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すずお君シリーズ

すずお君のぼうけん

作者: 入江 涼子

 昔々、カイドーという国にソルト・ヤー氏という発明家の男性がいました。


 彼には奥様がいて名をサンショー嬢と言います。ちなみにサンショー嬢は白魔女でした。彼女の使い魔でヤー一家のマスコット的存在であるモルモットのすずお君も共に暮らしています。

 ある日、サンショー嬢がソルト氏と一緒に何やら怪しげな薬を作っていましたが。朝早くから取り掛かり夕方近くになって完成したらしいのです。


「……ああ。やっと完成したわ!」


「サンショー。ちょっとずつ材料を集めた甲斐があったな」


「本当にね。これで若返る事ができるわよ。そうだ。試しにすずおに飲ませてみましょう」


 サンショー嬢は目をキラリと光らせてすずお君を見ます。何でか悪寒を感じたすずお君は逃げようと薄暗い家の中を忍び足で進みました。けど悲しいかな。魔女であるサンショー嬢には使い魔の居場所はすぐにわかるのです。見つかってしまったすずお君は仕方なく主夫妻の元に向かうのでした。


『……どうかしまひたか?』


「すずお。ちょうどよかったわ。お薬を作ったから。試しに飲んでちょうだい」


『……ぼ、ぼくはいやでふよ。実験台にされるのはコリゴリでふ!』


 すずお君は必死に首を横に振ります。けれどそれで聞いてくれる主ではありません。夫のソルト氏がにやりと笑いながらじりじりと近づきます。ダッシュで逃げようと玄関に急ぎましたが。ソルト氏は大股で歩き、たやすく捕まえてしまいます。ジタバタ暴れるすずお君にサンショー嬢は近づき、薬が入った小瓶の蓋を開けました。キュポンッと室内に音が響きます。


「……さ。飲むのよ」


『い、いやでふー!!』


 必死に抗議しましたが。小瓶を口元に持っていかれました。これを飲まないと開放してくれない。諦めてすずお君は薬をゴクリと飲みます。二口目まで流し込むとソルト氏が降ろしてくれました。すずお君の身体が黄金の眩い光にたちまち包まれます。ソルト氏もサンショー嬢も痛みさえ感じる光のせいでとっさに両目を閉じました。


 しばらく経ってやっと光はおさまりました。二人が恐る恐るまぶたを開けると。そこには床にへたり込んだ一人の少年がいます。髪は黒髪ですが。こめかみの辺りに茶色と白のメッシュが入った珍しい髪色です。黒いまん丸な大きな瞳に小さいながらもスッと通った鼻筋。白い肌も相まって美少女に見えなくもありません。ちなみに少年は真っ裸でした。


「……あら。あの子は?」


「……サンショー。あの子。もしかしてすずおじゃないか?」


「まあ。そうだったのね。て。早く服を着せてあげないと!」


「わ、わかった!」


「とりあえず。すずお!」


 サンショー嬢は呼びかけます。そしたら少年――すずお君はゆっくりと振り返りました。表情は呆然としたものから怒りのものに変わります。


「……あなたがぼくを人にかへたのでふか?!」


「そ、そうみたいね。ごめんなさいねえ」


「主。ぼくはどうしたら。モルの姿に戻れまふか?」


「……そうね。けど。今は服を着ましょ。私も目のやり場に困るから」


「……わかりまひた。話はその後でふね」


 サンショー嬢は苦笑いしながら背中を向けました。少し経ってからソルト氏が男物の衣服一式を持ってきてくれます。着方を教わりながら衣服を身に纏うのでした。


 一通り服を着てからすずお君はサンショー嬢、ソルト氏と話し合いを再開します。


「……まずは。すずお。この薬の解毒剤はないの。白の大魔女さんなら持っているでしょうけど」


「……そうなんでふか。なら。白の大魔女さんはどこにいまふか?」


「このサホロの町から北に行ったら。惑いの森があってね。その奥に白の大魔女さんは住んでいるわ」


 すずお君はなる程と頷きました。サンショー嬢は立ち上がると奥へと入っていきます。少し経ってから一枚の地図や方位磁石を持って出てきました。


「すずお。白の大魔女さんはここから三日は掛かる場所にいるの。私からのお詫びとして大魔女さんの使い魔を呼ぶわ。その子に案内してもらいなさいな」


「……わかったでふ。ちなみに使い魔さんは名前をなんて言うんでふか?」


「確か。クレアちゃんと言ったかしら。あなたと違って女の子だけどね」


 サンショー嬢は肩を竦めました。どうやらクレアちゃんという使い魔は女の子だと知るとすずお君はちょっと考え込んでしまいます。実は女の子には慣れていません。女性といったらサンショー嬢や似たような年齢の魔女が多かったからでした。接した事があるのはそんな人達がほとんどです。


