの良い奴である。


「えっと…そっちの人は?」


 ミナカタは困惑した顔で俺の隣にいるアテナ示した。森にクエストに行ったのに、こんな美人連れてきたらそりゃあ気になるというものだろう。それについてどう言い訳するかというのは…実は考えて無かった。群生地では概要だけしか話して無かった事を、帰りがてらアテナから根掘り葉掘り聞かれて完全に失念してしまっていたのだ。


「えーっと…」


 どうしようかと思っていると、アテナが一歩前に出て綺麗なお辞儀をミナカタに向ける。


「初めまして。私はアテナ、ナギがいつもお世話になってます」

「ブフゥ!?」


 アテナのあまりの猫かぶりっぷりに思わず吹き出す。何が起きたのか分からないような顔をしているミナカタから、アテナは俺に顔を向けて睨みつけてきた。


「おまっ…唐突な外面ネカマ…やめろっ…ぶふっ」

「お前なぁ…折角誤魔化してやろうってのに」


 一瞬で化けの皮がはがれた所で、アテナはわざとらしくため息をついてまたミナカタに向き直った。


「あー…ナギの腐れ縁のアテナだ。普段は別のところで冒険者やってんだけど、たまたまこっちに来ることがあって偶然ナギに会えたんだよ」

「あー…?えー…?」

「悪い悪い、混乱するよな。こいつの事は俺が保証するし一緒に居るようにするからさ、中に入る許可貰っても良いか?」


 ミナカタは俺とアテナを見比べて少し考え込んだ後、どこか納得したような顔をして小さく頷いた。


「わかった。ナギの紹介なら大丈夫だろう」


 ミナカタは取り出した手帳に何かを書き込み、体を避けて城門を通らせてくれた。


「ありがとうな」

「サンキュー」

「あいよ、ごゆっくり」


 なんかニヤニヤしているミナカタに礼を言い、俺とアテナは城門を抜けて街の中に入った。


「うわぁ」


 そして城門近くの臨時広場、そこにたむろしているプレイヤーを見てアテナはそんな声を漏らす。


「あらかじめ聞いてたけど…実際見るとキツイなこれ」

「…な、俺も最初は似たようなリアクションしてたわ」


 俺の場合はここよりもカオス度合いが高い銀行だったけどな。あの何十人も重なっているプレイヤーキャラは、夢に出る程のキモさだった。


「この世界の人達からは、こんな風に見られてたんだなー…」

「さっきも説明したけど、一応モンスター減らしてくれてる勇者扱いだからな。俺も最初は気にしてたけど、こっち側に立ってみると受け入れられるもんだよ」


 無表情。すり抜ける。棒立ちする。人形の前で重なったりもする…元のゲーム画面を知っているからこそ、現実で見ると嫌悪感が湧いてくるっていうのはよく分かる。

 けど、どういう理屈にしても勇者達が街や住民をモンスターの危険から守っているというのは違いない。タヂカラさん達のような危険と隣り合わせの仕事をする人達の危険が少しでも減っているのならば、受け入れこそすれ嫌悪するのは筋違いというものだ。


「そういうもんか…まぁ、世界平和に貢献してるなら文句はないわな」

「そういうことだ。そんじゃまずギルドまで行くぞ、薬草採取の報告するぞ」

「はいよー」


 そう返事をしたアテナは、おもむろに手を伸ばして俺の手を掴んできた。


「なっ!?」

「コラ振りほどこうとすんな。プレイヤー含めて結構人多いし、はぐれないように手繋ぐぐらい良いだろ?ゲームと違ってマップなんか見れないんだしさ」

「う…まぁ、そうだけど…」


 ワザとなのか天然なのか…中身はどうあれ、こうして現実で触れ合うのにお前は可愛すぎるんだっての。手もめちゃくちゃ柔らかいし…というか、転生してから人の手に触れたのって初めてだったんじゃないか?


「ほーん?こんくらいで照れてんなよ、オレ達教会でチューまでした夫婦だぜ?現実になった今なら、もっと凄い事だって出来ちまうんじゃねぇか?」

「ちょ!?こんな往来で何言ってんだ!?つーか聞きたかったけどお前男?女?どう扱えばいいか分かんないんだけど!」


 そうだ、会ってからずっと気になってた事だ。口調はまんまプレイヤーのフレンドだけど、こうして現実になったお前はどっちなんだよ?男で俺をからかってるだけならまだ笑って許せるけど、精神的に女なのだとしたら…。


「オレはオレだよ。つまんない事考えてないで、いつも通りで良いんだよ」

「っ~…やっぱ、からかってるだけだろお前!」


 嬉しそうに笑いながら手を引っ張って行くアテナに、俺は慌てて歩調を合わせた。コイツの言う通り、折角何の気兼ねも無く話せる奴が隣に居るならばそれで良いのかもな。

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