1、出会い
「ねえ、さっくん」
「なあに?おかあさん」
「…さっくんは嫌だなって気持ちになる時あるでしょ?」
「うん」
「その気持ちはさっくんがこれから生きていく上でとっても大事な気持ちになるから、絶対に忘れないで」
どうしたんだろ、おかあさん。つらそう。なきそう。
「でもその気持ちを顔とか言葉とかに出しちゃ駄目よ。悪い人に見つかっちゃう」
「わるいひと?」
「そう悪い人。嫌な気持ちや辛い気持ちは心の底に隠すの。笑って、悪い人に見つからないようにするの」
「うーん…よくわかんないけどわかった!」
「あははっ、そうだね。今はそれでいい」
おかあさんわらってくれた!うれしい!
「さっくん、かくれんぼしよっか」
「かくれんぼ!やる!」
「うん。じゃあ見つからないところに隠れてね。絶対に声も物音も出しちゃダメ。出てきちゃダメだからね」
「ぼくそんなばかじゃないよ!んじゃかくれるー!」
「よし、じゃあ数えるよー」
おかあさんがかずをかぞえてる。ぼくはおしいれのなかにかくれる。こえもださないでじっとしてる。
おかあさんがかずをかぞえてるこえがきこえない。でもおかあさんがあるくおとがしない。どうしたんだろう。
ぼくはおかあさんとのやくそくをやぶっておしいれをちょっとあけた。おかあさんがいた。
化け物に魂を吸われるお母さんを。
「おかあ!……さ…ん…」
目が覚めた。いつもだ、いつも同じ昔の夢を見る。
「おはよう咲也くん。また昔の夢見たの?」
「…おはようございます、直子さん」
「気分が落ち着いたら、下に降りてきなさい。朝ごはんの準備出来てるから」
「分かりました。ありがとうございます」
僕の名前は三条咲也。高校2年生のもさい男だ。イケメンでもなく、かと言ってカワイイ系の顔でもない地味めな童顔で背だって高くもない。髪も天パである。
そして声をかけてくださった女性は叔母の三条直子さん。とても明るくていつも笑顔いっぱい、例えるなら魔〇の宅〇便のおそ〇さんのような人だ。両親がいなくなった僕を引き取ってくれた。
「ご馳走様でした。行ってきます」
「行ってらっしゃい!気をつけてね。特にあいつらには」
「…はい」
この国には2種類の人間がいる。それは僕達『ただの』人間と、『負の感情を持つ人間の魂を喰らう』人間。
後者をこの国ではこう呼ぶ。
『魂食者』と。
「ねえ見た?今日のニュース」
学校に着いたや否やキンキン声の女子達が大きい声で友達と話している。
「見た!魂食者のやつでしょ。また魂抜かれたみたいな死体が出たって」
「怖いよねえ。でもさ、実際自分の周りで起きてないと実感ないけどね」
「それな!怖いけど、どっか他人事っぽくなるんだよねえ」
それが普通だ。自分の身近で起きないと自分とは関係ないと他人事のようになる。それが人間だ。
でも僕は他人事に思ったことは無い。何故なら実際にこの目で見た。お母さんが魂食者に喰われるところを。
それを叔母の直子さんは知っているから、朝も僕にあんなことを言ったのだ。
「おは、三条!」
「おはよう」
挨拶はするし、遊んだりもする。普通、普通の高校生。だけど、友達って言っていいのか分からない。心の底から気を許せた試しがない。でも遊ぶ。誘われるから遊ぶ。だから陽キャでも陰キャでもない真ん中の位置にいる。
気楽なもんだ。こんなにへらへらして生活していけるなんt…隠せ。危ない、この負の感情を表に出したら喰われる。心の底に隠せ。お母さんに言われたんだ。笑って、見つからないようにするんだ。
でも、この日の僕はなんかおかしかった。負の感情が段々出てくるのだ。
「ジュル…だだ漏れですよぉ、あ・な・た♡」
黒髪のロングですらっとしている綺麗なお姉さん。ただ目ん玉を血走らせて、先の尖った長い長い舌を持っていなければ。
魂食者だ。
僕は今日、命日だったからあの夢が鮮明に見えたのかな。ごめんね、お母さん。お母さんとの約束破っちゃった。今からそっちに行くね。
「あんらぁ、抵抗しないのねぇ。いい子♡ではではいただきまー」
ザシュ…ボトッ
…何が起きた?僕は死ぬ気で、あいつの舌が伸びてきて…
あいつの首が一瞬で無くなった。
呆然と立ち尽くす僕に近づいてきた人が1人。
「おい、なんで抵抗しねーんだよ。死にてえのか」
同じ高校の制服を着たセミロングの女の子。右手には日本刀のようなものを持っていて、その刀はあいつの血で濡れていた。