「わかりまひた。とりあえずは旅の準備をひます」


「ええ。そうするといいわ」


「着替えと。お金と。後はわからないでふね。主、教えてくださいでふ」


 仕方ないわねとサンショー嬢は笑います。ソルト氏と二人ですずお君の旅支度を手伝うのでした。


 麻袋をかつぎ、帽子をかぶります。足は編み上げのブーツを履き、簡素な白いシャツに黒のズボンといった出で立ちです。全部をソルト氏とサンショー嬢が用意しました。旅慣れた二人だからこそ手早くやれたのですが。


「……それじゃあ、早速行ってきまふ」


「気をつけてね。クレアちゃんは後少し経ったら来るから」


「わかりまひた」


 すずお君が頷くと空から何かがいきなり落ちてきました。それは紙切れのようです。サンショー嬢の手がそれを受け止めました。


「あら。大魔女さんからお返事ね。なになに?」


「大魔女さんからでふか」


「うん。えっと。「クレアは丁度今、たどり着いたところだよ。また甘いお菓子をよろしく!」だって。相変わらずねえ」


 サンショー嬢はため息をつきます。するとすずお君の後ろからサクサクと地面の土を踏みしめる足音が聞こえました。振り返るとそこには赤い髪に淡いみどり色の瞳の背が高いすらりとした美女が佇んでいます。瞳は大きくてアーモンドみたいな形をしている女性でした。


「……主の命により参りました。私はクレアと申します。白魔女のサンショー様はあなたでしょうか?」


「ええ。そうよ」


「では。使い魔のすずお殿はどこにおられますか?」


 女性――クレアさんはキョロキョロと辺りを見回します。するとサンショー嬢は人型になったすずお君を手で示しました。


「……すずおならそこにいるわよ」


「……あ。主からはモルモットの姿をしていると聞きましたが」


「いやあ。実は私の作った薬を飲んでしまってね。今は人の姿をしているのよ」


 そう簡単に説明するとクレアさんは目を見開きます。驚いたからのようでした。


「……そうでしたか。なら。仕方ないですね。すずお殿。君が主に用があるのは聞いている。今から案内する故。早速行こう」


「わ、わかりまひた。行きましょう!」


「君。「まひた」じゃない。()()()だ」


 クレアさんに注意されてしまいました。すずお君はちょっとしょげてしまいます。サンショー嬢や外に出ていたソルト氏は苦笑いしながら二

 人を見守っていたのでした。


 その後、やっとすずお君はクレアさんと一緒に家を離れ、道なき道を歩いていきます。てくてくと会話もなしでひたすら先を進んでいました。


「すずお殿。私の事はクレアと呼び捨てしても構わない。君の事も同じように呼ばせてもらう」


「……わかりま……した。よろしく。クレア」


「ああ。これから改めてよろしく頼む。すずお」


 クレアさんはにっと笑いながら立ち止まりすずお君の頭をがしがしと撫でました。ちょっと髪が乱れてしまいましたが。いやな気はしません。しばらくはぽつぽつと話したのでした。


 二人が歩いていると目の前に三頭程のオオカミがいきなり現れます。クレアさんはとっさに前に進み出てすずお君を背中にかばいました。


「くっ。すずお。君は後方支援を頼む。こやつらは私が相手をする!」


「……す、すみません!ぼくもがんばらないと!」


 クレアさんはオオカミ達をにらみつけながらふところから短刀を取り出します。両手に持ち構えました。不意にオオカミの一頭がおどりだし、襲いかかってきます。クレアさんは素早く横向きに切りつけました。オオカミの眉間の辺りに横にまっすぐきりきずができます。


「……ぎゃうん!」


 クレアさんはオオカミの間合いに入り痛さで動けない隙を狙いました。お腹めがけて強くこぶしをめりこませます。くたりとなったオオカミは地面に倒れふしました。残った二頭は唸り声をあげながらも後じさりをします。すずお君はとっさにオオカミめがけて睡眠魔法を放ちました。見事に命中して二頭は倒れます。確認したら寝ていました。


「……すずお。今のうちにこの場を離れよう。気を失わせているだけなんでな」


「わかりました。行きましょう」


「よしっ。惑いの森を目指して行くぞ!」


 二人は急いでこの場を離れます。クレアさんが先頭になって先を進むのでした。


 途中で完全に林の中に入ったのでクレアさんはナタを背中におぶっていた麻袋から取り出しました。それで草や木の枝などをなぎ払っていきます。すずお君は後ろに続きながら進んでいきました。まだ、人型になってから半日と経っていませんが。不思議と違和感がないのです。何故なのかはわからないのですが。こうして夕方近くまで歩き続けました。

 クレアさんはふと空を見上げます。


「……もう日が傾いてきたな。今日はここで野宿になりそうだ」


「そうなんですか。ぼくは何をしたらいいですか?」


「君は荷物の整理と見張り番をしていてくれ。私はたきぎになりそうな枝をひろってくる。後は水も汲んでくるよ」


 クレアさんの指示にすずお君は頷きました。その場に座ろうとしましたが。なんでか、止められます。


「待て。そのまま、座るつもりか?」


「はい。そうですけど」


「……今は人型だろ。せめて倒木や丸太とかの上に座れ。なければ。敷けるものは何かあるのか?」


 クレアさんの問いにすずお君は首を傾げます。それもそのはず、人型の姿で地面にそのまま座る問題性に彼は気づいていません。クレアさんはため息をつくと短刀を仕舞い込みます。そして代わりに皮製の布を出してすずお君の前に敷いてあげました。


「……ほら。敷物だ。せめてこれを用意してから座るように今後はしてくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


「礼はいい。じゃあ。たきぎと水を調達してくる」


 すずお君がうなずくとクレアさんは行ってしまいます。見送るのでした。


 その後、クレアさんは両手にかかえられるだけのたきぎと水の入った皮袋をもって戻ってきます。すずお君が「もどってきたんですね」というとかすかに笑いました。


「ああ。私がいない間、なにもなかったか?」


「はい。なにもなかったですよ」


「そうか。なら。夕食の用意をしよう」


 クレアさんはそういってたきぎをすずお君の前におきます。皮袋もおろすと麻袋から火打ち石を出しました。カチッカチッと何度か鋼で石を打ち、火ダネ用の紙に火花を移します。ボッと火がつきました。それを地面にあるたきぎの近くに置きます。少しずつ火がたきぎにひろがっていきました。


「すごいですね。クレアさんはこういうことはなれているんですか?」


「まあな。主と昔はよくいっしょにこうやってたびをしたものだ。火のつけ方や料理の作り方。いろんなことを教わったよ」


「へえ。白の大魔女さんはなんでもよく知っておられるんですね」


 すずお君が言うとクレアさんは苦笑いします。


「……ああ。長いあいだ、いろんな書物をよんでいたらしいしな。私が使い魔になるまではずっと一人だったと聞いたが」


「……一人。寂しくなかったんでしょうか?」


「あまり寂しいという感覚はなかったんじゃないか。大魔女――ブランカはかなりの人嫌いでな。一人で過ごすのが好きだと公言していてはばからない」


 そう言ってからクレアさんは麻袋からざっこくや干し肉を取り出します。また、鉄製のなべを出してたきぎの上に置きました。水を皮袋から入れて干し肉をナイフで細かくけずります。ポチャンポチャンと水に入る音があたりに響きました。

 次にざっこく、塩にペッパーをくわえて木のひしゃくで混ぜます。


「……何を作っているんですか?」


「ん。ざっこくがゆだな」


「ざっこく。おかゆですか?」


「ああ。一応、味つけはしたが。まずかったら言ってくれてかまわない」


「はあ。そうですか」


 ぽつぽつとしゃべりながらもクレアさんは混ぜる手をとめません。すずお君はそんなようすを見ながらもできあがるまでまつのでした。


 しばらくしてざっこくがゆができあがりました。クレアさんが麻袋から深めのおさらを出してひしゃくでよそってくれます。木さじも出してくれました。受け取ってからカイドー国式のお祈りを神様に捧げます。おさらをよこにおいていましたが。お祈りが終わるとひざにのせて食べ始めました。ペッパーや干し肉のおだしがきいてうすあじだけどなかなかにおいしいとすずお君はおもいます。


「クレアさん。おいしいですよ」


「そうか。口に合ったようならよかったよ」


「はい。おなかもへっていますし」


 そういうとクレアさんはにっこりと笑います。


「わかった。じゃあ、たくさん食べなさい。えんりょはしなくていいからな」


「はい」


「ははっ。ブランカは「もっと味をこくしろ」とよくいっていた。きみとは大違いだ」


 すずお君は苦笑いしながらもざっこくがゆを食べます。クレアさんはほほえましげにしながらそれをながめていたのでした。


 食事がおわると水あびをするようにいわれます。着替えとタオル、石けんをわたされました。けれどすずお君はタオルや石けんの使い方がわかりません。これにも仕方ないとクレアさんはため息をつきます。「今回だけだぞ」と言って一緒に川辺まできてくれました。


「……すずお。まずは服をぬいでくれ」


「わかりました」


「いきなりぬぐなよ。私はうしろをむいているから」


 頷くとクレアさんはすずお君とは反対の方をむきます。その間に服をぬぎました。とりあえず、からだのまえ側をタオルでかくします。


「……もういいか?」


「はい。いいですよ」


 クレアさんはその答えをきいてからこちらをむきました。それでも目は横にそらしていますが。


「じゃあ。水あびのやり方を教えるから。よくきくんだぞ」


「はい」


「まずは。着替えはぬいだ服に近いところにおいておいたらいい。そして。タオルや石けんもせんめんきの中に入れて川辺の近くにおく。次に。からだだが」


 そう言ってクレアさんは川辺をゆびさしました。


「この中に入るんだ。そしてまずはからだを水で濡らす」


「……冷たいですけど」


「仕方なかろう。お湯を用意してやりたいが野宿中なら。なるべく水はだいじにつかいたい」


「わかりました。水でからだを濡らせばいいんですね」


「ああ。ぜんしんくまなく水で濡らせよ」


 うなずいてすずお君はゆっくりと川の中に入ってみぞおちあたりがつくところまできます。言われたようにかたや首すじなどに水をなんどもかけていきました。最後に思いきってかるくもぐりもしてみます。すぐに川からじょうはんしんを出すとまたかみをかるくすすぎました。


「……それくらいでいいだろう。こちらに来なさい」


「……はい」


 すずお君はよばれたので近くにいきます。クレアさんは石けんやタオルを両手に持っていました。だまっててわたしてきます。うけとるとこういってくれました。


「次に。石けんであたまを洗え。といってもわからないだろうから。石けんのあわ立て方から教える」


「はあ」


 クレアさんはじっさいに石けんをひったくると。両手で水につけて何回かこするとあわが出てきます。それをみてすずお君は目をまるくしました。


「石けんはこうやってあわ立てる。やってみろ」


「はい」


 先ほどとおなじようにすずお君は石けんをうけとりあわ立てました。クレアさんは「もういいだろう」といって石けんをまたひったくります。すずお君はあわをかみのけにためしにつけてみました。


「……そのまま、かみやはだをゆびさきでこするんだ。できるか?」


「やってみます」


 うなずいてかみやじはだをゴシゴシとこすります。ぜんたいてきにまんべんなくしてから川の水につかろうとしました。そうしたらクレアさんが川の中に入ってきます。


「本当になんにもしらないんだな。せんめんきでながしてやるから。あわを落とすんだ」


 そういうとざぁっと水をかけてくれました。すずお君は両手でかみのけなどをこすります。なんどかくりかえしたらクレアさんは「きれいになったぞ」といってくれました。


「さいごはからだだ。せなかは私が流してやる。あとはじぶんでやれるか?」


「……はい」


 クレアさんはタオルですずお君のぬれたかみをゴシゴシとふいてくれます。そうしてからてわたしてきました。うけとって石けんをタオルにこすりつけます。なんどかしてからてわたし、またあわだてました。クレアさんは首からあらうようにいいます。いわれるがまま、くびやかたなどまえがわをあらいました。せなかはクレアさんがねんいりにあらってくれます。あしなどもあらってからまた、せんめんきであわをながしたのでした。


 やっと水あびが終わります。かみやからだを大きなタオルでふいてもらい、すずお君は衣服をみにつけました。


「……すずお。あちらのたき火のところにもどっていてくれ。私も水あびをする」


「……わかりました」


 すずお君はうなずきました。たき火のある場所までもどったのでした。


 すずお君はすなおにクレアさんが戻るまでまちます。ただ、一人だとひまでしかたありません。じっとほのおを見つめながらふうとため息をつきます。


(……ぼくが人になってから。やっと一日がすぎようとしてまふ。なんだか、すごく長い一日でひた)


 そう、すずお君が人の姿になってからまだ一日です。されど一日といえました。白の大魔女のブランカさんのところまでは片道だけでも三日はかかるときいています。つまりはまだ二日かかるのですが。すずお君はまたため息をつくのでした。


 クレアさんが水あびを終えて戻ってきます。すずお君はうとうとしかけていました。


「……もどったぞ。すずお。ねているのか?」


「……はっ!ク、クレアさん?!」


「ああ。ねむたかったようだな。もうねるか」


 クレアさんはほのかにわらうと麻袋から寝袋をとりだします。それをひろげると中に入るようにうながしました。意外となかなかにあたたかくてすずお君はおどろきます。けれどねむけには勝てません。まぶたが重くなりねむってしまっていました。クレアさんがやさしくあたまをなでてくれていたのですが。それにも気づかずにゆめの世界へといざなわれるのでした。


 よくじつにすずお君はクレアさんに起こされて目をさまします。すでにお日さまは高くなっていて朝方のななのときだといわれました。クレアさんははブラシやハミガキ粉、タオルに木のコップをもたせてくれます。またついてきてもらい、川辺ではみがきのやり方をおしえてもらいました。クレアさんはさくやとおなじようにていねいにしどうをしてくれます。すずお君はおっかなびっくりながらにもはブラシに粉をつけて木のコップでくんだ水にひたしました。そうした上ではをみがきます。ゴシゴシとするうちに粉があわ立ちました。すずお君はいっしょうけんめいにはみがきをします。はの表がわやおくばなどもみがきました。ぜんたいをおわらせたらコップにある水で口をゆすぐようにいわれます。クレアさんはりょうてで水をすくうと口にふくみ、じっさいにゆすぎました。すずお君は見よう見まねで水を口にふくみ、おなじようにします。そしてぺっとしました。なんどかすると口の中がすっきりしています。

 あわがついたままのブラシやコップをすすいでから近くにおくと。かおもあらいました。タオルをてわたされてかみやかおをゴシゴシとふきます。


「……ん。ひととおりはおわったな。じゃあ、あとは。これを使え」


「……なんですか?」


 クレアさんがさしだしたのは木で作られたいわゆるブラシでした。せつめいしながらクレアさんはすずお君にわたします。とりあえず、いわれたようにかみを整えました。すいめんを見るとグシャグシャだったかみはきちんとなりみちがえています。クレアさんはかたを軽くたたくとすずお君がつかった道具をてばやくかたづけました。

 その後、かるく朝ごはんを食べてしゅっぱつしたのでした。


 そうして昼ごろに休けいをとりかるくまた食べたら。あるくのをさいかいします。ですが。やはり森の中にはきけんな生きものがひそんでいました。すずお君はクレアさんと力を合わせながら気を失わせたり追いはらったりします。

 夕方になったら早めにのじゅくのじゅんびをはじめました。クレアさんがたきぎになりそうな枝をひろってきます。すずお君は近くに川があるのはわかっていたので水をくみにいきました。皮袋にてばやく入れると早足でもどります。


「……もどったのか。どうだ。あぶないことは何もなかったか?」


「なかったですよ」


「そうか。なら良かった。さ、チーズをあぶってパムではさんでみたんだ。食べたらいい」


 クレアさんは皮袋をうけとるとパムをわたしてくれました。すずお君はうけとってからふうといきをかけながらかじりつきます。火であぶったパムは熱いけど外がカリッとしていて中はしっとりしていました。はさんであるチーズはトロッとしていながらもしお味がきいていてかなりおいしいとすずお君はおもいます。


「……おいしいです」


「そうか。まだあるから。たんと食べるといい」


「はい」


 うなずいてからまたもくもくと食べます。しばらくは静かなときが流れたのでした。


 朝方になり身じたくをすませて二人はしゅっぱつします。後半日もしたら白の大魔女さんの住む家にたどり着く予定でした。すずお君もクレアさんもひたすらに歩をすすめます。昼をすぎて夕方近くになったころにやっと森のおくにあるいっけんの家にたどり着きました。


「……ここが白の大魔女の住む家だ。ブランカ!」


「……はいはい。聞こえているよ。帰ってきたんだね。クレア」


「ああ。ただいま、もどった」


 クレアさんがいうと家にあるげんかんのドアがひとりでにひらきます。中からせの高い真っ白なこしまで伸ばしたかみを後ろにたばねた一人の女性が出てきました。近くまでくるとぎん色のきれいなひとみがいんしょうてきな美女があらわれます。はだも白くスタイルもよいすらっとした美女はクレアさんにわらいかけました。


「……クレア。この男の子がすずお君かな?」


「そうだ。確か、白魔女のサンショー殿が人にへんしんしてしまう薬をこの子にのませたそうでな。ブランカも聞いているだろう」


「ええ。聞いているわ。まさか、サンショーちゃんがそんなことをね。すずお君だったかしら。さっそくだけど。元のすがたにもどれる薬を作ったから。中に入って」


 美女――ブランカさんはそういうと中に入っていきます。クレアさんは手まねきをしました。すずお君は後に続くのでした。


 そうしてブランカさんはみどり色の苦い薬をてわたします。これが元のすがたにもどらせてくれるとブランカさんはいいました。仕方ないのですずお君はいっきのみをします。


「……に、苦い」


「……苦いけど。こうかはバツグンよ」


 味にもんぜつしているとしだいにすずお君のからだが光につつまれました。辺りにまばゆい光があふれてブランカさんやクレアさんはあまりのまぶしさにまぶたをとじます。しばらくして光はおさまりました。


『……あ。もどれたでふ!』


 するとそこには黒いけに白や茶色のけがまじったいっぴきのモルモットがちらばった服の中にうもれています。ブランカさんやクレアさんはおどろきながらもモルモット――すずお君の近くに行きました。


「あ。君が本当のすずおか。改めてよろしくな」


『よろしくでふ。クレアたん』


「ああ。けど。そろそろ君をサホロのまちに帰さないとな」


 クレアさんがいうとブランカさんがにっこりとわらいながらステッキをもってこういいます。


「あら。それなら大丈夫よ。てんい魔法で帰してあげるわ」


『……そ、そうでふか』


「ええ。すずお君の服は後でクレアにとどけさせるから。さ。いくわよ」


 すずお君は仕方ないのでりょうめをとじました。ブランカさんがじゅもんをとなえます。


「……ラ・デルク・ルナ・エスティ・リア……」


『……ぶじに帰れまふように』


「……かのものをあるべき場所にもどしたまえ。テレポリート!」


 たちまち、すずお君のからだは真っ白な光につつまれます。すずお君はふゆうかんやあまりのさむさに声なきひめいをあげたのでした。


 りょうめをあけたら。なつかしいうすぐらい家の中にいました。けれどそこにはぽかんと口をあけてほうしんしているソルト氏と目になみだをうかべて立ちつくすサンショー嬢のすがたがあります。


「「……す、すずおーっ!!」」


 二人はすずお君のすがたを見つけると走ってこちらにやってきました。ぎゅうぎゅうと抱きしめられながらすずお君はしばらく涙涙の再会をよろこんだのです。


 それからはすずお君はおだやかな日々をすごしました。クレアさんが服を届けにきてくれてからはブランカさんの家に遊びにいったりもします。サンショー嬢やソルト氏もいっしょでした。じつはブランカさんはサンショー嬢のおししょう様でもあったのです。これにはすずお君もおどろきましたが。

 こうしておだやかでありながらもにぎやかでもある中、すずお君は使い魔として今日も役目をこなすのでありました。


 ――めでたしめでたし――


 挿絵(By みてみん)


 ↑相互ユーザーさんの唄詠い様に頂いたFAで主人公のすずお君です。上側はキャスケットに半パン姿、下側は序盤の場面を描いたとの事でした。

 




 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 緩急のある流れで、あっという間に読み終えてしまいました。 文字数の多さに気付かなかったくらいです。 強引に薬を飲ませられ、しかも解毒剤がないと!! はだかで怒る少年すずお君。 『ごめんな…
[良い点] すずおくん、もふもふ姿のときの喋り方すごく可愛いです(*´꒳`*) 人の姿になってもお風呂も歯磨きもよくわからないものね。素直に学ぶところが可愛い。 薬を飲まされちゃったのは災難だったけど…
[良い点] すずおくんかわいいです。 でふまふ調がモルモルしくてかわいいです……まふまふ。 ほのぼのした、いいおはなしでした♪ [一言] 美少年水浴びシーンにもじもじなんかしてません(〃ノωノ)キャー…
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